計測器に関する参考資料 温度センサ
弊社計測機器の構造を知っていただくための資料閲覧コーナー。
第1回は温度センサについてのお話です。
1.温度の歴史
「温度」とは、分子の運動エネルギーの大きさを示すものであり、歴史的には温度計測は気体や液体の熱膨張を利用した機械的な構成であったが、近年では工業的な使用温度範囲はこの機械式温度計の測定範囲を超えたより極低温から超高温に広がりつつあります。そして更に測定精度に対する要求も厳しくなっている事から、機械式から電子式センサへの開発が進んでいます。 一方で測定精度の向上からセンサごとの絶対値のずれが無視できなくなり、国際標準で実用的な「国際実用温度目盛」が定められました。これが日常使われているすべての温度基準となっています。 また、現在「温度単位」として使用されているものには以下のようなものがあります。
a.ファーレンファイト(Fahrenheit,Gabriel Daniel)
ドイツの実験科学者。温度計を研究し、種々の液体と沸点とが大気圧によって変化することを調べました。 1714年アルコール温度計に変わって、初めて水銀温度計を作ったり、華氏目盛りを導入しました。 温度単位は「」。また「華氏」とも書きますが、これはファーレンファイトの中国名「華倫海」に由来します。 現在は、アメリカやイギリスで使用されています。
b.セルシウス(Celsius,Anders)
スウェーデンの実験物理学者。1742年に水の氷点と沸点の間を100℃に分けることを提案しました。 温度単位は「℃」。また「摂氏」とも書きますが、これはセルシウスの中国名「摂爾修」に由来します。
c.絶対温度
アイルランドの物理学者、ケルビン卿(Kelvin of Largs)が1848年に温度計の物質の特性に依存しない温度目盛りを理論的に定義しました。温度単位は「K」。 ケルビン温度ともいい、熱力学の法則に基づいています。 絶対温度は物理現象を式で表す際に大変有効です。
2.センサ
温度センサはセンサの中でも最も古いものです。 家電製品の温度制御や化学工場での温度計測だけでなく、水位・湿度・流速・圧力などの計測制御にも用いられています。 温度センサは、下記に示す通り一般に接触式と非接触式に分けられます。 接触式は、直接物体に接触して測定する方式で、センサの構成が簡単で広く用いられています。 主な代表例としては、白金測温抵抗体・サーミスタ・熱電対があります。非接触式は、物体から放射される赤外線を測定し、その赤外線の量から物体の温度を測定する方式で、センサの構成は複雑です。 主な代表例として、サーモパイルなどがあります。
温度センサの種類
a.白金測温抵抗体
金属の抵抗をはかって温度を求める温度センサを測温抵抗体と呼びます。 その中でも、化学的に安定でしかも高純度のものが得られやすい白金抵抗温度センサは、JISに規定され標準温度計に用いられているほどです。 白金の細線をコイル状に巻いたものが多く外形が他のセンサに比べると大きくなるのが欠点ですが、蒸着等の方法で小型化したものも製品化されています。
保護管付白金測温抵抗体
白金測温抵抗体の温度特性
温度センサの抵抗の温度特性
b.サーミスタ
半導体の温度特性を利用した半導体抵抗温度センサのサーミスタは、抵抗温度変化特性の直線性が悪く測定精度も低いのですが、小型で白金抵抗体の10倍くらい感度が良いので、温度センサとしては現在最も広く実用されています。 サーミスタにはNTCとPTCの2種類の感温素子があります。 PTCは広い温度範囲の温度センサとしては使用できませんが、NTCに比べて温度係数が1桁近く大きいので、定温温度センサとして利用されています。 またある温度で内部抵抗が急変する特性を利用したCTRもあります。
種類 | 特性 | 使用温度範囲 | 特性カーブ | 備考 |
NTC | 温度上昇とともに 抵抗値が減少する 負の温度係数 |
-50~400℃ | 各種温度測定 | |
PTC | 温度上昇とともに 抵抗値が増大する 正の温度係数 (スイッチング特性) |
-50~150℃ | 温度スイッチ | |
CTR | ある温度で 内部抵抗が急変する 負の温度係数 (スイッチング特性) |
-50~150℃ | 温度警報 |
サーミスタの利用例
- ・電子体温計
- ・冷蔵庫や冷凍庫
- ・エアコンの制御用
温度センサの他に、風速センサ・微流速センサ・真空センサ・ガスセンサ等にも使用することが可能です。
c.熱電対
二種類の金属で回路をつくり、その二つの接合点を異なる温度に保つと熱起電力が生じ電流が流れる「ゼーベック効果」の原理を利用した温度センサです。熱電対では原則として、測温接点と基準接点の間の熱起電力を測定します。測温接点の温度を知るためには、基準接点の温度を一定にする必要があり、一般に基準接点の温度を0℃にとって起電力が定義されます。(実験室などではシャーベット状の氷水の中に、基準接点を入れて測定する事がよく行われます。)
熱電対の特長
- 比較的安価で入手しやい。
- 測定方法が簡単で精度が高く、測定時間の遅れも比較的小さい。
- サーミスタ等よりも広い温度範囲の測定を可能とする。
