赤外線センサの話
1.赤外線の歴史
赤外線とはその波長が可視光線よりも長く、マイクロ波よりも短い電磁波の総称で、1800年頃発見されました。1940年頃までは赤外線の応用といえば、赤外線のもつ熱効果の利用と分光学への応用が主流でありました。赤外線は、温度をもつ物体すべてから、その温度に応じた波長分布をもって、自然に放射されるという特徴をもっています。 赤外線と総称される電磁波の波長範囲は、0.76μmから1mm程度までですが、特に重要なのは1.5μmから14μmまでです。中でも3~5μmと8~14μmは、リモートセンシングにとって重要な波長範囲です。
2.センサ
赤外線センサの歴史は、ハーシェル(W.Herschel、英)が赤外線の存在を証明する実験(1800年)に用いた水銀温度計に始まります。赤外線センサとは、赤外領域の光を受光して、受けた光を電気信号に変換し必要な情報を取り出して応用する技術です。赤外線センサは動作原理により、2種に大別することができます。1つは熱型赤外線センサで、もう1つは量子型赤外線センサに分けられます。熱型赤外線センサは、感度、応答速度は低いのですが、波長帯域が広く常温で使用でき、使いやすいという特徴があります。量子型赤外線センサについては、検出感度が高く、応答速度が速いなどの特徴を持っています。
赤外線センサの種類
a.熱型赤外線センサ
熱型赤外線センサは、赤外線のもつ熱効果によってセンサが暖められ、素子温度の上昇によって生ずる素子の電気的性質の変化を検知するものです。このセンサは古くから、赤外分光器用として実用されてきました。熱型赤外線センサには、熱起電力効果を中心としたサーモパイル、それに焦電効果を中心としたPZT、LiTaO3などがあります。
検 出 器 | 動 作 原 理 | 長 所 | 欠 点 | 応 用 例 |
サーモパイル | 熱起電力 (赤外線-温度差-熱起電力発生) |
無電源 機械強度大 直流応答 安価 |
Responsivity 比較的小 |
輻射温度計 分析計 防災・防犯 家電品 |
パ イ ロ | 焦電効果 (赤外線-温度変化-電荷発生) |
無電源 高速応答可 安価 |
振動影響 直流光不感応 |
防災・防犯 家電品 |
サーミスタ ボロメータ |
電気抵抗の温度変化 (赤外線-温度変化-抵抗変化) |
機械強度大 直流応答 |
電源必要 継時変化 |
輻射計 分析計 |
ゴーレイセル | 不活性ガスの熱膨張 (赤外線-封入ガス体積膨張- 膜変位-光学検知) |
検知感度大 | 非常に壊れやすい 高価 |
理化学機器 分光光度計 |
ニューマティック セル |
特定ガスの熱膨張 (赤外線-封入ガス体積膨張- 膜変位-電気容量変化) |
高選択性 (相関検出器) |
全波長感応用 には使用不可 |
公害分析計 プロセス制御 |
a-1.サーモパイル
サーモパイル簡便な赤外線センサです。熱型の特徴である波長依存性がなく冷却不要です。
a-2.焦電型赤外線センサ
焦電型赤外線センサとは、焦電物質の焦電特性を利用したもので、これはあらゆる物体から放出される赤外線エネルギーを検出するセンサのことです。焦電センサは波長依存性がない等の優れた特性をもっているため、光学フィルターを使い分けるだけで、いろいろな温度センサを作ることができます。焦電センサの種類として、PZT系(ジルコン酸チタン酸鉛)、LiTaO3系(タンタル酸リチウム)、PVF2、PbTaO3などもあります。
焦電効果(赤外線センサ)の特徴
- 近赤外光の検出
- 広域帯の波長感度を有する
- 一般に応答速度が遅い
- ※焦電素子の利用例
b.量子型赤外線センサ(光センサ)
光は電磁波の一種であり、これは目に見える可視光線を中心とした紫外線、赤外線など広い波長を持っています。また光は波動的性質と粒子的性質があります。よって、検出感度・使用目的によって光センサを選ぶことが必要です。光によって引き起こされる電気現象は、下記の表の通り3種類あります。その現象を利用したセンサとしてフォトダイオード、フォトトランジスタ、フォトIC、CdSセルなどがあります。
光電効果の種類 | 素子名(素材名) | 特徴 |
光起電力効果 | フォトダイオード フォトトランジスタ フォトIC 太陽電池 |
一般に応答速度が速い 一般に波長帯域が狭い |
光導電効果 | CdSセル CdSeセル PbSセル |
一般に応答速度が遅い 内部構造がオーミックである 視感度に近い素子がつくりやすい |
光電子放出効果 | 光電管 光電子倍増管 (フォトマル) |
