ごくあっさりとした色彩の装いをしている人に出会うと、ふと感じるのは、夏の涼。白緑と書いてびゃくろくと読む色は、字が表すとおりに白と緑が溶け合ったパステル調のさわやかなグリーンで、絽や紗の着物、帯締めなどに用いれば、夏らしい風情が漂って、身に着ける人も、見る人のこころにも、すーっと風が渡るよう……。
さてグリーン系の色というと植物を連想しがちですが、白緑は鉱物から生まれた色名。孔雀石という美しい緑色の鉱石の粉末から作られた天然の顔料、緑青(ろくしょう)をさらに細かく砕き、その白味がかった淡いグリーンを白緑といいます。
自然を象徴する緑色だから、草木を使って糸や布に着色できるのでは?と思うのですが、実はそうではなく、植物の持つ葉緑素という色素は水にさらされると流れてしまうため、染料や顔料としては適しません。自然界でそのままの緑色を着色できるのは、唯一、銅の化合物の顔料である緑青のみとか。なるほど、孔雀石は銅を含む天然の鉱物ですから、説得力がありますね。
その顔料としての緑青は仏教の伝来とともに中国から日本へ伝えられたといわれ、いにしえから仏画や仏像の彩色に用いられています。ちなみに奈良にかかる枕詞の「あおによし」のあおに(青丹)とは緑青の古名という説も……。多くの日本人が知る美しい言葉から、緑色との関わりの深さに思いを馳せるのも素敵ですね。