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「アブシジン酸(ABA)はミトコンドリア毒なので玄米食には注意が必要である。」という誤解

植物ホルモンの一種として発見された「アブシジン酸 abscisic acid(ABA)」は、苔類、緑藻、藍藻、一部の細菌をはじめ、野菜や果物、穀類など植物の体内全体に分布しています。
「アブシジン酸有毒説」がインターネット上に散見されるのは、非常に高濃度なアブシジン酸を培養細胞に添加すると、細胞内のミトコンドリアという器官に機能障害が起きたというイン・ビトロ(人為的にコントロールされた環境下)での実験の報告データが曲解されてきた可能性が考えられます。
しかし、アブシジン酸が健康被害を及ぼすという医学的な報告はなく、玄米食をする程度で体内のアブシジン酸が高濃度になることは理論的にあり得ません(下表参照)。
また、2021年11月に食品安全委員会からアブシジン酸についての安全性が公表され、国際機関等の評価によっても健康を害するリスクがないことが証明されています。
それどころか、アブシジン酸は、いまや機能性ファイトケミカル(植物栄養素)の一つとして、血糖値の上昇を緩やかにし、健全な糖代謝やストレス反応の調整をサポートすることが知られており、米国ではアブシジン酸を含む植物性の食事を増やすことが推奨されているほどです。
なお、食事によるアブシジン酸の推奨摂取量(297μg/日)に対して、厚生労働省の国民健康・栄養調査の食品摂取量から予測した平均摂取量は134μg/日、その他の限られた報告では農産物由来のアブシジン酸の一日当たり推定摂取量は350.7μg/日というデータがあります。
ちなみに、もしアブシジン酸の過剰摂取で生命を脅かすとしたら、いまの食事の25万倍を超える量を摂らないといけない計算になります。

対象外物質評価書 アブシシン酸 令和3年(2021年)11月 食品安全委員会資料10-2別紙2及びZocchi, E et al., Abscisic acid: A novel nutraceutical for
glycemic control. Front. Nutr. 2017, 4, 24.における数値データをもとに本表を作成。

《国際機関等におけるアブシジン酸の評価》
国環境保護庁(EPA)における評価
アブシジン酸は植物成長調整剤として 2010 年に評価されており、毒性がないことから健康へのリスクは無視しうるとされ、急性及び慢性参照用量は設定されていません。(参照EPA:S-Abscisic Acid、Biopesticide Registration Action Document (2010))

オーストラリア農薬・動物用医薬品局(APVMA)における評価
アブシシン酸は自然界で多くの果実、野菜及び種子に含まれており、これらの食品から自然に摂取されていることから、アブシジン酸の許容一日摂取量(ADI)及び急性参照用量(ARfD)は設定不要と評価されています。(参照APVMA:Public release summary on the evaluation of the new active s-abscisic acid in the product ProTone SG Plant Growth Regulator Soluble Granule (2010))

欧州食品安全機関(EFSA)における評価
アブシジン酸は植物成長調整剤として 2012 年に評価され、許容一日摂取量(ADI)13.6 mg/kg 体重 /日が設定され、急性参照用量(ARfD)は設定不要と判断されています。(参照EFSA:Conclusion on the peer review of the pesticide risk assessment of the active substance S-abscisic acid. EFSA Journal, 11(8), 3341 (2013))