有松絞り研究所

  • chapter1 開拓民のフロンティアスピリットが生んだ有松しぼり。
  • chapter2 しぼりの技法が息づく町、有松ってどんな所?
  • chapter3 しぼり製作プロセス。ゆかたはこうして作られている。
  • chapter4 絞り技法は百数十種!美しく、チャーミングな絵柄の数々。
  • chapter5 有松絞りを作る人。その1【くくり職人】とは。
  • chapter6 有松絞りを作る人。その2【染め職人】とは。
  • special feature 伝統産業に未来はあるか? 400 年の歴史を持つ有松しぼりの“今” と“これから”。

絞り製作プロセス。ゆかたはこうして作られている。

下絵から、くくり、染め、糸ぬき、湯のしまで。一つひとつの工程を、それぞれ専門の職人さんが担当します。「分業制」と呼ばれるこうした工程は、約300年間に確立した当時のまま、何も変わっていません。完成までに要する年月は約1年。丁寧な手作業と熟練の技術なしでは、有松絞りのゆかたは生まれないのです。

絞る力がゆるくなったら、定年だね。「巻き上げ絞り」職人、加藤小鈴さん(76歳)

今では指の形が変形してしまったという加藤さん

今では指の形が変形してしまったという加藤さん

  「二の腕を触ってみて、筋肉で固いでしょ」と、ニコニコしながら話す加藤さん。一見普通のおばあちゃんにしか見えないが、実は日本に現在17人しかいないと言う"伝統工芸士"の1人。北は北海道から南は九州まで、全国へ絞りの実演に出かけることも多い。昭和10年生まれ。豊明市で育った加藤さんは5人兄弟の末っ子、子供の頃から60年以上、絞りの仕事を続けてきた。「私の小さい頃は、周りがみんなやっていましたから。母はもちろん、姉たちも、友達も全員」絞りの技術を見よう見まねで覚え、小学校3年になる頃には、それでお金を稼いでいたというから、驚きだ。加藤さんが得意とする"巻き上げ絞り"は、技術はもちろん、それと同じくらいのレベルの根気がいる。1日10時間以上作業しても、仕上がるのに1ヵ月はかかるのだ。「やり出すと、止まりません。考えなくても手が勝手に動いてくれる。左で受けて、右で回して、それだけのこと。難しいことじゃないんですよ」そう話しながらも手が止まらない。凄いスピードで動くので、素人目には何が行われているのか、理解するのは難しいだろう。そんな加藤さんだが、後継者が育たないのは寂しいと言う。「子供や孫に教えようとしても、全く興味は無さそうだし」と半ばあきらめ顔。「私はもう、絞りひと筋で行くと決めたから」と話す。仕事をしていて一番楽しい時は、「やっぱり染め上がりを見る瞬間」なのだとか。自分の絞りが素敵な絵柄になって現れる瞬間は、60年経った今でも、興奮するのだと言う。

目が開いてるうちは、やれる。やる気の問題だわ。「竜巻絞り」職人、後藤昭三さん(76歳)

手に込められた力が休まることは無い

手に込められた力が休まることは無い

  両腕の力を目一杯使って、糸を巻き、絞る。その度に、ギュッギュッと音がして、巻き上げ台の支柱が今にも折れそうにしなる。大変な力が必要な竜巻絞りは、男性じゃないと難しいのだと言う。
「そりゃあ手は痛いがね。慣れだわ。そんなこと言っとれんで」そう話す後藤さんは、昭和9年生まれ。孫はもちろん、ひ孫もいる立派な"ひいおじいちゃん"という顔を持つ反面、東京の芸術大学へ招待され、100人近い人数を相手に、教室で教えたこともあるという。この竜巻絞り、後藤さん以外に現在では4〜5人しかやれる人がいないのだそうだ。「時の流れだで、しょうがないわ」。1本およそ13m、1mにつき1時間はかかるので、完成までには約13時間。1日で全て仕上げる訳ではないが、作業している間は、力が抜けない。力を抜けば糸が緩んでしまい"不上がり"になるからだ。「甘く絞った箇所があると、そこから染料がしみ込む。そうすると、きれいな絵柄にならん」。実際に染め上がりをみるまでは、竜巻絞りがうまくいったかどうかは、分からない。だから、できあがりを見る時は、いつもドキドキする。「手を抜くと、仕上がりですぐ分かる。良い物ができると、ああいいなぁと思って嬉しくなる、悪い物ができると、あかなんだなぁと思ってがっかりする。それの繰り返し」。一発勝負なので、どうしても失敗はある、だからこそ、次にはもっと良い物ができる。失敗してがっかりした後、後藤さんは、笑うことにしている。

chapter6へ

chapter1へ

トップページ有松絞り研究所 CHAPTER5