私は翡翠の歴史について興味がありまして気の向くままあっちこっち齧ったりしています。

今回は　引用文が長いので　解説なしでご紹介します。



貴婦人に扮した女の密輸入者 女監視で取締る計画

神戸港がハチ切れん許りに大貨物を呑吐したここ数年間は内外船舶の出入も非常に頻繁だった。

即ち明治四十二年には二千四百六十隻五百三十八万五千四百三十九噸に過ぎなかったものが大正九年

には三千三百五十一隻八百二十六万三千四百十五噸に激増し従って海上事故の発生も頗る頻々、

税関始まりて以来の忙しさで、累々と積まれた滞貨の山を見ては事故の発生を案じて当の責任者等は

夜も碌々眠れない位だったが不思議なおど抜荷其他の犯罪は起らなかった、


これは滅法界の好景気に貿易業者の利益は勿論番頭手代沖仲仕の労銀が段々とせり上って平均

五、六円になり儲けの多いのになると日に十五、六円も稼いでまことにホクホクものだから幾

ら貨物が転がっていても手を出すような不心得者はなかった、

昨年三月来の不況で貨物の出入がメッキリ減ったに拘らず之れと逆比例して盗難は著しく増した、

之れは事業の縮小に伴う馘首沙汰で失業者俄然増加したのと夫れ迄日に五円乃至十五円もあった

労銀がドット低下して二円乃至四円になった為である、

内外の貿易業者からの苦情は矢鱈に起った仍で松本税関長、小西監視部長等は積極的の防備策に

腐心した結果大蔵省に迫って大々的の警備隊組織となり既記の如く陸海軍の退役下士から素行の

最も善良な屈強の男百名の撰って一個中隊を編成し軍隊式の操典まで作って昼夜の別なく警戒に

就きメリケン波止場、小野浜、川崎、兵庫等の地帯に主力を注いでいるが目下三十幾名の警備員

は黒の詰襟服に巻脚絆の凛々しい服装で毎夜寒風に晒されながら夫れ夫れ部署に就いている、

又昨年の秋以来巧妙な密輸入の増えた事は驚く許りで大部分は我国の下級船員等が支那人と結託し、

上海、香港方面と相策応して阿片、煙草、コカイン、モルヒネなどの大密輸を企てるのであるが

最近貴金属、宝石類靴等の密輸が増加したのは曾て見なかった現象である、

之等に対する取締りは監視員の手薄なため応々疎漏に流れて旅客の感情を害する事が少くない、

ところで臨機応変の処置をとって取調をツイ手控えすると此の間に附け込んで婦人連が大胆不敵な

密輸を企てるものがあり近来は特に浦潮、大連、上海方面から帰来する婦人中に多いがこれ等は

孰れも一見上流婦人のような装いで容易に看破する事が出来ない、この欠陥を補うため案出された

のが全国最初の試みである女監視である、

資格は高女卒業で二十歳より三十歳までの素行の好い有夫の女、そして殊に外貌は端麗にして花恥

ろうと迄行かずとも風姿楚々たる美人たるが第一要件で其の上に体格が丈夫でスパルタ式女性のよ

うな点もあって欲しいと云うのだから中々人選が難かしいが最初に採用するのは約三十名内外で

各波止場に五人宛位、手当は五十円前後で成績次第でドンドン優遇し女判任官に登用する予定だった

が現在の制度に依ると判任官は総て男子の服装となっている、

□□点に鳥渡行悩んで当分女監視は雇員にする事とし追って本省に服制の改正を促しその上で正式

に女判任官に改めるそうだが数日前も熱心な女監視の志願者があり素行、容貌其他の点はまことに

立派なもので判任官に採用して呉れれば断髪男装も辞せないと申出たものの当分雇員でなくてはと

の事にとうとう逃げ出して了った美しい女もあった




光るS監視の目 女は星を指されて真ッ蒼 象牙の如に滑らかな彼女の身体に潜む五彩の珠玉

こちらは密輸を図った美女を取り調べた話を面白おかしく書いたものですが　あまりに長くなりますので

今回はこの辺で失礼します。

神戸大学電子図書館

新聞記事文庫 税関(1-102)
大阪朝日新聞 1921.2.1-1921.2.4(大正10)

神戸附録 　より一部引用　しました