- 感度や寿命等の状況に応じて種類や素線経を選ぶことが出来る。
- 小さな測定物や狭い場所の測温を可能とする。
- 測定物と計器間との距離を大きく取ることができ、回路の途中に局部的な温度変化を生じても測定値にほとんど影響を与えることがない。
記号 (旧) |
+脚 | -脚 | 使用温度範囲 (℃) |
K(CA) | クロメル | アルメル | ‐200~1000 |
E(CRC) | クロメル | コンスタン | ‐200~700 |
J(IC) | 鉄 | コンスタン | ‐200~600 |
T(CC) | 銅 | コンスタン | ‐200~300 |
R(PR) | 白金・ロジウム13% | 白金 | 0~1400 |
S(-) | 白金・ロジウム10% | 白金 | 0~1400 |
B(-) | 白金・ロジウム30% | 白金 | 300~1550 |
クロメル=ニッケル・クロム合金、 アルメル=ニッケル・アルミニウム合金、 コンスタン=ニッケル・銅合金 |
いろいろな熱電対の起電力の温度特性
当社では、熱電対温度計を製造・販売しております。 熱電対プローブの素材や種類なども多数取り揃えており、プローブの特注品も承っております。 お気軽にお問い合わせ下さい。
種類 | シース型 | 一般型 |
構造 | 保護管の内部に酸化マグネシウムやアルミナを固く充填し内部を電気的に絶縁します。 | 熱電対素線を磁器絶縁管で固定して 保護管で封入しています。保護管には 主にステンレスが使用されています。 |
長所 | シース径の5倍以上の曲率ならば曲げる事が出来る。 (但し過度の曲げや繰り返しは誤差の原因となる) 熱応答性の向上、耐熱性がある。 |
シース型と比べて安価。 |
短所 | 吸収性が強いため、湿気に弱い。 | 曲げ加工が出来ない。 熱電対素線の絶縁が劣化しやすい。 |
当社のプローブ製品についての情報はこちらの電子カタログをご覧ください
また当社の熱伝対プローブについてのよくある質問をまとめた「熱伝対プローブQ&A」もあわせてご覧ください
d.サーモパイル
熱形温度センサのサーモパイルは、簡便な赤外線センサで、熱電対を微少な面積の中に直列に並べたものです。
赤外線センサにについては「赤外線センサのはなし」をご覧ください
参考資料
温度測定や使用目的に合った温度センサを選ぶ際などにお役立て下さい。
平衡状態 | 定 点 | 標準温度計(補間計器) | ||
1 | 平衡水素の3重点 | 13.81 | -259.34 | -259.34≦t68≦630.74℃ 白金抵抗温度計 0≦t68≦630.74℃ ただし、W(t68)=R(t68)/R0=1+At'+Bt' R(t68):温度がt68の白金抵抗温度計の抵抗値。 R0,A,Bは、亜鉛の凝固点、水の沸点あるいはスズの凝固点(t'=231.929 163℃)、および水の3重点(t'=0.010 0045℃)での抵抗から決定される。 630.74≦t68≦1064.43℃ 熱電対(Pt-10%Rh・Pt) |
2 | 平衡水素の33 333.6Pa点 | 17.042 | -256.108 | |
3 | 平衡水素の沸点 | 20.28 | -252.87 | |
4 | ネオンの沸点 | 27.102 | -246.048 | |
5 | 酸素の3重点 | 54.361 | -218.789 | |
6 | アルゴンの3重点 | 83.798 | -189.352 | |
7 | 酸素の露点 | 90.188 | -182.962 | |
8 | 水の3重点 | 273.16 | 0.01 | |
9 | 水の沸点 | 373.16 | 100.00 | |
10 | スズの凝固点 | 505.1181 | 273.9681 | |
11 | 亜鉛の凝固点 | 692.73 | 419.58 | |
12 | 銀の凝固点 | 1235.08 | 961.93 | t68>1064.43℃ 光学温度計(放射輝度比較器) |
13 | 金の凝固点 | 1337.58 | 1064.43 |
温度センサの種類 | 使用温度範囲 |
水晶温度計 | -100℃~220℃ |
サーミスタ | -200℃~800℃ |
IC化温度計 | -55℃~150℃ |
白金測温抵抗体 | -180℃~600℃ |
水銀温度計 | -30℃~350℃ |
アルコール温度計 | -60℃~100℃ |
熱電対R(白金、ロジウム) | 200℃~1400℃ |
熱電対K(クロメル、アルメル) | 0℃~1000℃ |
放射温度計 | 0℃~2000℃ |
参考文献
- ・「温度センサ」 横浜国立大学工学部 物理工学科 中川英元 著
- ・㈱オーム社 「センサ入門」改訂2版 雨宮好文 著
- ・㈱日本実業出版社 「図解でわかる センサーのはなし」 谷腰欣司 著
- ・㈱培風館 「センサハンドブック」 片岡照英・柴田幸男・高橋清・山崎弘郎 著
- ・㈱千代田平出版社 「センサデバイスハンドブック」 センサ技術者編集部 編
- ・㈱三省堂 「物理小事典 第3版」 三省堂編集所