水晶と石英、人工と天然

天然水晶の見分け方。エンハンスメント(改良)とは美しい色を求める人間の欲求が産み出した技術。

古くは玻璃と呼ばれた水晶

水晶。六角柱状の形をなし、透明ないしは半透明の鉱物で、二酸化珪素(SiO2)の結晶化したものです。
古くは玻璃(はり)と呼ばれて珍重されました。
古代のギリシャ人は透明な水晶を「氷の一種」とみなし、「雪が度を越して強く凍結したため固化したもの」(プリニウス博物誌)と考えていました。
水晶の英語「rock crystal」はギリシャ語の氷「krystallos」に由来しています。

二酸化珪素を主成分とする鉱物を石英、クォーツ(Quartz)と呼びます。
石英の中で美しい結晶体のものを特に「水晶」と呼びます。
同じ石英のグループで半透明なものを玉髄(Chalcedony)、瑪瑙(Agate)※玉髄の中で縞模様があるもの、不透明なものは碧玉(Jasper)と呼ばれます。
オニキス、カーネリアン等は玉髄の一種です。

砂漠の砂は石英が主

石英は身近でありふれた鉱物です。石英は多くの岩石に含まれています。石英はモース硬度7と固いため、岩石が風化して、砂になると石英が多く残ります。
砂漠の砂は石英が主です。
地球を構成する元素のNo.1は酸素で46.6%、No.2は珪素で27.6%です。
これらの化合物である石英は高温高圧に保たれた深い地中の中で長い歳月をかけて様々な色、形に姿を変えるのです。

石英は本来無色透明の鉱物です。自然界の様々な偶然によって微量の鉱物が混じったとき、その鉱物の影響で美しく発色します。
アメジスト(紫水晶)、シトリン(黄水晶)の発色は鉄イオンが関連しています。
美しい発色をした石英、水晶は装飾性と希少性から無色透明の水晶より高値で取引されます。

石英、長石を原料とするガラス

ガラスの主成分も二酸化珪素です。
岩石中に含まれていた石英、長石が風化して海岸や川底に堆積した白砂を原料とします。
不純物を除き、高温で溶融し、液体状態になったものを冷却することで作られます。
ガラスは人工的に銅、鉛、マンガン、クロムなどの金属を加えることでそれぞれ独特の色を発色します。

水晶、石英は装飾品だけにとどまらず、科学技術のあらゆる領域で活躍しています。
電子時計の中で時を刻んでいるのは水晶の振動子です。
水晶の結晶に電圧を加えると極めて正確に振動する性質を利用して時計の針を回します。

光ファイバーのコアには石英ガラスが使われています。
耐食性、耐熱性にすぐれ、透明度が高い性質を利用し、情報を伝送します。

占いに使われる玉は溶融水晶

石英ガラスは水晶を溶融、冷却したものです。
水晶は自然の状態ではインクルージョン(内包物)があります。
そのため溶融し、精製して高純度水晶(溶融水晶/溶解水晶/練り水晶)を作ります。
この技術は装飾品の水晶にも用いられています。

例えば占いに使われる大きな透明の水晶玉は溶融水晶です。
天然水晶であれば結晶生成時にキズ、インクルージョンが生じますし、大きな結晶は稀有です。
そのため溶融水晶が使われます。
見た目が非常に美しく、需要も多いのですが、溶融し再構築された水晶は「人工水晶」と呼ぶべきかもしれません。

溶融アメジスト 逆光撮影
溶融アメジスト 逆光撮影
溶融アメジスト 順光撮影
溶融アメジスト 順光撮影
溶融アメジスト 内部撮影
溶融アメジスト 内部撮影

無色透明の石に染料を浸透させた着色水晶

アメジスト(紫水晶)などが無色透明の水晶より好まれ、装飾品として用いられることから、無色透明の石に染料を浸透させて着色することがあります。
天然の石なのでインクルージョン(内包物)もあり、一見判別しにくいのですが光に透過させると着色した痕跡を見ることができます。
無色透明の石をそのまま染料に付けても着色はしません。ガラスを染料に付けても着色しないのと同じことです。

