秋の夕暮れは、刻々と色の変わる空が綺麗です。日が落ちてから光が消えてしまうまでのしばらくの間を、映画や写真の世界では「マジックアワー」と呼ぶそうですが、一日のうちでもっとも美しく空を映し出すというわずかな時間に出くわすと、生きていることが愛おしく思えます。秋の日に金色に輝くすすきの穂に出会うのも、そんな時でしょうか。穂先がほどけてしまう前の、キリリと引き締まった姿に神々しささえ感じるものです。
さて、すすきに似た植物に刈安(かりやす)があります。すすきに比べると丈が低く、穂が二、三本しかないのが特徴で、いにしえから黄色を染めるための染料として使われてきました。産地としては琵琶湖の東にある伊吹山が有名で『正倉院文書』には「近江刈安」と記されているそうです。薬草の宝庫としても有名な伊吹山で、すぐれた染料としての刈安を刈り取る……。それは先人が自然に畏敬の念を持っていたからこそ、得られた知恵なのかもしれません。
刈安で染める黄色の名は、そのまま刈安と呼ばれ、美しく澄んだ黄色をしています。色を得るには、乾燥した刈安を煎じて、その液に糸を浸しては乾かします。そして、最後に椿の葉などを燃してできた灰を水に溶き、その上澄みである灰汁(アク)を糸に染み込ませると、美しい黄色に変わります。その瞬間は、まさにマジックアワー。黄金色に輝く一瞬が、そこに閉じ込められるのです。