Rakuten EXPO 2018

楽天市場出店者やECに関連する多様なビジネスパーソンが一堂に会し、最先端の情報を交換しながら、明日につながる学びを得る「楽天EXPO 2018」。ファッショントレンド発信地であるラフォーレ原宿への最年少出店記録を持つ株式会社ウツワ代表取締役社長・ハヤカワ五味氏からは、若者の価値観を形成している要素を紐解きながら、「『わざわざ』新品で買ってもらう理由」を作ることの重要性をお話しいただきました。

ハヤカワ 五味 氏
1995生まれの22歳。東京出身、多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。課題解決型アパレルブランドを運営する株式会社ウツワ代表取締役社長。 高校1年生の頃からアクセサリー類の製作を始め、プリントタイツ類のデザイン、販売を受験の傍ら行う。大学入学直後にワンピース等の《GOMI HAYAKAWA》、2014年8月には妹ブランドにあたるランジェリーブランド《feast》2017年10月にはワンピースブランド《ダブルチャカ》を立ち上げ、主にEコマースを主として販売を続ける。複数回に渡るポップアップショップの後、2018年にはラフォーレ原宿に常設直営店舗《LAVISHOP》を出店。

8秒 – 人間の集中力持続時間は金魚より短い

「8秒」という数字、一体何だか分かりますか? 実はこれ、「人間の集中力の持続時間」なんです。2000年には12秒だったのが、2013年には8秒にまで短縮していて、これは金魚よりも短いんです(出典;フィリップ・コトラー「コトラーのマーケティング4.0(TIME ONLINE)」2017年)。金魚が何に集中しているかは、一旦置いておきましょう。この結果からすると、「8秒で伝わらなかった魅力は、なかったのと同じ」と考えられないでしょうか? これが、先ほど挙げた「若者の価値観を醸成する要素」の2つ目である「集中力の低下」という話です。

今の時代、スマートフォンの普及などにより、情報の展開が非常に速くなっています。YouTuber(ユーチューバー)の動画を見て頂ければ分かりますが、めちゃくちゃ展開が速くて驚きますよね。「一つのことに集中しづらい」というのが、現代の特徴と言えると思います。では、この「8秒」の中でどのように魅力を伝えていけば良いのでしょう? 私は2つの攻め方があると思っています。1つ目は「一瞬でよくわかる」、もう1つが「一瞬で驚きがある」。この2つがポイントだと考えています。

最初に「一瞬でよくわかる」について、実践例でご説明していきましょう。私のブランドはSNSでの発信を中心にしているので、そのなかで考えていることを紹介していきます。私のブランドでは、水着は毎年1,000万円以上売れる主力商品のため、シーズン最初のツイートというのは非常に重要になります。そのツイートの中では、まず最初に「何があるか」を書いています。ツイートの頭の部分に「feast 2018水着が、なんと本発売開始しました!」とあります。次に「どこにあるか」を書いています。実店舗やECサイトなど、購入できる場所を書いています。そして最後に「コミュニケーション」。ただ「水着売りますよ〜」では素っ気ないので、「可愛すぎるから、みんな着て〜!!!」という感じでコミュニケーションを入れているんですね。

しかも、写真も乱雑に配置しているようで、実は計算されているんです。一番大きなメイン写真は「遠目で見ても水着と分かるもの」を使っています。トップスだけの写真ですと、一目で水着と分からないこともありますので、黒の水着の写真をドンっと使っているんです。そしてサブの写真には、直接、商品特徴を書き込んでいます。これはもう、私のお家芸のようなもので、手書きの文字をトレースして画像に組み入れています。この画像の特徴は「一瞬でわかり、よく読んで更にわかる」ということです。商品の魅力というのは、これまでは「お客様が考えてくれるもの」でした。ところが、情報量が増えている中で集中力が低い人たちに向けて訴求するには、細かな価格比較やスペック比較をしても伝わりません。なので、「一瞬でわかり、よく読んで更にわかる」ということが重要になってくるわけです。

▶︎ 参考ツイート
https://twitter.com/hayakawagomi/status/1005027726367981568

「お客様の期待を裏切る」ことで顧客満足を高める

「8秒」で魅力を伝えるための方策の2つ目が、「一瞬で驚きがある」です。友達の恋話(こいばな)なんかを思い出して欲しいのですが、「最近、彼氏とどう?」と聞くと「う〜ん...。いい人なんだけど、なんかつまらないんだよね〜...」という人、多くないですか? 「いい人なんだけど、つまらない」というのはどういうことかというと、「自分の思いどおりのことをしてくれてありがたいんだけど、なんとなく物足りない」ということですね。

