Rakuten EXPO 2018

楽天市場出店者やECに関連する多様なビジネスパーソンが一堂に会し、最先端の情報を交換しながら、明日につながる学びを得る「楽天EXPO 2018」。ファッショントレンド発信地であるラフォーレ原宿への最年少出店をした株式会社ウツワ代表取締役社長・ハヤカワ五味氏が考える「情報が溢れる時代でも選ばれる商品にするために必要なこと」とは? 注目の若手経営者にその極意を聞きました。

ハヤカワ 五味 氏
1995生まれの22歳。東京出身、多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。課題解決型アパレルブランドを運営する株式会社ウツワ代表取締役社長。 高校1年生の頃からアクセサリー類の製作を始め、プリントタイツ類のデザイン、販売を受験の傍ら行う。大学入学直後にワンピース等の《GOMI HAYAKAWA》、2014年8月には妹ブランドにあたるランジェリーブランド《feast》2017年10月にはワンピースブランド《ダブルチャカ》を立ち上げ、主にEコマースを主として販売を続ける。複数回に渡るポップアップショップの後、2018年にはラフォーレ原宿に常設直営店舗《LAVISHOP》を出店。

3万円の元手から始まったシンデレラストーリー

今日はとても暑いなか、しかも、同時刻に大前研一*1さんのご講演が行われるなかで、こちらのフォーラムを選んで頂き、ありがとうございます。「まだ見えていない透明な売上を掴む」というテーマで、1時間お話しさせて頂きます。どうぞ、よろしくお願いいたします。

最初に、簡単に自己紹介をさせてください。私はハヤカワ五味(ごみ)と申します。本名ではなく芸名です。1995年生まれ、東京都出身で、多摩美術大学グラフィックデザイン学科を今年の3月に卒業いたしました。そして現在は株式会社ウツワの代表取締役社長をつとめています。元々、高校生時代からアクセサリーやオリジナルプリントのタイツなどを販売しており、高校3年間で立てた約300万円の売上を元手として、大学入学後に「GOMI HAYAKAWA(ゴミ・ハヤカワ)」と、その姉妹ブランドである「feast(フィースト)」を立ち上げて、水着や下着を販売しています。ブランド立ち上げからおよそ2年後の2016年夏には、累計販売枚数1万枚を突破しました。皆様は「大学生が手がけたこれらのブランドが、なぜここまで多くの方に知って頂くことができたのか」という点に、ご興味があるかと思います。

「シンデレラバスト」というワードがあります。お客様のなかでも頷いてくださっている方もいらっしゃいますね。これ、何かと申しますと「胸が小さいことをポジティブに言い換えた言葉」なんですね。足のサイズが小さいことを「シンデレラサイズ」と呼びますが、そこからヒントを得て「シンデレラバスト」というワードを生み出したわけです。このワードを使って、私のブランドの商品を世に広めていきました。

2016年にはワンピースブランドの「ダブルチャカ」を立ち上げて、ラフォーレ原宿や新宿伊勢丹などでのポップアップストアを実施させて頂いた後、今年の3月、ラフォーレ原宿内に常設直営店「LAVISHOP(ラヴィショップ)」をオープンしました。

ここまでの流れをまとめますと、高校生の時に「3万円」のお年玉を元手に始めた事業が、大学入学時の2014年には「30万円」の利益を生み、2014年末には「feast(フィースト)」の立ち上げによって「300万円」の利益(売上は約1,000万円)を出しました。そして2015年1月に法人化し、4期目となる今期の売上見込が「約6,500万円」となっています。

と、ここで気付いたのですが、年商ごとに色分けされた皆様の入場パスを拝見すると、私より売上の大きい「ビジネスの先輩」の方が多いんですよね。しかも、同時刻に別会場で行われている大前研一さんではなく、私のフォーラムを選んで頂いたということで、何かしら皆様に持ち帰って頂けるようにしたいと考えています。

