１９９９年３月楽天出店申込、６月末に開店し早くもマル１１年経ちました。

思いだしますとあれもこれもと書きたいことが沢山ありますが

　　　最近読んだ文で妙に頭から離れないのがありますので

　　　一部引用させていただきます。


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『穂高』に入ると、すぐ右手に、他では見たことがないほど古いスキーと竹のスティックが、無造作に

立てかけられているのに気づく。良く磨かれた木の床、少し藁が塗された漆喰の白壁、白いテーブル

緑色のベルベットで覆われた背丈の低い椅子。

数えてみるとカウンターも含めて四〇席ある。

堀を見下ろすと北側には二坪ほどの庭。初夏ともなれば、百合の花が芳香を放つ。

『穂高』は、すべてが、ひとつの無駄もなく設えられて、しかも自然。

いわば都会の中の山小屋といった風情である。

　穂高の壁間にかかる書画が楽しみだ。店主の粟野芳夫さんが、毎月のように掛け替えてくれている。

穂高だけにまつわる画から草木・人物・風景、ときには小学生の力作までと多種多様。

いつも粟野さんの鑑識眼と心使いに感心させられる。

当の粟野さんは飄々たるもので、白シャツに白い前かけ、銀髪に黒メガネのいでたちで手が空くと

カウンター席に腰掛け、豆の選別に励んだり、新聞を読んだり、

いつも白足袋で下駄をカラカラ鳴らせながら、淡々と仕事をこなす。


聞けば『穂高』は創業五〇年にもなるという。

山を愛した粟野さんのご母堂と兄上が始められ、三〇数年前、脱サラした粟野さんが引き継いだ。

穂高の壁には三つの指定席がある。

一つは窓際から二つ目の絵。それはいつも棟方志功の版画。もう一つは窓側右側、畦地梅太郎の版画。

これらは毎月掛け替えられる。

いつも変わらずあるのは窓側左隅の新田次郎の色紙。

「ほだかだけ四季さまざまに咲く花の　ひとつにふりてゆきとなりける」

粟野さんの先達への尊敬の念が伺える。

特に新田次郎は先代から常連だった。作家であり、気象庁に勤務していた新田氏は編集者とのやりとりの場所に

穂高を使っていた。


穂高を引き継いだ粟野さんは店を大々的に改装して利を図ろうとしたらしい。


それを常連客たちが許さなかった。新田氏はこう言ったという。

「いったい、何を考えているんだ。この店には、もう立派な歴史と伝統があるんだよ。

　沢山のお客さんが、この店を愛している。

　歴史や伝統というのは一度失ったらもう二度と取り戻せないんだ」


粟野さんはご母堂と兄上の店を変えることなくそのまま引き継いだ。

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これを書かれたのはひと月かふた月に一度お会いする関根茂世さん。

関根さんがお友達と良くコーヒーを飲んだのがここ穂高だったそうです。

そのお友達が「この店はいいなー、すごく落ち着く」といっていたのに今春急逝し追悼し書かれた文の一部です。

「知足」という会員に配られる季刊の小冊子に掲載されたものです。

　会員数も少なく読まれる方も少ないのはもったいないと思いました。

　（喫茶店『穂高』はＪＲ御茶ノ水駅聖橋出口並びです）