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2007/03


 春らしさが増してくると、散歩道の足元で黄色の花によく出会います。大人も子ど ももよく知っているタンポポは、親しみを感じる存在。名前を聞いただけで、ほんわ かとした気持ちになるものです。  でも、私たちがよく見かけるタンポポは、実は大半がセイヨウタンポポ。西洋では 古くから食用として利用していたものです。日本にこのセイヨウタンポポが持ち込ま れたのは明治初期のこと。やがて種が風に乗り広まっていったのでしょう。在来種よ りも圧倒的に増えてしまいました。その原因の一つは繁殖能力の差。春にしか咲かな い日本在来のものとは異なり、セイヨウタンポポは年中花をつけるのです。  とはいえ、自然が破壊されていない農村では今でも日本のタンポポを見つけること ができますから、あぜ道や土手でじっくりと探してみましょう。見分け方は簡単で、 総苞片と呼ばれるつぼみを包む葉の部分が、花の時期にセイヨウタンポポは反り返り、 日本のものは花に添いギュッと閉じています。  いずれにしても春が訪れたばかりの山や野を歩くのは楽しいもの。レンギョウ、サ ンシュユ、菜の花と三月に咲く花には黄色が多く、こころひかれることに気づきます。 それは春の陽光を連想させる色だからでしょうか…。温かみに満ちた蒲公英色(たん ぽぽいろ)を経て、淡くやさしい色彩を愛でる感性へ。そう、まもなく桜の季節です。

  


浅野屋呉服店では色についてより正確にイメージをお伝えし、また、お客様の
思いにより近い色の感覚を共有させていただくために、小学館刊「色の手帖」
第1版第22刷を拠り所としています。

今回の蒲公英色の色味としては、同書のP104をご参照ください。



(エッセイ・羽渕千恵/イラストレーション・谷口土史子)



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