Rakuten新春カンファレンス2020

「Walk Together」をテーマに、同じ悩みや目標を持つ楽天市場出店者同士の出会いを通じて、店舗運営に役立つ学びを得る「楽天新春カンファレンス2020」。各方面で活躍されているトップランナーをお招きするフォーラムにご登壇頂いたのは、ベストセラーを連発する幻冬舎の編集者・箕輪厚介(みのわ・こうすけ)氏。新しい時代の働き方やコミュニティの未来に関する考え方を披露する語り口は、軽妙かつ明快でした。

箕輪 厚介 氏
1985年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。2010年双葉社に入社。ネオヒルズとのタイアップ企画『ネオヒルズジャパン』を創刊し3万部を完売。その後も、『たった一人の熱狂』(著)見城徹/『逆転の仕事論』(著)堀江貴文などの編集を手がける。
2015年幻冬舎に入社後、NewsPicksと新たな書籍レーベル「NewsPicksBook」を立ち上げ、『多動力』(著)堀江貴文 /『メモの魔力』(著)前田裕二 /『日本再興戦略』(著)落合陽一など、編集書籍は次々とベストセラーに。2018年8月、自身の著書『死ぬこと以外かすり傷』を発売。
一方で、自身のオンラインサロン「箕輪編集室」を主宰、メンバーは1,000名を超える。「スッキリ」「ビートたけしのTVタックル」「5時に夢中!」などのテレビ出演多数。2019年4月デビューの新人アーティスト箕輪★狂介のプロデュースも行う。
他にも、株式会社エクソダス取締役、CAMPFIRE COMMUNITY チェアマンなど、活動は多岐にわたる。

著書はこちら(楽天ブックス)

箕輪さんが仕事をされる上で一番大切にしていることは何でしょうか?

「『自分の感覚に敏感でいる』ということですね。編集者でもEC事業者でも、自分でつくったものを好きになってもらって買ってもらうという商売において、一番怖いのは自分の感覚が錆び始めるということですよね。それが一番怖い。News Picks Booksなどでヒットを連発していても、『このテイスト、もう飽きたな』と思った時にどうするか、ということなんですよね。会社員として売り上げを立てなければいけない自分と、一人の作り手として同じ手法に飽き始めている自分がいた時に、葛藤しながらも自分の感覚を大切にするようにはしていますね。義務感やルーティーンだけでやることがないように、すごく意識しています」

箕輪さんは『死ぬこと以外かすり傷』という著書がありますが、このタイトルが箕輪さんをよく言い表していると思うのですが、いかがでしょうか?

「実際はそんなこともないんですけどね(笑)」

箕輪さんが幻冬舎での会社員を辞めない理由はどこにあるのでしょうか?

「ひとつには、辞めると言ったら見城さんに殺されるということがありますが(笑)、実際には幻冬舎という会社が非常に自由だからということがあります。働き方について、少しでも会社から制限されるのであれば、自分の中で(会社に残るか、会社を辞めるかで)天秤にかけると思うんですね。今は会社から何一つ制限されていないので、会社員でいることのデメリットがないんです。僕は『何を稼いでいるのか』を明確に意識して仕事をしているんですね。例えば、収入の面で言えば、幻冬舎からもらう給与の20倍くらいは副業で稼ぐことができるので、お金のために会社員でいるわけではないんですよ。一方で、会社からヒットを出すことで僕は会社に『ブランド』を稼がせてもらっているわけです。自分でリスクとコストを負担して本一冊出版するというのは、めちゃくちゃ大変なんです。人を雇ったり、流通を確保したりという部分を会社にやってもらいながら、『この本をつくったのは僕です』といってヒットメーカーとしての『ブランド』を稼がせてもらっているというのは、本当にありがたいことで。それに対して、偉い人たちに向けての講演会などでお話しするのは、明確に『お金』を稼ぐためですね。そういう講演会はギャラがいいんです(笑)。お金があることで、やりたくないことをやらなくていいということもありますから。逆に、高校生や大学生に向けて話をする場であれば、ノーギャラでも喜んで行きます。それは、僕の中では『未来』を稼いでいるからです。彼らが自分の話を聞いて『箕輪さんの話、めっちゃ良かった』と思ってくれたら、5年後、10年後の自分にとっての財産になりますから。こうやって、『お金』という尺度だけではなく、『何を稼いでいるか』を意識しているんですね。その意味で、会社というのは『ブランドを稼ぐ』には最強の場なので、辞めるメリットがないんです。会社員でいることに窮屈さを感じることは全くないし、それは幻冬舎のおかげだと思っていますね」

副業で給与の20倍も稼げるんですね。

「お金に関してはそうですね。会社員は天井がありますからね。僕がいくらヒットを出したとしても、役員より高い給与をもらうということは、まぁ、あり得ないわけです。逆にいうと底も決まっています。ある程度の給与は保障されている。会社としては、それが正しい機能だと思います。(お金の面では)上限も下限も決まっているなかで、会社の資産を使って箕輪の名が立つようなことをしてもらいながら、会社の外で自分を解放して(会社で得られない報酬面を)回収しているというイメージですね」

副業を禁止している会社も多いと思いますが、そのあたりはどうお考えですか?

