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2008/4


 春風に誘われて散歩していると、道ばたでよく小さな青い花を見つけます。その名はオオイヌノフグリ。一日花の雑草ですが、その姿にはたくましい生命力が潜んでいて、虫によって受粉できなかったときは、夕方花びらを閉じるときにおしべを曲げて自家受粉するそう。花の色は澄んだ水の色にも、空の色にも見えますね。
 このブルーに似た色といえば、勿忘草色(わすれなぐさいろ)。色名になっている忘れな草は4〜6月ごろ、綺麗な青紫の小花を咲かせる植物。Forget Me Not(私を忘れないで)という英語名を持ち、その名からイメージできるように美しいストーリーを持っています。ドイツの伝説によれば、若い恋人たちが川岸を散歩しているとき、ふと、青年がこの可憐な花を彼女にあげようと摘もうとしました。でもそのときに足を滑らせ川に流されてしまうのです。そして、青年が沈んでいくときに「私を忘れないで」と言ったことから、このように呼ばれるようになったとか。花言葉が「真実の愛」「私を忘れないで」となっているのも、うなずけますね。
 ところで「忘れ草」と呼ばれる植物もありますよ。それは梅雨のころから夏にかけて、ユリのような形の橙色の花を咲かせる萱草(かんぞう)。万葉の昔にはこの花を身につけていると辛い思いを忘れるとされ、歌にも詠まれています。ブルーの忘れな草と、オレンジ色の忘れ草……。姿も色もまったく違いますが「忘れない」のも「忘れる」のも切ないもの。大切な人を想う気持ちが含まれているのですから。


  


浅野屋呉服店では色についてより正確にイメージをお伝えし、また、お客様の思いにより近い色の感覚を共有させていただくために、小学館刊「色の手帖」第1版第22刷を拠り所としています。
今回の勿忘草色の色味としては、同書のP170をご参照ください。


(エッセイ・羽渕千恵/イラストレーション・谷口土史子)



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