*1 大前研一 | 1943 年福岡県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号、マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972 年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994 年に退社。以後も世界の大企業、国家レベルのアドバイザーとして活躍するかたわら、グローバルな視点と大胆な発想による活発な提言を続けている。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長及びビジネス・ブレークスルー大学大学院学長、2010 年4 月にはビジネス・ブレークスルー大学が開校、学長に就任。

透明な売上を掴むための「2つの考え方」

今日は「まだ見えていない透明な売上を掴む」というテーマでお話しさせて頂きますが、より実践的で、皆様のお役に立てる内容を考えて参りました。

まず、タイトルにもある「透明な売上」とは何でしょうか? 「本来立つべきだけど、まだ立っていない売上」のことを、私は「透明な売上」と呼んでいます。「良い商品が開発できて在庫も用意しているのに、なかなか売れない」「商品の評判はものすごく良いのに、リピート購入につながらない」というのが「透明な売上」ということになります。

この「透明な売上」を本当の売上につなげるために、私は2つの対策があると考えています。1つは「クリエイティブ分野」。これは「今までになかった新しいサービスやコミュニケーションを創造する」ということです。スタートゥデイが手がけるZOZOTOWN(ゾゾタウン)の「ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)」*2は「新しいツールでサイズを測定し、ぴったりのサイズの服をオリジナルブランドで提供する」という試みですが、これもクリエイティブ分野の一例と言えると思います。

もう1つの対策が「最適化分野」。これは、「すでにできあがっている事業やサービスを販売最適化する」ということです。こちらの方が「クリエイティブ分野」と比較して、より実践的であると思います。今日も、皆様、色々な方のご講演をお聞きになっているかと思いますが、コンサルタントの方などのお話をお聞きすると、「そもそも、こういう商品を作りましょう!」「全く新しいサービスを生み出しましょう!」というような、かなり上流の対策をご提案するケースが多いように思います。とはいえ、小売業に携わる者としては、「いま、ここにある在庫をどう売れば良いのか」「すでに開発し終えた商品を、これからどのように売っていくべきか」といった下流の部分に興味がありますし、皆様もそうじゃないかと思います。したがって、今日はこの「最適化分野」について、さらに深掘りしていこうと考えています。

*2 ZOZOSUIT(ゾゾスーツ) | アパレルECサイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」が提供する体型測定スーツ。全体に施されたドットマーカーをスマートフォンのカメラで360度撮影することにより体型サイズを瞬時に計測。計測された数値を元に、自分に適したサイズの服を注文することができる。

「最近の若い子は...」は禁句にしよう

「若いお客様が欲しい...!」。私の講演を選んで下さった方、私の話を聞きたいと思って下さっている方の多くは、この課題を感じているのではないでしょうか。お客様もだんだんと歳を取っていきます。私のブランドも4年目ですが、立ち上げの頃は高校生で商品を買えなかった方たちが、就職して買えるようになってきた、というケースも見られます。皆様のお店でも、「お客様が高齢化してきて、どうやって商売をしていくべきか」「これからはもっと若いお客様を開拓していこう」といったことを、考えていらっしゃるのではないでしょうか。

ただ、その一方で、こんなことも仰っていませんか? 「最近の若い子は...」と。「最近の若い子はクルマ離れで...」なんて話も良く聞きますね。『若者離れ』*3というタイトルの書籍も出ていて、この本では、「最近の若い子は...」とオトナ側が突き放すことで若者と距離を置くようになってきているのではないか、という指摘がされています。私も、「若者を突き放しても意味がない!」と考えています。「若者だから価値観が違う」と線を引いてしまったら、若者たちを表面的にしか理解できません。若者たちの行動を理解するためには、「何がそうさせているのか?」「どんなバックグラウンドがあって、若者たちは思考し、行動しているのか?」という点を明らかにすることが必要だ、と私は考えました。私自身も22歳なので、「今の若者は○○だ!」と直感的に言い切ってしまいたくなる気持ちも確かにあります。ただ、今日のこの場では、私個人の意見ではなく、「世代としての意見」「世代としての考え方」を俯瞰して整理し、お話ししたいと考えています。

