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35.パビヨン・ブラン・ドゥー

パビヨン・ブランといえば誰もが思う、シャトー・マルゴーが造る辛口白ワイン。ところがこれが甘口ワインに変身してしまうかも知れないのです。その仕掛人はモンペリエの農学エンジニア養成機関である、フランス国立高等農学学院(ENSA)で学んでいる平川敦雄さんという日本人の方です。

彼はそのディプロム取得の為にシャトー・マルゴーで研修を行い、その一環で「パビヨン・ブランの甘口」というテーマに挑戦したわけです。シャトー・マルゴーでの研修は大変魅力的ですが、誰でも可能なことではなく、フランスの学校法の規定のプログラムに組み込まれてこその実現です。この点、夢々忘れることなかれ!

彼の存在を知ったのは私が彼から分析の依頼を受けた時でした。嬉しいことにソーヴィニオン・ブラン100パーセントで造るパビヨン・ブランの分析にはボルドーのTakaに連絡を取らなければと思ってくれていたようです。

ワインを学ぶ目的で沢山の日本の方にお会いする中、彼、平川さんはなかなかユニークな個性の持ち主です。まずワイン遊学ではないことが私の気を惹きました。前述の学校法に基づいた醸造・栽培学のエンジニア・ディプロムを目指しています。そしてそれが夢ではなく、あと一歩のところまで来ていることです。その上で、既に沢山の著名なシャトー、ドメーヌでの研修を経験しています。さらには資金源としてソムリエもしている。このマルチ性は今の若人の特徴かもしれませんが、すべてに妥協を許さない、そして生真面目な性格が貴重です。

おじさんのTakaも少しは若い人を応援しようと、このホームページへの掲載を申し出ました。でも私が応援するまでもなく、シャトー・マルゴーで研修する日本人という事が話題性になるのか、彼はこの12月に日本のあるテレビ局から取材を受けました。放映の際(1月下旬らしい)はお見逃しなく!
では彼を紹介しましょう。
さて、以下は彼からのメッセージです。

プラタナスの並木道を正面に荘厳なシャトー・マルゴーの雄姿が見事です。初めて私がこの地を訪れたのが今から6年半前、その頃はフランス語もろくに喋れず、寝袋を担いで一人旅でした。大きなリュックを担いでこのシャトーの前に着いた時、『ああなんて美しいんだ』と崇高さが心に響いたのを今でも覚えています。
そして時間は流れ、今は大学院を経て、フランスでエノローグになる国家免状課程でシャトー・マルゴーのチームの中で働いています。夢はいつか現実になることを身を持って感じています。

シャトー・マルゴーを目の前にすると、実際すごい建物だと改めて驚きます。玄関前にはスフィンクスまでいてワイン同様、厳格な雰囲気があります。シャトーの中はそれぞれの部屋毎に個性が活かされていて、中国風の部屋まであるということです。持ち主のメンツェロプロスさんは普段パリに住んでいるのでシャトーに住むのは僅か年間2ヶ月程です。
つまりシャトー・マルゴーは2番目のおうち、『別荘地』ということになります。そう考えると、この世の中にはこれまた、とんでもない『別荘地』があるものだと改めて驚嘆します。

白ワインのパヴィヨン・ブランの収穫(ソーヴィニヨン・ブラン種)です。


今年は思いきって収穫方法を変えて、今までのバケツ摘み、担ぎ籠に空けて、更に選別台に空けて腐敗果を取り分けて・・・という流れから、小さな桶摘み、ダイレクトで醸造所まで運ぶ方法にしてみました。こうすることで、収穫人の緻密な選別意識が高まり、腐敗果や未熟果が丁寧に取り除かれ(悪い酵素達も活性を発揮せず)、ブドウが潰されず、果汁が酸化することなく、良いワインが醸造できる条件が更に高まりました。

美しい!


