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コラム
TAKAのボルドー便り


「5.ソーヴィニオンの香り」へ 「7.貴腐ブドウ」へ

6.プレカーサー

さらに、ソーヴィニオン・ブランワインの果汁中に冬眠している香りについてすすめていきましょう。
大変芳しいソーヴィニオン・ブランのワインですが醗酵前のこの果汁は実は殆ど無臭にちかい事をご存じですか?
それに対してミュスカに代表される「アロマティック品種」と呼ばれている葡萄品種の果汁は醗酵前にそこから得られるワインの香りを既に持っています。
ソーヴィニオン・ブランの場合、醗酵がその特徴を引き出すのです。

これは当たり前のことのようですが、では何故同じ酵母で異なる品種の果汁を醗酵させてもちゃんとその品種に対応した香りを持つワインになるのでしょうか?この一見簡単に思える問いに答えるには現代の醸造学に於てすら、意外にも時間がかかったのです。

ここでエミール・ペイノー先生のソーヴィニオン・ブランに関する大切な発見をお話しましょう。
彼の著述の中に「無臭のソーヴィニオン・ブランの果汁を口に含むと数秒後にまるで爆発でもしたようにソーヴィニオン・ワインの香ちが鼻道を突き抜ける」と記されています。この現象を"ルトゥール・アロマティック(retour aromatique)" と呼んでいます。

この事実から推察するに、どうもソーヴィニオン・ブランの果汁中には無臭の「香りの素」があってこれが舌の上で何等かの変化を受けて「香る香り」に変換されるらしいのです。この「香りの素」を専門用語ではフレーヴァー・プレカーサーと呼んでいます。
プレカーサーというのはどの科学分野にでも使われる用語で、何か不活性の物質が物理的、化学的、酵素的変化を受けて活性状態になる過程で、その前の段階の不活性の物質の事を指しています。この場合は言ってみれば香りが「冬眠」しているわけで、それを目覚めさせる「春」に匹敵するのが「醗酵」または「舌の上」になるわけです。

このルトゥール・アロマティックが記されたペイノー著のグゥ・デュ・ヴァン が刊行されたのが1980年です。よって私の博士課程に於ける「プレカーサーの構造決定」というメインテーマになるまでに既に10余年の歳月が流れていた事になります。このような魅惑的なテーマであるにもかかわらず、その時まで放置されていたことが不思議でたまりません。
そしてこのテーマに挑戦すべく、それを掘り起こしたのがデュブルデュー教授です。彼はソーヴィニオン・ブランの醸造においてこのプレカーサーの構造概念なくしては、良いワインは作り得ないと確信しておりました。

ソーヴィニオン・ブランの香りの項で紹介したメルカプト・パンタノンも冬眠しているのです。またそれだけではなく、グレープフルーツの香りやパッション・フルーツの香りを持つチオール達も冬眠しています。プレカーサーの形で存在しているのです。下の化学式をご覧下さい。


本来香る筈のメルカプト・パンタノンはブラック・ボックスと結合している為に香りません。しかし醗酵によってこの箱は取り除かれ、香るようになります。
勿論現時点でこのブラック・ボックスは解明されていますが、ここでは敢えて伏せておきましょう。話がややこしくなりますから。
このプレカーサーの葡萄中の量がそのままその葡萄の品質を物語ります。ですからこれを測定すればそのソーヴィニオンが育っている土壌の品質評価やまたヴィンテージの評価にも利用できるのです。プレカーサーを測定する重要性がおわかりいただけるでしょうか?

冒頭で投げかけた質問にはこのプレカーサーの存在で答えることができます。少なくともソーヴィニオン・ブランの場合にはメルカプト・パンタノンのプレカーサーが、その果汁中に他の葡萄品種に比較して多量にあることが、この品種に特徴的な香りを与えているのです。

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