これを、無理矢理マーケティングの話につなげてみましょう。「顧客満足度の方程式」というものがあります。これは「顧客満足 = 顧客が感じた価値 – 事前期待値」という計算式で表されます。例えば、ある商品を買って「これ、めっちゃ可愛い!」と感じた価値から、買う前に「これ、めっちゃ可愛いんだろうなぁ」と期待していた価値を引いたものが、顧客満足になるということです。ということは、「期待通りの価値は0点」とも言えるんですね。買う前から「これ、めちゃくちゃいいんだろうなぁ」と思っていて、実際に届いた商品を見ると「まぁ、思っていたとおりだよなぁ」という場合や、逆に期待値が高すぎて、いざ届いてみるとそこまでじゃなかったという場合には、顧客満足は得られないということになります。先ほどの方程式に入れてみれば分かりますね。

では、「良い意味で」顧客の期待を裏切るには、どうすれば良いのでしょうか? ここでも、私が考えているメソッドを紹介させてください。1つ目は「お客様自身も気づいていない気持ちを代弁する」、そして2つ目は「お客様自身も知らない解決方法を提案する」です。主にこの2つを行うことにより、お客様に驚きを与える提案になると考えています。

1つ目の「お客様自身も気づいていない気持ちを代弁する」からお話します。自分が考えていることというのは、なかなか言葉にしにくかったり、他人から言われて初めて気づくということがありませんか? それこそ、占いをしてもらうと「え!? どうしてそんなこと知っているの?」ということがありますが、これも「言われて初めて気づく」という事例だと思います。「意識」というのは「『思っている』と思っていること」、つまり自分で考えていることを意識しているわけです。一方で、「無意識」というのは「本当に『思っている』けれど、自分では意識できていない」んですね。この「無意識」というのはお客様アンケートなどでは表に出てこないんですが、この「無意識」を代弁することで「そういう商品を待っていたんだ!」「こんなサービスが欲しかったんだ!」という驚きを与えられると思います。お客様を観察する際には「無意識の部分では何を考えているのか?」という点を意識するのが良いと思います。

2つ目は「お客様自身も知らない解決方法を提案する」です。これはなかなか難しいですが、例えば20年前にスマートフォンを欲しいと思った人がいたでしょうか? おそらく、いませんよね。5年前にAIスピーカー*1を欲しいと思った人がいたでしょうか? たぶん、いないと思います。20年前のお客様アンケートで、欲しいものの欄に「スマートフォン」と書けたのはスティーブ・ジョブス(Steven Paul "Steve" Jobs)*2だけだったはずなんです。つまり、お客様自身も気づいていない解決方法を提案するというのは、それだけ重要ということになります。

お店を運営していると、お客様からいろいろなリクエストを受けると思いますが、お客様は知っている解決方法の中でしかリクエストできません。お客様から頂いたリクエストに対して、「本当に求めている部分はどこか?」ということを分析し、その要望に対して「どんな解決策を当てていけば一番面白くなるか」を考えることが大切です。お客様の欲求や悩みは非常に参考になりますが、その解決策は皆様自身で考える必要がある、ということです。

*1 AIスピーカー | 人工知能(AI ; Artificial Intelligence)を搭載したスピーカー。人工知能を搭載したことにより、単なるスピーカーとしてだけではなく、音声操作により天気予報やニュースの再生、スケジュールの確認、翻訳、判らない言葉の検索などを可能にした。スマートスピーカーとも呼ばれる。Google Home(グーグル・ホーム)、Amazon Echo(アマゾン・エコー)、LINE Clova(ライン・クローヴァ)など各社から展開されている。

*2 スティーブ・ジョブス(Steven Paul "Steve" Jobs) | アップルコンピュータ(Apple Computer)社の共同創設者。1955年2月24日、米・カリフォルニア州ロス・アルトス生まれ。ゼロックス(Xerox)社のパロアルト研究所(PARC)を見学した際に、試験的なハードウェア「ALTO」のグラフィカルユーザインターフェース(GUI)やマウスなどに出会い、これが後の「マッキントッシュ(Macintosh)」の開発につながった。一度、アップルを離れるも、業績不振に陥った同社の暫定CEOに復帰。M&A、iMacの発売、Microsoftとの資本連携などによりApple社の業績を回復させた。暫定CEOに就任して以来、CEOそれ自体への給与は毎年1ドルしか受け取っていないことでも有名となり、「世界で最も給与の安いCEO」とも呼ばれた。2000年代に入ると、「iPod」「iTunes」「iPhone」「iPad」といった製品や「ポッドキャスティング」「マルチタッチ」などを世に送り出し、世界中の人々のライフスタイルを変えるほどの影響をもたらした。米国を代表する企業家の一人に数え上げられ、アメリカ国家技術賞を受賞している。2011年10月5日逝去。

