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2006/11



 秋が深くなると、空のあまりの綺麗さにハッと驚くことがあります。ひんやりとし た空気に包まれるせいなのか、空は透明感をどんどん増してゆき、単なる空色とは呼 びたくないような雰囲気に変わります。その深さや高さを想像しないではいられない、 そう、黄色に染まった大銀杏によく似合う、あの迷いのないブルーです。  というわけで、この時期にふさわしい空の色を探してみたら、素敵な名前がありま した。それは天色。「あまいろ」とも「そらいろ」とも呼ばれ、空色よりも明るく、 突き抜けた感じ。シンプルでダイレクトに意味が伝わる文字をつかった色名らしく、 まるで「私は正真正銘の空よ」と宣言しているようにさえ感じられます。  さて、この時期に散歩などをしていると、園芸好きの庭で、ふと小さな天色を発見 するものです。それはサルビア・アズレア(Salvia azurea)というシソ科の植物の 花。上へ上へとズンズン茎を伸ばし、くっきりとした空の色に呼応するかのごとく、 秋から冬にかけて次々と青い花を咲かせます。その様子は天空と手をつなごうしてい る子どものようにも見え、幼稚園児がよく着ているスモックのブルーのイメージとも ほんの少し重なります。  「空ってどこまでつづくんだろうね?」「行ってみたいな…」。azure(空色の) という言葉を冠する小さな花たちは、秋の空を見つめ、そんな風におしゃべりしてい るのかもしれませんね。




浅野屋呉服店では色についてより正確にイメージをお伝えし、また、お客様の
思いにより近い色の感覚を共有させていただくために、小学館刊「色の手帖」
第1版第22刷を拠り所としています。

今回の天色の色味としては、同書のP149をご参照ください。



(エッセイ・羽渕千恵/イラストレーション・谷口土史子)
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