吉右ヱ門製陶所 / ものづくりを訪ねる吉右ヱ門製陶所 / ものづくりを訪ねる吉右ヱ門製陶所 / ものづくりを訪ねる

周囲の山やおだやかな町並みと調和するように、煉瓦造りの煙突がいくつも立ち並ぶ佐賀県・有田町応法。ここに、原田吉泰さんの祖父の代から続く「吉右ヱ門製陶所」はある。有田焼の窯元だ。さっそく工房の大きな扉の向こうをのぞくと、絵付けや焼成を待つたくさんの器たちがところ狭しと並んでいた。

工房をのぞいたときに気がつかなかったのが、完成品の色。

続いて案内された吉右ヱ門製陶所が手がけた器が並ぶ部屋に入ると、目に飛び込んできたのは色とりどりの器だった。鮮やかな黄色や淡いパステルカラー、深みのある青や緑など、色彩がとても豊か。形も豊富で、これまで漠然と抱いていたイメージよりも、有田焼の世界はもっと広く深いのだと思わず見入ってしまった。
吉右ヱ門製陶所では、おもに飲食店や旅館などで使われる食器を手がけている。「一般家庭用の食器とは、形状や絵の入れ方が違うんです」という原田さんの説明のあとにじっくりと器を見てみると、たしかに家庭用としてはあまり見かけない形もある。用途をうかがうとどれも納得する、さまざまな料理に対応した工夫に満ちた器が並んでいた。

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「子どものころは、工房が遊び場だったんですよ。焼き物のかけらでアスファルトに絵を描いたり、家の前の駐車場にサッカーコート描いて友達と遊んだり。遊び道具の中に焼き物がありましたね」

ただ、小さいころは家業を継ぐことは意識したことがなかったという。粘土遊びが好きだった少年時代は、佐世保の造船所やテレビで見るものづくりの様子に興味をもっていた。

原田さんは、進学した美術大学では意外にも金属を専攻。異素材に触れたことで、小さいころから慣れ親しんでいた有田焼の良さを客観的に感じることとなる。「やはり色が使えるっていう点は、本当に大きいなと思いました。焼き物って窯に入れれば、焼き方によって同じ釉薬でも赤っぽく出たり黒っぽくでたり。そういうところがすごいおもしろいなって」

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原田さんのお話のなかには、有田焼の未来についての想いが満ちている。それは、「いままで・いまの有田焼」だけでなく「これからの有田焼」はどうありたいのか、伝統工芸品として守るだけではない力強さがあった。

いいものをつくれる技術があるのに、ブランディングがうまくされていないために、そこで完結してしまっている。いいものをつくったその先を、有田焼はもっと考えていきたい。クオリティだけではない、付加価値を見つけていくことが今後の有田焼には必要、と原田さんは言う。

「実際に筆で絵を描くことだけじゃなくて、別の加飾のやり方も考えていかないといけないなと。それは彫りなのかもしれないし、まったく別の方法なのかもしれない。そこは、自分で探していかないといけないと思ってます」

一方で、およそ400年の歴史をもつ有田焼にも、長い時間をかけて受け継がれてきた技術が途切れてしまうということが起きている。

「絵をつけるのってコスト的にも手間もかかるんですけど、僕のなかでは絵付けはある種の技術継承だと思ってます。有田焼の中でも職人さんがいなかったり技術が伝達されていなかったりして、もうつくれない商品がけっこう多くて。そういうことは極力減らしていきたいですし、子どもの代にたくさんの可能性を残しておきたいんです」

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工房で絵付けを行う様子を見ながら、自宅にある焼き物を想像してみる。
日本のどこかの工房で、こうやって片手に筆をもった職人が器の向きを変えながら丹念に絵付けをしていたんだと思うと、ものに詰まったストーリーが壮大であることにあらためて驚く。

職人の手仕事によってつくられたものに温かみを感じるのは、ひとつのものの背景に、ひとを想像できるところにもあるのではないかと思う。

職人の方が感じる、手仕事のおもしろさとは。

「いい意味での“ゆらぎ”だと思うんですね。職人のちょっとした線の強弱のつけ方が出るのが楽しいですよね。あぁ、すごくいい線描けたなとか。抵抗がないというか、なにかすっといけた感じ。今日は線が走ってるな、とか。そういうのって、なにか素材を介して触れていないと感じられないんじゃないかなと思います。素材と会話できる、というのがいちばんいいなと思っています」

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今年の4月で、職人歴7年目という原田さん。
「焼き物の世界は何年くらいで一人前の職人となるのか」とちょっと答えにくい質問をすると、「ずっと一年生だと思う」と言う。
思うような色を求めてひたすら実験を繰り返すんです、ということばに加えて、ものづくりが好きでやってるのでいつでもやっててよかったなって思ってます、と笑顔で教えてくれた。

「食器棚のいちばん前に置いてあって、いつも使ってもらえるような器をつくりたいですね。使ってもらってなんぼだと思うので」
食器棚のいちばん前、ということばにはストレスなく毎日使えるものを目指す、原田さんの想いが込められている。

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オイルヌメ革を広げると「こういうところが好きです」と、シボが細かい背中部分を触れて質感を確かめる。

「革は、経年変化でだんだんなじんでいく感じがいいですよね。焼き物には見た目の経年変化はないんですが、“焼き物が手になじんできた”っていう感覚は出てくるんです。ものを育てる楽しみは、そういった点で共通してるかもしれませんね」

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(有)吉右ヱ門製陶所
佐賀県西松原郡有田町応法丙3778
TEL 0955-42-2724