中古で売れないものは価値がない

最後、「若者の価値観を醸成する要素」の3つ目が「中古で買える」という話です。代表的な存在が皆様ご存知の「メルカリ(mercari)」*3です。2015年時点で1日の出品点数は10万点以上で、私の家族もよく使っています。女性の10代・20代だと、半数以上の人が「使ったことがある」と答えていて、都市部に限れば、もう少し割合が高くなるかと思います。私も昨日、乗っていない自転車を出品したんですが、10万円で買ったものが出品から3時間後には6万5,000円で売れまして、「こんな簡単に売れるんだ〜」と割とビックリしました。この会場の皆様で、「メルカリでモノを売ったことがある」という方、どれくらいいらっしゃいますか? 3割くらいですかね。楽天で商売されている方なので、どういうコピーをつければ高く売れるかということも、よくわかっていらっしゃるのではないでしょうか。

私の妹の話をさせてください。彼女は現在19歳の大学生ですが、一緒に買い物に行った時に言われたんです。「そのブランドの服、メルカリで全然売れないから、やめた方がいいよ」と。「この娘は何を言っているんだろう?」と思ったんですが、実は私も、モノを買う前にメルカリで値段を調べてしまうんですよね。メルカリの特徴として「販売済み商品を見られる」というのがあります。そうすると、その商品の相場がわかるんですよね。あるブランドのカバンを買おうと思ったら、買う前にそのカバンのメルカリでの販売済み商品の価格を調べます。つまり、私は「売る前提で買っている」わけです。「1万円の洋服を2〜3回着て6,000円で売れれば、実質4,000円で買えるな」という考え方を持っているんですね。

インターネットが登場する前は「買えないモノがある」状態でした。地方の名産品などは買いたくても買えませんでした。それが、インターネットが登場したことで「なんでも買える」ようになりました。楽天市場などの登場で、地方のものも、レアなものも、簡単に買えるようになりました。そして現在は「なんでも売れる」という状況になっています。楽天市場もフリマアプリの「フリル」を買収するなど、中古市場は益々拡大しています。

*3 メルカリ(mercari) | 日本およびアメリカにてサービスを提供しているフリーマーケットアプリ。2013年7月2日にAndroid版が、同年7月23日にiPhone版が配信開始となった。1日の出品数は2013年時点で1万点以上、2015年時点で10万点以上に上る。2016年6月期の売上高は122億5600万円、営業利益は32億8600万円で初めて黒字化。アプリのダウンロード数は5,000万を突破している。

中古で買える時代に「新品で買う理由」はあるか?

こうした時代にあって、新品を販売する皆様の競合はどこになるのでしょうか? 物価が上がり、奨学金の給付額も上がり、アルバイトの最低賃金も上がっているにも関わらず、20代の平均所得は平成元年レベルにまで落ちています。部屋は狭いし、お金もない。そんな状況なので、私は「若者が新品で買う理由」があまりないと考えています。10年前、20年前には、新品で買うことが当たり前であり、その前提があったから小売業が成り立っていました。それが、いまや「わざわざ新品で買う」という状況になっているということは、心に留めておいても良いと思います。

となると、小売業の最大の競合というのは「中古品」になってくるのではないかと、私は考えています。今までは単に新品を売っていれば良かったのが、「わざわざ新品で買っていただく理由」「私のお店から新品で買うメリット」「中古品ではなく新品を選ぶ価値」をしっかりと考えていかないと、若者は新品では買ってくれません。若者は皆様が思っている以上にお金がありませんし、中古品と戦うためには「どんな付加価値を付けるか」を考えていく必要があると思います。

若者の価値観を醸成する3要素を踏まえて、「新品で買う理由」を作ろう

さて、皆様からの質問も受けたいので、そろそろまとめに入りたいと思います。

「若者の価値観を醸成する要素」は3つあります。1つ目は「情報量の増加」、2つ目は「集中力の低下」、3つ目は「中古で買える」です。

「情報量の増加」について。「2020年の情報量は、2000年の情報量の6450倍」になります。それゆえに「検索の限界」が来ています。そこで「検索2.0」という考え方を提唱したいと思います。これは「そもそも比較されないもの」になるか、「オンリーワンのキーワード」を駆使してお客様にリーチしようという考え方でした。

「集中力の低下」について。若者の集中力持続時間は「8秒」と言われ、金魚よりも短くなっています。2013年には8秒だったということなので、きっと今はもっと短くなっているはずです。集中力が8秒しか続かないということは「8秒で伝わらなかった魅力は、なかったのと同じ」になってしまうので、「一瞬でよくわかる」、そして「一瞬で驚きがある」コミュニケーションが必要になってくるわけです。

「中古で買える」について。メルカリが登場する前は、新品で買わざるを得ませんでしたが、メルカリが現れてからは、新品でも中古でも買える時代になりました。「新品の一番の競合は中古品になった」と言っても過言ではないと私は考えています。小売業である私たちは、「わざわざ新品で買ってもらう」ということと、真剣に向き合っていく必要があります。

このように「若者の価値観を醸成する要素」として、「情報量の増加」「集中力の低下」「中古で買える」の3つがあると私は考えました。今後、皆様が若いお客様を獲得していこうとする場合には、是非、この3つのポイントを踏まえて対策を考えていただければと思います。