「会社それぞれの考え方があると思いますが、僕が働いている出版業界のことを考えると、新しいことや面白いことを探し続けているような人は、『副業禁止』というだけで、その会社には入らないようになると思いますね。常に新しい空気を取り入れながら成長するような会社では、副業禁止が人材確保の面で相当大きなデメリットになる気がします。今は本当に変化が早い時代で、現状のビジネスモデルが1〜2年の間に完全に消滅するということが、普通に起こり得ます。そうした時代では、次のビジネスモデルやマネタイズの方法を経営者がひとりで考えるのは無理です。20代・30代の若い社員を放し飼いにして、とにかく感度高く、いろいろなものに興味を持って飛び回ってもらい、何か面白いものを見つけて戻ってくる場所として会社を捉え直した方が、変化に対応しやすいですよね。僕がオンラインサロンやアプリ事業をやらせてもらっているのは会社のおかげですが、それが結果として幻冬舎のビジネスにも貢献しているのでWIN-WINの関係を築けていると思います。社員を会社に縛り付けておくと、変化に対応するための多様性がなくなる気がしますね。本業も副業も、仕事も趣味も、その境目がわからなくなっていくのが、これからの働き方の形のように思いますね。『儲からなくても新しいから、やる』『自分が楽しいからお金を払ってでも、やる』というのは、年配の人からしたら少し理解しにくい感覚かもしれません。でも、若い人にとっては当たり前なんですね。仕事なのか遊びなのか。その境界線はなくなってきていますよね」

『箕輪編集室』というオンラインサロンは、働く人がお金を受け取るのではなく、お金を払ってプロジェクトに参加するということですよね?

「そうです。月額5,000円で、会員は1,800人くらいですね。それって、今の若い人からすると特別変わった感覚でもないんですよね。おそらく、変化の要因はいろいろとあるんですが、大きな理由はSNSが普及したことだと思います。『この本を買った』とツイートするよりも『この本を作るのに参加した』とツイートする方が注目を集めるんですね。お金よりも評価や承認の価値が高い社会においては、消費という行動はとてもつまらないものになってしまっている。逆に、『何かにコミットすること』がめちゃめちゃ質の高いエンタテインメントになっている。だから若い人たちがオンラインサロンに参加しているんじゃないかと思います」

自分の才能を発揮したり、自分が興味のあることに参加することの方が、消費することよりも楽しいと感じる人が増えているということですよね。おもしろいですね。これからもテクノロジーの発達などによって世の中が大きく変わっていくと思いますが、箕輪さんはどのような変化に注目しているでしょうか?

「ひとつ思うのは、情報がこれだけ増えてしまうと、『広告で注意を喚起してモノを売る』という方法が機能しないだろうということです。本でもそうですが、『これが面白いです!』といくら言っても、あらゆるデバイスに情報が溢れすぎていて届かないんですよね。そうなると、オンラインサロンのような『コミュニティ』が大事になってくると思っているんです。モノを売るということにおいてはもちろん、これからの人間の生き方においても。これからの時代、多くの人が求めるものは『アイデンティティ』だと思うんです。AIに仕事を奪われた人が増えたらベーシック・インカム(basic income)*1を与えればいいという議論がすぐに出てきます。経済的にはそれでも成り立つかもしれませんが、人間にとって最も虚しいのは『誰からも必要とされていない』 ということですよね。そうなると、今までは『お金を持っている人』に人が集まってきましたが、これからは『他人に役割を与えられる人』に人が集まってくると思うんですよね。明解なビジョンを示して、いろいろな役割を見つけ出し、他人に役割を与えられる人が求められるような気がします」

SNS全盛の時代だからこそ、人とのつながりが大事になってくるということなんでしょうね。ただ、これだけ情報があふれていると、発信するときも受信するときも、その情報の選び方が難しくなりますよね?

「そうですね。マスメディアしかない時代は『わかりやすい情報をマスメディアを通じて伝える』というビッグゲームしか成立しなかったわけですが、SNSが発達した現在では、世界中で300人しか気にしない情報であってもエッジが立っていれば共感してくれる人は見つかるんですよね。なので、他人に伝えるためのノウハウを磨くのではなくて、自分の感覚をピュアに発信していけば、同じ感覚を持った人とどこかでマッチングする可能性は(これまでの時代と比べて)確実に上がっていると思いますね」

*1 ベーシック・インカム(basic income) | 所得補償制度のひとつ。政府が全国民に対し、生活に足るだけの一定額を無条件で支給する制度。貧困対策・少子化対策などを兼ねるほか、現行の生活保護や失業保険制度などを廃止し、この制度に一本化することで、支給の行政コストを抑制できるとされる。莫大な財源を要することから、実施している国はない。フィンランドでは、2011年1月1日より長期失業者2,000人に対し、月額560ユーロを支給する実証実験を始めたが、新制度の導入を理由に2018年12月で中断した。