完璧な条件で収穫できました。2002年は夏が寒く、ブドウの成熟が遅れていたので心配していましたが、9月に一気に気温が上がり、雨も少なく快晴の天候の元、14度以上のアルコール換算糖度としっかりした酸味がある健全なブドウとなりました。しかしながら暑い日差しの中ブドウ糖度がやや早く上昇したため、ワイン芳香成分の元となる生合成にはちょっと期間が短かったかもしれない。でも出来ることを精一杯やったので、良いワインになるのはもちろんです。

こちらが醸造所の様子です。


醸造所では小さな桶で収穫された白ブドウが、更に移動式作業台上で選別されます。こうして最も優れたブドウのみが、破砕除梗されずダイレクトに圧搾機に運ばれます。除梗せず圧搾することで果実攪拌を少なくし、果汁抽出が助かり、果汁酸化が抑制され、マスト中のタンパク質の量が抑えられる効果があります。圧搾は最高1.9バールまで段階的で、マストはすぐに果汁酸化防止の為に二酸化炭素ガスを満たし、SO2を入れて均一化し、タンクで36時間デブルバージュします。 

ここの部分は本当はナイショの話なんだけれどTakaさんのご依頼なのでご紹介します。

 

今年は特別にシャトー・マルゴーの極甘口白という特別キュベを私自身が造ってみました。どういう風に甘口ワインに挑戦したかというと、今までは全部捨てていた干しブドウ果(フランス語でパススリヤージュと言うのですが)を一人黙々と、仕事が終了後集めて、それを人力で圧搾することから始まったのです。今年は日差しが強かったせいでこのパススリヤージュが多く、それに目に付けてみたんです。

右の写真がが集まった干しブドウ(ソーヴィニヨンブラン種)です。
一粒一粒、ボトリチス・シネレア菌の付いたものも極力排除し、優良な干しブドウのみを丹念に集めたので、選別作業だけで10時間掛かっててしまいました。それでも収穫出来たのは僅か2バケツのみ。なかなか量が取れるるものでもありません。

今後シャトーが新しいプロダクションとして挑戦するに値するかどうか、生産性があるのか、土地個性に値するものかという、来年への課題を含めたものへとテーマが変わっていきました。


こちらが圧搾の様子です。
人力の圧搾機で最高2バールまで圧力(プレス)を上げ、何度か繰り返しながら、ブドウを攪拌(ルベシャージュ)し、とろりとした蜂蜜の様な濃厚な極甘口果汁が僅か7リットル取れました。7リットル取るのに圧搾だけで深夜11時まで5時間も掛かってしまいました。
この頃からこれはなかなか面白いのではないかという、周囲の期待も高まっていきました。


取れた果汁がこちらです。
果汁糖度により濁りが強く、果皮が分厚かった為に苦味があり、デブルバージュを-6度で何度か繰り返し、アルコール醗酵に取りかかるまで時間が必要でした。アルコール換算で26度、総酸値で5.32、糖量で447gというソーテルヌ顔負けの凄い果汁になりました。
醗酵中は私が今まで出合った中で生涯忘れがたい最高のアロマを放ちました。極僅かなワインは私自身のワイン分析に使うことになり、幻のシャトー・マルゴー・ブラン・ドゥーとして私の心の中で感動と共に生きています。

発酵4日目に「素晴らしい香です。是非見に来て下さい。」と彼から電話を受けました。残念ながら出向く時間がなく、その素晴らしい香には出逢えませんでしたが、それにはポンタリエ氏をはじめとしてシャトー・マルゴーのスタッフがうなる程だったとか。

ところが発酵終盤にはいり「日に日に香が落ちていきます。」と電話口から悲痛ともとれる彼の声。結局、出来上がりのサンプルが私の手に届いた時は、酸化の徴候をあらわすシードルの香が支配的でした。「大切にしすぎたネ、もっと早期に酵母添加をするべきだったヨ」とは私の弁。そのサンプルは今回は分析するまでもなかったけれど、彼の情熱を蓄えた偉大な?マディラ酒に変身しようとしていました。

しかし垣間見た幻の香はポンタリエ氏の心に焼き付いており、パビヨン・ブランの甘口計画はもしかしたらフィクションではなくなるかもしれません。パビヨン・ブラン辛口、2002年は最後の年になるかも?

Taka注:掲載写真とそのコメントはすべて平川さんご自身の手によるものです。


 


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