コラム「日本の職人」
クリエイターインタビューVol.01

福田 ふくだ良則 よしのり

2014/10/06 更新
学生の頃は日本画を専攻していたということもあるのか、まるで日本画のような奥行きを感じさせる絵付けが魅力的な福田良則さん。今回は、そんな福田さんが作品を作る時に意識していること、そして伝統工芸士の資格を有する立場からこれからの役割について語って頂きました。
経歴

平成7年に通商産業大臣指定九谷焼伝統工芸士に認定され、以降、平成12年の北陸創造展北国新聞社長賞,平成13年の創造美術第54回展北華賞,平成15年の創造美術第56回展会員賞,平成20年の第50回北陸創造展北国新聞社長賞など数多くの賞を受賞し、現在は製作の傍ら石川県九谷焼伝統工芸士会副会長を務めている。

職人の道具で溢れかえる工房
学生の頃は自分のやりたい事を自由にやっていました。

初めは日本画を専攻していたという福田さん。陶芸の道を志すことになったきっかけとは。

昔から絵を描くのが好きで、学生の頃は日本画を専攻していました。
卒業後は、今まで学んできた土台を活かして私が石川で食べていくには輪島塗の蒔絵か九谷焼の絵付けの二択しかないということで、九谷焼を選びました。九谷焼で食べていくんだと決めてからは、一人で稼ぐことも当然出来ないわけですから、まずはある師匠の元に弟子入りをしました。今ではありえないことですが、初めの2年間は筆を持たせてもらうことも出来なくて、ひたすら掃除をしたり、陶器を拭いていたりしていたんです。今そんなことすると誰も来なくなりますね(笑)
実際には、10年で師匠から学べるものを全て学べたと思っています。

富士の絵付けに生まれる奥行きについてお話して頂きました
陶芸は制約が多い

富士の絵付けなど、まるで絵画のような絵付けが魅力的な福田さんの作品ですが、作品を作る工程では並々ならぬこだわりが隠されています。

この富士(色いろかっぷ 秋富士)もそうですが、絵付けをする時は奥行きを意識しています。日本画は大きな紙で平面に描くことができますが、九谷焼の絵付けは器が湾曲していることもあって描ける領域が狭く、どうしても表現に制約が出てきます。この狭い領域の中で近景と遠景がはっきりと分かるような絵付けをするには、色の濃さしかありません。例えば富士の絵付けは赤富士の色をはっきりさせて、それ以外の色を弱くする。そうすると、狭い器の中にも奥行きが生まれ、惹きつけられる絵付けになるんですね。
それと、描くモチーフにも拘りがあります。例えば紫陽花と言って思い浮かぶ花のイメージはおそらくみなさん同じだと思います。私は、そういった表面の特徴ではなく、例えば花びらの裏であるとか、幹であるとか、普段見えない所だけれども、その花にしか無い特徴を描くんです。そうすると、紫陽花をよく知る人からは「あぁ、この人は分かる人だな」となる。富嶽三十六景というように、富士山一つでも本当に色々な表情があります。職人が一番怖いのは実はこういうところで、自分が描いたものが期待に応えられていないというのが本当につらいんです。ですから、もちろん絵を描くのが好きというのもあるのですが、外に出てスケッチをする時は表面からは見えないその花や草木、動物などの魅力を描きたくなります。

仕事の合間を見つけては色の研究を続けている
色の組み合わせは無限大

和絵具、洋絵具を上手く使い分けて自分の求めている色を表現する九谷焼では、焼き上がりで思い描いた色を出せるかどうかがとても重要になってきます。そんな色作りについてのこだわりとは。