*3 『若者離れ 電通が考える未来のためのコミュニケーション術』 | 電通若者研究部「ワカモン」による、若者とのコミュニケーション術の解説書。膨大な研究成果をもとに、部下、後輩、消費ターゲット、自分の子供など、若者を理解したいと考える世代必読の一冊(インプレス / 2016年)。https://books.rakuten.co.jp/rb/14342391/

情報爆発がもたらす「買い物のストレス化」

「若者の価値観を醸成する要素」として、私は3つあると考えています。1つ目は「情報量の増加」、2つ目は「集中力の低下」、3つ目は「中古で買える」です。今日はこの3本立てで進めていきます。

まず、「情報量の増加」からお話しします。「情報量が増加した」というのはよく聞きますが、具体的にはどのくらい増加したと思いますか? 数値をお示しします。「2020年の情報量は、2000年の情報量の6450倍になる」とのことです(出典;IDC「A Digital Universe Decade, Are You Ready?」)。「2000年までに人類が残した情報量と、2000年以降に人類が残した情報量は、ほぼ同等である」というデータもあるそうです(出典;IDC「A Digital Universe Decade, Are You Ready?」 / 「WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE」にも掲載)。つまり、2000年以降、かなりの勢いで情報量が増加しているわけですね。

さらに、「情報爆発、買い方の多様化で、買い物がストレス化する時代になっている」という報告もあります(出典;博報堂買物研究所「買物選択調査」)。私の母は現在48歳ですが、母が若い頃は「買い物は楽しいもの」だったと思います。私自身も、「あれを買いたいな」「これが欲しいな」とモノを買うのは楽しかったと記憶しているんですよね。ところが、ここまで情報が増えてしまうと、商品に関する情報が増え、ECを含めた買い方の多様化もあり、正しい判断に悩んでしまって、それがストレスになっている、ということなんです。

ただ、私自身も小売業に身を置いていますから、「買い物ストレス」というものを本当には理解できていません。なので、ちょっと楽天市場で試してみたんです。最近、暑くて食が進まないので「明太子なんてあったらいいなぁ」と思って調べてみました。「明太子」で楽天市場を検索すると、なんと1万6,000件もヒットするんです。1万6,000件の中から、たった一つの「明太子」を選ぶというのは、相当に難しい作業ではないでしょうか?

「明太子」は割と一般的な名詞なので、もう少し具体的な商品特徴で検索してみたらどうでしょう。私、「iPhone(アイフォーン)」をよく落とすので、ケースが欲しいと思っています。それも流行りのグリッター加工のものがいいので、これも「グリッター iPhoneケース」で楽天市場を検索してみました。すると、これでも1,800件もヒットするんですね。この1,800件の中からより良い商品を選ばなければいけないという「謎の使命感」や、ある商品を購入した後にもっと良い商品に出会うんじゃないかという「恐怖心」などを考えると、簡単に買い物できなくなってきているなぁ、と感じますよね。

検索2.0の時代で輝く「比較されないこと」と「オンリーワン」

これはつまり「検索の限界」が来ているということだと思います。とはいえ、「検索しても欲しい商品にリーチできない」という状態であっても、出店している側からしたら、やはり検索してもらわなければ商品は売れないわけです。そこで私は「検索2.0」というものを考えて来ました。これは何かというと、「そもそも他と比較されないこと」、そして「オンリーワンのキーワードで展開すること」。この2点になります。

「そもそも比較されないこと」というのは、例えば「タマゴといえばこのお店!」というように、そのカテゴリーでダントツのトップであったり、クチコミで拡がって名指しで検索されるというようなケースですね。「圧倒的に安い」というのも比較されないことではありますが、値下げやクーポンは店舗側に結構な負担が掛かるので、他の要素で比較されないポジションを築くのが大切になってくると思います。