一般に大型である 消費電力が大きい |
b-1.フォトダイオード
フォトダイオードは、光エネルギーを電気エネルギーに変換する代表的な光センサとして使用されています。フォトダイオードは、チップに光を当てると光量に比例した逆電流が流れます。この逆電流を光電流と呼び、この性質を光センサとして利用しています。
フォトダイオードの特長
- 光量と出力の直線性が良好
- 応答速度が速い
- 400~900nmの広帯域で検出可能
- 温度変動が小さい
- 振動衝撃に強い
- 小型軽量である
- カラーセンサの基本素子である
種類 | 特性 | 用途例 |
pn型 | 暗電流が小さいのが利点 応答速度が一般的に低速 |
照度計、カラーセンサ、 フォトトランジスタ、 リニアイメージセンサ、 分光光度計、カメラ露出計 |
pin型 | 暗電流が大きいのが欠点 接合容量が低いため高速応答が得られる |
高速光の検出、光通信 光ファイバー、リモコン、 フォトトランジスタ、 ライトペン、FAX、 |
ショットキ型 | p層の代わりにAuの薄膜とN層の接合を使用 | 紫外線センサなど 短波長光の検出 |
アバランシュ型 (APD) |
応答はきわめて高速 倍増作用を持つため微弱光を検出可能 |
高速光通信、高速光の検出 |
Siフォトダイオードの分光感度
Siフォトダイオードの構造
b-2.フォトトランジスタ
フォトトランジスタは、フォトダイオードの出力をトランジスタで増幅する構造となっています。フォトダイオードより数倍感度の高い光センサで、現在最も広く使用されている受光素子です。特徴としては、無接点寿命、高速、低価格です。
フォトトランジスタの利用例
- ・制御機器のサーボモータ回転数
- ・プリンタのタイミングパルス発生
- ・テープエンド検出
- ・端末機
- ・電話機
- ・計測器の流量、濃度検出
- ・光線銃(玩具)
フォトトランジスタの光電流-電圧特性
Siフォトトランジスタの構造
b-3.CdSセル
CdSセルは、硫化カドミウムを主成分とした光導電素子で、一般にCdSeセルを含めてCdSセルと総称されています。 特徴は、可視光線に対して高感度で小型で軽量、しかも比較的安価に作れます。また、電気伝導度と光量の直線性の範囲が狭いです。しかし、応答性があまり良くありません。そのため、ゆるやかな照度変化の検出に限定されてしまいます。CdSセルは光導電面の製作方法から大別して単結晶形、焼結形、蒸着形などありますが、現在は高感度で大面積のものが得られやすい焼結形のものが最も多く使用されています。
CdSセルの利用例
- ・街路灯の自動点滅器
- ・カメラの露出計
- ・照明器具などの明るさを測定する照度測定器
CdS導電セル(焼結形)の構造
CdS導電セル(焼結形)の分光感度
CdSセルの電圧-電流特性
b-4.光電子倍増管
光電子倍増管は二次電子放出効果を利用した光増幅器の一種です。そのため、人間の目で感じない微弱な光の検出を行うことが可能です。 この光電子倍増管は光(可視光)だけでなく、紫外線、近赤外線にも使うこどができます。このため光センサの中では非常に高感度です。
光電子倍増管の利用例
- ・分析機器
- ・医用機器
- ・放射線計測器
- ・通信情報機器
- ・公害測定器
c.その他
c-1.フォトカプラ-
フォトカプラ-とは光を使った信号伝達装置のことで、これには非常にたくさんの種類があります。フォトカプラ-は構造からフォトカプラ-とフォトインタラプラ(光遮蔽センサ)の2つに大別できます。このうち、光センサとしての働きをもつフォトカプラ-は、フォトインタラプタに限定されてしまいます。
フォトカプラ-の種類
c-2.フォトインタラプタ
フォトインタラプタは発光部と受光部を一体化した一種のフォトカプラ-です。しかし、センサとしての機能を持つために両素子間に遮光物体を介在させるよう工夫したものです。このうちフォトインタラプタは構造上より、光透過型と光反射型に分類されます。
種類 | 特徴 | 構造 |
光透過型 | 出力パルスが大きい | |
光反射型 (フォトリフレクタ) |
一般に小型化が容易である 距離計測ができる 反射物体の位置精度が問題 |
参考文献
- ・㈱日本実業出版社 「図解でわかる センサーのはなし」 谷腰欣司 著
- ・㈱培風館 「センサハンドブック」 片岡照英・柴田幸男・高橋清・山崎弘郎 著
- ・㈱千代田平出版社 「センサデバイスハンドブック」 センサ技術者編集部 編
- ・㈱三省堂 「物理小事典 第3版」 三省堂編集所