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コラム
TAKAのボルドー便り


■TAKAのボルドー便り■

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57.完熟と過熟との挟間にみる人間模様
メルルの悲しい春

季節は矢のように過ぎ去る、此所、ボルドーです。
甲州きいろ香が春にリリースされて、心はまだ春の香りを追い求めていると言うのに、暑苦しい日々がそれを妨げようとしています。そうですね、もう季節は夏。
でも、今日は少しだけ春の話です。

私が良く散歩コースで出かける、ボルドー大学の敷地内のあるドングリの木にメルルが巣を架けているのをみつけました。一目みて、卵を暖めていることがわかります。よし、このメルルの雛の成長記録をとろう、遠くから写真をとろうと、楽しみにしておりました。
が、しかしそれから2、3日していってみると、卵をあたためている筈の親鳥の姿がみえません。しばらく遠くから見守っていましたが、帰ってはきませんでした。翌日もやはりお留守。そこで思いきって手を伸ばして巣の中を一枚パチリ。
そこには卵も、卵のかけらも写し出されてはいませんでした。きっと人間にいたずらされて、卵をもっていかれたのでしょう。鳥にだってライフサイクルがあります。交尾して、巣をつくり、卵を産みそれを暖めて、雛に餌をあたえるという一連の動作を途中で妨げられれば、卵を持って行かれた悲しさもさることながら、体調を崩してしまうことでしょう。来年はもっと高いところに巣をつくらなければと思っていてくれればいいのですが・・・。

きいろ香へのご批判

さて、春にリリースされた”甲州きいろ香”では皆様の格別なご支持を頂戴し、大変高い評価をうけましたこと、お礼申し上げます。今日まで、ネットでの書き込みを中心にしたきいろ香への評価、批判、疑問、賞賛等々のあらゆるご意見を受け止めてまいりました。
私もきいろ香の開発にかかわった人間の一人として、お褒めの言葉をいただければ嬉しいですし、批判をたまわれば気落ちもいたします。
特にそれが適確でなかった時は無念の気持ちしか残りません。心ない人の批判を放置すれば、それが正道に変身してしまう世の中であるとは思いたくありませんが、今お話すべき時期であると考え、ワインフレーヴァー研究者、Takaとして、甲州きいろ香について、語らせていただきたいと思います。

ワイン造りは完熟したブドウを使用すべきであるのにきいろ香は使用したブドウが極端な早摘みで未熟果であり、香りの為に味を犠牲にしたという書き込みが多い事におどろかされます。
メールをたどっていけばこのコンセプトを煽動したのは誰であるかはわかるのでしょうけれど、それは私の興味ではありません。本来の事実を皆様にお伝えすることが大切だからです。
但、このような人を落とし入れる策略ともいえるようなお考えに触れる時、ワインは情熱だけではつくれないという現実に引き戻されます。

完熟の定義とは

完熟の定義ってなんでしょう。
では逆に未熟の定義は簡単かもしれません。果実は甘く熟成していきます。柿、桃、リンゴ、そして勿論ブドウ等、果実を思い描いてみてください。最初は青臭く、すっぱいのですが、ある時期から糖を貯え始めます。一般には糖というのは代謝のエネルギーの源ですが、これを使わずに貯えてくれるおかげでフルーツは甘いのです。この自然の恵みに感謝しなければなりません。糖の蓄積が不十分で、酸度が高く、青臭ければ誰でも容易に未熟であると判断できます。
ワインを造る為に醸造家は糖度の高いブドウを欲しがります。当然の要求です。けれども溌剌としたワインを得る為にある程度の酸度も必要とします。ですからこの両者のバランスで収穫が決定されることは周知の事実です。けれども糖度の上昇を待つ間、ブドウは必ずしも熟成過程にあるとは限りません。酸度の低下も心配ですがそこではブドウが老化していく場合だってあるわけです。
ブドウの収穫は貯金とは違います。待てば待つ程利子が増えるというわけではありません。利子が減ることだってあります。それはたとえば糖度の上昇を待っている間に醸造にとってマイナスになる要因が生じてくるような例です。
ですから大切なことはブドウの“生理学的”な成熟の頂点で摘んでやる事が大切です。その頂点は糖度の頂点と一致するとは限りません。それを過ぎれば完熟どころか、過熟のステージにはいっていきます。
人間の年齢と体力、そして財力の関係にも似ています。若いころは体力があっても金がない。壮年になれば貯えはあるけれど、体力が衰える・・・。私の場合はいつまでたっても糖度は上がらないのに、酸は落ちる一方ですが・・・。余談でした・・・。