和絵具は自然の鉱物で出来ていますから、表現したい色毎に一番綺麗な色が出る窯焼きの温度があるんですね。1色しか使わないのであれば、考えるのは一つの温度だけでさほど難しくはありません。しかし、使う色が多くなればなるほど、どの色の良さも活かした最適な温度を探すのがとてつもなく大変になります。数えきれない失敗を繰り返して少しずつ正解を探していく根気のいる作業の結果、色鮮やかな絵付けが生まれます。1から色の話をすると3日は掛かってしまうのであまり踏み込んだ話はしませんが(笑)
更に言うと、和絵具と洋絵具でも色が出る温度が異なるんですね。洋絵具は無鉛(鉛が含まれていない)で和絵具よりも低い温度で溶けて無くなってしまうんです。そこで、白釉で色素を薄めることで焼きあがった時に和絵具と洋絵具が共存できるバランスを保つことが出来ます。この配合を見つけるのにも途方も無い月日が掛かります。一つコツとしては、溶けやすい色を中心に焼く温度を探っていくということです。
また、窯にはクセがあるもので昔は窯の温度も目で見て確かめるしかなくて。和絵具を付けた棒を窯に入れて、時折色味を確認するということをしていました。最近はバイロメーターがあるので窯のクセを意識せずに安定した品質のものを作れるようにはなりましたね。

筆のお尻を削る一工夫
道具を活かす

独自に改良した筆があるかと思えば、タブレット端末が置いてあったりと、使いやすい道具は積極的に取り入れていくという姿勢の福田さん。

絵付けをする時に、失敗してしまうことが稀にあります。そういったときに、筆のお尻を斜めに削って尖らせることで、失敗した部分を削ったりと、手軽な消しゴムの役割を果たしてくれるんですね。筆も奥深く、自分が何十年と使ってきて一番良いと思った筆でも、他の人からすると使いにくかったりするので、「これが一番使いやすい筆だ」ということはありません。それぞれの職人によって一番筆があるんです。
タブレット端末を使い始めたのはほんとつい最近なんです(笑)アナログ人間なもので。最近はずっと仕事が忙しくて外にスケッチに行くことも出来ません。研究が出来ないと、やはりその分周りよりも遅れるんですね。でも、本当に便利なものでこれがあると家にいながら自分が見たこともない鳥や花の写真を見ることが出来て。例えば「こういうの描ける?」と提案されても、「あぁ、ちょっとまってね」と、検索して「これなら出来ますよ」となる。動画なんかでも見ることが出来たりして、さすがに鉱物の専門的な情報とかは載っていませんが、それでも大抵のものは見ることができますので、表現の幅はとても広がりました。

撮影中も下書き無しで一切の迷いなく筆を入れていく。完成図が素地に浮かび上がるのだという。
伝統工芸士の役目

今からおよそ20年ほど前に経済産業大臣から国指定伝統工芸士の資格を頂いた福田さん。一人の伝統工芸士としての役割を深く考えています。

石川県には九谷焼の伝統工芸士が87人います。その内絵付け師は3分の2ほど。中には40代の人もいます。12年以上従事して初めて伝統工芸士の受験資格が得られて、国と県が実施する筆記試験、更には実技試験を突破してようやくなれるものですが、中には彼らのように若くして才能を開花する人も稀にいます。私には才能が無かったので、ひたすら努力を続けました。今こうしてお話していることは全て経験に基いているんです。
私個人としては、経済産業大臣から託された国指定伝統工芸士の資格を持つ以上、未来の職人を育成するために自分が今まで培ってきた技術をどんどん教えていきたいと思っていますし、それが伝統工芸士の役割だと思っています。昔は職人をしている知り合いの家に行くと誰もが自分の作った絵具や道具を隠していましたが、今そんな事をしていたら伝統工芸は間違いなく廃れてしまいます。人に言えない所もありますが、出来る限り情報は公開していきたいと考えています。

終始優しい笑みで九谷焼の魅力を語って頂きました。
本当に飽きがこない

最後に、福田さんが感じる九谷焼の魅力についてお伺いしました。

もう40年以上も絵付けをしていますが、何年経っても窯を開けるのが楽しみで仕方ないということですね。思っていたような色が出ているだろうかと心配もしますが、逆に一体どんな色が出来るのかと楽しみでもあるんです。
もうずっと仕事が忙しくてなかなか自分の時間というものを作れていないのですが、卸す商品を窯に入れる時にも、欠けた磁器に思いついた配合の絵具を塗っては脇の方に置いて、仕事の合間合間で色の研究をしていますが、本当に何年経っても面白いですね。

ありがとうございました。

福田良則さんが手がける作品を紹介

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