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2009/05


 爽やかな季節、風にそよぐ木々や草花を見ると、りきみのない自然の姿の良さに気づくものですね。ああ、自分もそうありたい、と。そんな気分にぴったりの色といえば、生成(きなり)かもしれません。染めたり晒したりしていない自然のままの糸や生地の色をいうこの色名は、いわゆるナチュラル志向が尊重される時代になって一般化したそう。ベージュを薄くしたような色合いで、温もりを感じつつも、洗いたての木綿のごとくさっぱりとして気持ちのよい色です。
 ところでナチュラルという言葉は“飾らない”とか“ありのまま”といった意味もあって、生き方や暮らし方を表現するときにもよく使われます。1970年代にアメリカの女性歌手キャロル・キングが発表した「ナチュラル・ウーマン」という名曲がありますが、その内容は、毎日が憂鬱で人生に迷っていた私だったけど、あなたが本当の私に気づかせてくれたの…、といったもの。今春リリースされたばかりの韓国人ジャズヴォーカリスト、マユミ・ロウさんのCDにもこの曲が入っていて、彼女の歌を聴いていると自分に素直に生きることの幸せや、それを支えてくれる人の大切さに、ふと思いを馳せてしまいます。人それぞれ、さまざまな経験を経てきたからこそ、自然体であることの素敵さを感じるのでしょうか。生成という自然の色も、もしかしたらあどけない子どもよりも、自分をよく知り、自分らしく生きる大人にいっそう似合う色なのかもしれません。
  



浅野屋呉服店では色についてより正確にイメージをお伝えし、また、お客様の思いにより近い色の感覚を共有させていただくために、小学館刊「色の手帖」第1版第22刷を拠り所としています。
今回の生成の色味としては、同書のP88をご参照ください。


(エッセイ・羽渕千恵/イラストレーション・谷口土史子)



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