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2008/10


 空高く、からりと乾いた過ごしやすい季節になると、やはり秋らしさを感じるブラウン系のものを身の回りに取り入れたくなります。ヨーロッパの町並みをイメージする煉瓦色(れんがいろ)もおしゃれな色で、まさに赤煉瓦のような赤みと黄みのある暗めの茶。上品さと温もりを合わせ持つ色です。
 さて煉瓦といえば建物に多く使われるわけですが、その代表例が東京駅。丸の内側の赤煉瓦駅舎は1914年の開業当初の規模を縮小して戦後修復したもので、愛着を抱く市民による保存運動が成果をあげ、今も現役で人々の往来を見守っています。
 もちろん煉瓦といっても「赤」ばかりではありません。東京駅が開業した同じころに、アメリカの著名な建築家、フランク・ロイド・ライトが東京の旧帝国ホテルの設計をしたことは有名な話ですが、その建物の内外を飾る煉瓦の色としてロイドが求めたのは「黄色」でした。その要求に応え、大量の煉瓦をつくった地が、焼き物の町として有名な愛知県常滑市。ここを本拠地とする世界的なタイルメーカーの創業者、伊奈氏が、ロイドが求める煉瓦づくりに関わり、そのことが企業の礎となったことはあまり知られていません。
 旧帝国ホテルは取り壊されましたが、その中央玄関を愛知県犬山市にある明治村に移築。煉瓦はその際につくり直したものの、一部は当時のものを使ったとか。秋空の下、煉瓦色に包まれた建築散歩をしてはいかがですか。


  


浅野屋呉服店では色についてより正確にイメージをお伝えし、また、お客様の思いにより近い色の感覚を共有させていただくために、小学館刊「色の手帖」第1版第22刷を拠り所としています。
今回の煉瓦色の色味としては、同書のP42をご参照ください。


(エッセイ・羽渕千恵/イラストレーション・谷口土史子)



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