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2007/06


 草の先についたまんまるの露、やさしく聞こえる雨垂れの音、晴れ間にかかる七色の虹。水に満ちる季節はなんとなくロマンチックですね。ということで、日本の色名でロマンチックな印象のものを探してみたら、想思鼠(そうしねず)がありました。
「想う」と「思う」が重なって「そうし」と呼ぶ鼠色。“相思相愛”という響きを思わせる色とは、何とも魅力的です。色合いとしてはうすい紫みの青で、グレーよりブルーに近いといったらいいでしょうか。その名の由来は不明ですが、近代になって使われるようになった文学的な香りのする表現とも言われています。控えめで気品があり、涼やかさのある想思鼠は、単衣や絽などの夏の着物にふさわしい色でもあります。
 ここで少しだけ相思とも想思とも表現される花と鳥の世界を遊んでみましょう。
想思華とは、日本で彼岸花、曼珠沙華と呼ばれる花の韓国名。花と葉が同時に出ない彼岸花を、韓国の人たちは“花は葉を想い、葉は花を思っている”という風に見立てたようです。想思鳥はスズメの仲間で、全体としてオリーブ色を呈しており、オレンジ色のポイントがチャーミング。さえずりの美しさでも知られるこの鳥の名の由来は、雌雄が仲睦まじいからとも、他の鳥と一緒に飼っても仲良くするからとも言われています。
 想い思われて生きる花や鳥。もしかしたら想思鼠という色のなかにも、目には見えない愛情物語が隠されているのかもしれませんね。

  


浅野屋呉服店では色についてより正確にイメージをお伝えし、また、お客様の思いにより近い色の感覚を共有させていただくために、小学館刊「色の手帖」第1版第22刷を拠り所としています。
今回の想思鼠の色味としては、同書のP195をご参照ください。


(エッセイ・羽渕千恵/イラストレーション・谷口土史子)



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