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浅野屋丁稚塾
番頭への道「その8 絹は生きている」

繊維にはいろいろな素材があります。天然素材で一般的なものは綿・麻・ ウール・そして絹でしょうか?
綿・麻はご存知のように植物から、ウールは羊の毛、絹は虫からですよネ 絹は繭から、その繭は蚕が出し、蚕は桑の葉っぱを食べて大きくなるんで す。

あのしなやかで光沢のある絹とお蚕や蛾はなかなか結びつかないかもしれ ません。昔は養蚕・製糸は日本の主力輸出品であり日本中で営まれていた ようです。そういえば、昔は近所に桑畑があったりしましたもんね。

世界遺産になっている地元岐阜県の白川郷の合掌造りも2階から上は蚕を 飼うためのスペースだったんです。

前置きが長くなってしまいましたが、「絹は生きている」と修行先の社長 から教えられたことがあります。先日、高崎の裏絹のメーカーの方からも 同じことを言われ、「そうや!」と思い返したのがこのお話のキッカケで す。

絹で出来た着物は、歳月が経つと黄ばんで来ます。絹は本来そうなんです。 特に裏絹・・・着物の裏地に使われる表地より少し薄目の白い絹布は、表 より早く黄ばみます。これは、着物全体に籠もった湿気を裏絹が吸収する ことによって表が黄ばむのを未然に防いだりするためです。

裏絹は着物保管の指標となるのです。絹は空気中の酸素と反応して黄変す るといわれます。ですから、絹を黄変させないためには絹を窒息させる加 工を施すことになります。

誰でも黄ばんだ着物を着るのは望みません。でも絹は生きているから、又 生きているからこそ黄ばむ宿命を本来持っているのです。

黄ばんだ裏地は着物を洗い張りをし、漂白することによって白さが戻りま す。また、最初から黄変の防止加工を施した裏絹を使う方法もあります。 出来た着物を鰹節のパックのように酸素を抜いて窒素ガスを入れたパック で被う方法もあります。

あとの二つは最初から施す黄変の防止手段で、パーフェクトではありませ んが、当店でも導入している方法です。ただし、これは絹を窒息させてい ることになります。

呉服屋として大切なのは、それらの認識をもった上でお客様に対応するこ とです。「枯れない花がないように、腐らない果物がないように、黄ばま ない絹はありえない。黄ばまないとしたら、本来の絹の姿ではないか、或 いは化学繊維。」ということなんです。

でも、着物一つ買うのに寸法・八掛・柄あわせ等いろいろな要素があり、 難しい話をし出すとお客様が混乱してしまうケースもありますから、その 点は配慮が必要になります。

ただ、「この絹は絶対に黄色くなったりはしません!」などと口が裂けて も言ってはダメということです。

と言うことで、「世の中パーフェクトはありえない!」
頑張ってください!・・・目指せ 大番頭!!


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