そして、もう一つが「オンリーワンのキーワードで展開すること」です。これ、何か心当たりがありませんか? そうです。私のブランドで使っている「シンデレラバスト」というワードです。大掛かりなSEO対策はしていないのですが、「シンデレラバスト」で検索すると、私のブランドの商品が上位に上がってきます。私が受けたインタビュー記事の見出しにも「シンデレラバスト」というワードが登場しますし、このワードを知ってくれた方は「シンデレラバスト」で検索して下さって、私のブランドの商品にリーチする、という好循環になっているんですね。

「編集力」がモノをいう時代

先ほど「2000年から2020年で情報量が6450倍になる」とお伝えしました。ここまで情報量が増えた時代に、「検索2.0」という検索対策以外に、私たちには何ができるでしょうか? 私は「情報の編集」が必要になると考えています。ここまで情報が増えると、何が正しいのか、何を知れば良いのか、全く分からなくなってきます。最近ではフェイクニュース*4なども出てきて、正誤も分からない情報が溢れていますから。この状況では「情報を編集する人=編集者」が必要になってくるわけです。

「編集者」というのは「様々なジャンルの有益な情報を集めて発信する人」です。ファッション、文化、買い物、トレンド、様々な情報を集めて、知っておくべき情報を取りまとめるわけです。この「編集者」的な役割を果たしている人たちが、すでに存在していますね。もう聞き飽きているかも知れませんが、それが「インフルエンサー」という人たちです。「インフルエンサー」は、単に知名度があるというだけではなく、「情報を編集していること」に価値があるのだと、私は考えています。そのため、「インフルエンサー=芸能人」と短絡的に捉えるのは、非常にもったいないことと言えます。単に「芸能人に商品を使ってもらうだけ」ではダメなんです。

「インフルエンサー=編集者」という考え方が重要になってきます。「このインフルエンサーの発信する情報なら間違いない!」「このインフルエンサーはセンスがいいから、この人の発信している情報は信じられる!」というように、「インフルエンサー=一般の人から頼りにされる存在」と捉えた方が、マーケティングでお付き合いする際に間違いが生じないと思います。「インフルエンサーに情報発信をお願いする時は、内容はその方にお任せした方が良い」とよく言われますが、インフルエンサーには確かな編集力があるため、依頼する側が内容をコントロールするよりも、かえって良い結果が得られるんですね。

この流れでSNSの話をしましょう。「若者にリーチしたい」と考えると、すぐに「SNSを使おう!」となりがちだと思いますが、SNSこそ編集力が重要です。私自身、SNSで情報を発信する時は編集者になることを強く意識しています。むやみやたらに新商品の情報を流しても意味がありません。「顧客が欲しいと感じている情報」「顧客が有意義に感じる情報」をコンスタントに発信し続けることにより、顧客との信頼関係を築くことができるからです。

「SNSをやるべき」という風潮が強いご時世ですが、場合によっては「SNSをやらない」という選択肢もアリだと思います。「編集がうまくできない」「社内のリソースを十分に割けない」などの理由で、SNSの発信内容が中途半端になってしまうのであれば、いっそのこと、SNSの運用自体をやらないという判断も正しいと思います。弊社の場合、SNSからの流入よりも、検索からの流入の方が購買につながる割合(コンバージョンレート)が大きかったため、SEO対策にリソースを傾けるようにシフトしています。弊社で扱っている下着や水着といった「コンプレックス商材」の場合、SNSで見たからといって購買意向が強くなるかと言うと、必ずしもそうとは言えません。SNSとの相性が良いとは言えない商材であれば、闇雲にSNSを運用するよりも、お客様の購買行動につながりやすい場所・施策にリソースを割くべきだと考えています。

*4 フェイクニュース | 虚偽の情報でつくられたニュースのこと。主にネット上で発信・拡散される嘘の記事を指すが、誹謗・中傷を目的にした個人発信の投稿などを含む場合もある。2016年の英国・EU離脱の是非を問う国民投票 および 米国・大統領選の投票では、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通して多くのフェイクニュースが拡散され、投票行動に大きな影響を与えたという批判がなされた。