生理学的成熟

どこまでが完熟で、どこからが過熟かということについては人によって意見が別れるでしょう。
甲州は糖度の上昇が緩慢であり、収穫は必然的に遅れがち、という現状。また見た目は『おとなしくしている』ブドウなので(つまりは糖度があるところでプラトーになる)、他の品種の仕込みが優先的に行なわれ、このおとなしいブドウは後回しにされていたことも収穫時期が遅れている原因でしょう。
ところがこのおとなしいと思われていたブドウの中身を覗いてみれば香りのプレカーサーの動きも含めて、いろいろな成分の大変動がみえたのです。そこで甲州きいろ香の場合はブドウの生理学的な「完熟」を待ち(つまりは青臭い匂いのパラメーターのひとつであるメトキシピラジン量がゼロであることを確認後)収穫をした経緯があります。
それが9月の中旬であり、甲州としては誰もが行なわない “早い時期”であったのです。私個人の意見ではこれは“適熟期での収穫”であったと考えています。では10月中旬に摘んだワイナリーは遅摘みか、と問われればそれは私が答えるべきことではありません。確か香りのプレカーサーの視点からみれば山梨の多くのワイナリーが遅摘みであるとはいえます。しかしその時期で摘んだという、そのワイナリーのコンセプトに敬意を払うべきであり、どのような時期であってもそのワイナリーにとってはそれが“適熟期での収穫”であった筈です。

甲州ブドウとは逆の例がフランスのいくつかのブドウ品種でみられます。潜在アルコール度数が 12.5度になってもブドウは熟していないのです。例えばジュランソン地方のプティ・マンセン種のブドウは果粒が小さく、糖度があがりやすいブドウです。甲州からしてみれば羨ましいのですが、このブドウが生理的成熟に達するときはかなりの糖度を持つようになります。
ですからこのブドウ品種から辛口白ワインをつくることは困難です。糖度だけでは“適熟期”は掴み得ないことをご理解ください。また完熟とは糖度の頂点を意味しないことも想像に難くないでしょう。甲州ブドウの場合、完熟を謳い文句にするご利益は商業上の戦略にすぎません。なにも言わないワイナリーでも“生理的完熟”でブドウを収穫する事は自明だからです。それはワイン造りの基本ですし、基本姿勢ですから・・・。

ソーヴィニヨン・ブランのコピーか?

甲州ワインからソーヴィニヨン・ブランにも含まれているある種のイオウ系香りの物質の存在が確認されましたが、それだけで甲州はソーヴィニヨン・ブランに似ているとは申せません。実はこの香りの物質はその量を問わなければほとんど全ての品種のワイン中に存在します。
世界中のワインの香りの研究者がこのチオールの測定をして報告しています。ボルドー・ルージュ、リオハ、スイスのヴァレザンヌ、カナリーの地方品種、などなど。
最初にソーヴィニヨン・ブランから発見した私としてはいささかうんざりしているところです。それが自分自身で甲州にもある!といって不本意に宣伝してしまった・・・。しかし甲州にとってはこの香りの物質は救世主となり得るかもしれません。だからといって甲州がソーヴィニヨン・ブランと同じアロマ構成になるという保証はどこにもないし、甲州をソーヴィニヨン・ブランに似せる、という意図もありません。
ただこの香りの物質は甲州の品種香を影で支えて助けると考えています。ただ、現時点では甲州の真のポテンシャルを誰も知らない筈であり、これからそれをどのように引き出すかという過程で、ソーヴィニヨン・ブラン側によったり、別の形に姿をかえたり、と変遷していくのではないでしょうか?

先日、デュブルデュー教授と日本の甲州についての今年度の戦略について話し合いました。二人の意見は同じで、”生理学的完熟”を待ってプレカーサーの頂点で収穫できることを理想とする、ということです。もし教授を頼って甲州ワインの指導を仰ぐワイナリーがあるとすれば、そこにとってはもしかすれば不本意な“早摘み”のお願いをするかもしれません。
エノログ・コンセイエはオーケストラの指揮者です。楽団員との信頼関係があり素晴らしい演奏がなしとげられるのです。醸造も同じであると考えます。勿論現時点で教授のアドヴァイスが適確であるという保証はありません。ただ、彼は現時点で自分が納得する方向、自分に嘘がない方向へと醸造を導こうとしています。

そういう醸造コンセプトで造られた甲州ワインは既に沢山ある筈です。いろんなコンセプトに基づいた、いろんなスタイルの甲州ワインがあっていい。ただそれはいつもクリーンでなければならない。その中の一つにフランス産まれの青い鳥が運んで来たきいろ香があるだけです。
 
2005年7月
Taka.

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