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2007/11


 葡萄(ぶどう)と書いて葡萄色(えびいろ)と読む不思議……。その秘密を解く鍵はエビカズラという植物。秋の深まりとともに黒っぽい紫色に熟していくエビカズラの実の色が色名となりました。昔、葡萄は「ぶどう」と読まずに「えび」と読み、エビカズラのことを指していたとか。近代になって葡萄色は伊勢エビの色にちなむ色名と混同されるようになりましたが、古い色名の葡萄色としては紫の色合いが濃い暗い赤。葡萄酒、つまり赤ワインの色を思い浮かべてもいいかもしれません。

 ところでワインといえば、西洋にはお酒に由来する色名が多いことに気づきます。ワインレッドはまさに赤ワインの鮮やかな色で、ボルドーはフランス南西部のボルドー産の赤ワインのような、暗めの赤紫。いずれも日本でもすっかり定着して、とくにファッションやメイクの世界では欠かせない表現になっていますね。さらにブルゴーニュ、バーガンディ、ビンヤードなどワインカラーの微妙な色合いを示す色名があり、その香りにまで思いを馳せると、ワインの文化を持つ国々がうらやましくなってきます。

 毎年11月の第3木曜日は、仕込んでからわずか2か月足らずで発売されるというフランス産ワイン・ボジョレーヌーボーの解禁日。日付変更線の関係でいち早く解禁日が来る日本で、秋の夜長にボジョレーヌーボーを楽しむのも一興です。独特の味と香り、そして美しい色合いを、心ゆくまでのんびりと……。

  


浅野屋呉服店では色についてより正確にイメージをお伝えし、また、お客様の思いにより近い色の感覚を共有させていただくために、小学館刊「色の手帖」第1版第22刷を拠り所としています。
今回の葡萄色(えびいろ)の色味としては、同書のP9をご参照ください。


(エッセイ・羽渕千恵/イラストレーション・谷口土史子)



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