着色の方法は、まず石を加熱して膨張させた後、冷たい染料の中に浸します。
石は急激な温度の変化によって細かいヒビが入ります。
染料は毛細管現象(※細い管状物体の内側の液体が管の中を上昇(場合によっては下降)する現象)によって細かいヒビの中に行き渡ります。
以上の方法によって無色透明の石が色鮮やかな石に生まれ変わります。
着色した石には染料が浸み込んだ血管のような筋と色たまりを観察することができます。

着色アメジスト 逆光撮影
着色アメジスト 逆光撮影
着色アメジスト 順光撮影
着色アメジスト 順光撮影
着色アメジスト 内部撮影
着色アメジスト 内部撮影
天然アメジスト 逆光撮影
天然アメジスト 逆光撮影
天然アメジスト 順光撮影
天然アメジスト 順光撮影
天然アメジスト 内部撮影
天然アメジスト 内部撮影

本来備わっている性質を引き出すエンハンスメント

熱処理や放射線処理を行うことで色を変化させる方法もあります。
地中内部で起こりえる変化を人為的に起こす方法で、本来備わっている性質を引き出してやることから、上の着色とは異なり一般的には天然とみなされる場合が多いです。
これはエンハンスメント(改良)と呼ばれます。

特にカーネリアンの熱処理は古くから行われており、エジプトの遺跡からは熱処理されたカーネリアンが発見されています。
カーネリアンの赤味は微量に含まれる鉄分が影響しています。
熱処理することで鉄分が酸化し、色が濃くなります。

約1000~2000年前のアンティークビーズのカーネリアン

シトリン(黄水晶)は自然界には希少のためアメジストを熱処理して色を変化させます。
また無色の水晶に放射線処理をしてシトリンに変化させたものもあります。

このような処理は美しい色を求める人間の欲求が産み出した技術です。
石によって異なりますが流通しているもののほとんどが処理を経ている石もあります。

天然シトリン
天然シトリン(黄水晶)
着色シトリン
アメジスト(紫水晶)を熱処理したシトリン(黄水晶)

ターコイズはステビライズドで耐久性向上、退色防止

ターコイズを例に挙げると、ターコイズは天然の状態では耐久性に乏しく退色しやすいため樹脂を浸透させる含浸処理を行います。
これはターコイズの場合ステビライズド(stabilized)と呼ばれています。
この処理によって強度を増し、美しい色を保つことができるのです。

天然ターコイズ
天然ターコイズ
ステビライズドターコイズ
ステビライズドターコイズ
ステビライズドターコイズ 研磨面

錬金術師のあくなき欲求

約2000年前、ローマのプリニウスが残した「博物誌」に次のような記載を見ることができます。
「宝石の真贋を見分けるのはきわめて難しい。(中略)わが国の権威者の論文で、染料を用いて、水晶で緑玉(※エメラルド)、その他の透明で明るい色のある宝石を作るとか、紅玉髄(※カーネリアン)で紅縞瑪瑙(サードニクス)をつくるとか、同じようにあれこれの石で他の宝石を作る方法を記述したものがある」

質的に劣る物質に人為的な力を加え質を高めるという行為はプリニウスの博物誌からもわかるように、古代より行われていたようです。

古代人は不思議な輝きや色、形を見せる石を自然の力と神秘が結晶化したものと考え、神秘的、超自然の力があることを信じて疑いませんでした、
中世ヨーロッパの錬金術師は化学手段を用いて卑金属から貴金属への錬成を試みました。※卑金属は貴金属の出来損ないと考えられていた。
今日の私たちには荒唐無稽な夢のように思われます。
往時の錬金術師は鉱物にとどまらず、人間の魂や肉体すらもより完全な存在に錬成できると信じていました。

彼らは物質をより完全な状態に導くもの-「賢者の石」を求めて実験を繰り返しました。
錬金術の「より完全な存在へ」という欲求は様々な発明と発見を生み出し、科学と技術の進歩につながったのです。