犬のアトピー性皮膚炎についてお話しさせていただく前に、人のアトピー性皮膚炎に少し触れておきたいと思います。
そこで、日本皮膚科学会における定義及び診断基準を下記に引用させて頂きました。

[アトピー性皮膚炎の定義]
日本皮膚科学会の「アトピー性皮膚炎の定義、診断基準」によれば、
アトピー性皮膚炎とは、
「増悪(ぞうあく)、寛解(かんかい)を繰り返す、掻痒(そうよう)のある湿疹を主病変とする疾患であり、 患者の多くはアトピー素因を持つ」
とされています。
アトピー素因とは、
家族歴、既往歴(気管支喘息・アレルギー性鼻炎・結膜炎・アトピー性皮膚炎のうちのいずれか、あるいは複数の疾患)、
または、IgE抗体を産生しやすい素因のことです。

表1 アトピー性皮膚炎の診断基準

アレルギー疾患診断・治療ガイドライン2010より引用


つまりアトピー性皮膚炎とは、
「アレルギー体質の人に生じた慢性の痒い湿疹」 で、症状としては痒みを伴うこと、発疹は湿疹病変で、急性の病変としては赤くなり(紅斑)、ジクジクしたぶつぶつ(丘疹、漿液性丘疹)ができ、皮がむけてかさぶたになる(鱗屑、痂皮)状態です。

慢性の病変としてはさらに皮膚が厚く硬くなったり(苔癬化)、硬いしこり(痒疹)ができたりします。
発疹はおでこ、目のまわり、口のまわり、くび、肘・膝・手首などの関節周囲、背中やお腹などに出やすく、左右対称性に出ます。乳児期は頭、顔にはじまりしばしば体幹、四肢に拡大していき、思春期、成人期になると上半身(顔、頸、胸、背)に皮疹が強い傾向があります。ドライスキンもより顕著になってきます。
また、慢性に経過する疾患で、乳児では2ヵ月以上、その他では6ヵ月以上継続するものをいいます。





では、犬においてはどのようになっているのでしょうか。
上記の人の基準でよいと言ってしまえばその通りなのかもしれませんが
犬の身体に置き換えてお話ししてみたいと思います。

犬においてアトピー性皮膚炎はよく見られる掻痒性皮膚炎(激しいかゆみ)であり、
アレルゲン特異性のIgE抗体の発生に関係があるとされています。
報告されている研究者によってまちまちな数字になっていますが、
発生率は2〜15%ぐらいであるとされています。
しかし、私自身はもう少し多いのではないかと思っています。(人では3割近くを占めているそうです)
発症時期としては、ほとんどが6ヶ月齢から7歳と幅は大きく、初めて疾患兆候を示すのがその時期にあるようですがその中の多くは3歳までに発現するとされているようです。

また、症状は季節には関係なく発現するとされていますが、多くは初期においては季節性に始まり、進行に伴い非季節性になり、年間発症時間が多くなってくるという病歴をもっているとされています。
また、ある研究者によると
それらの兆候は1歳までに出ているものが多い。あるいは1歳以下に発症する。
ともいっておられ、ただし何事にも例外はあると付け加えておられます。

これはアトピー性皮膚炎の原因となるものが遺伝的要因が強く、
80%の誘発要因、いわゆる抗原となるものが環境の中に存在する(環境抗原)とさえいわれているからです。
日本においては皆さんがよくご存じのスギ花粉がありますが、
犬においてもIgEの上昇を認めるなかの10%程度を認めているそうです。


IgEの検出がアトピー性皮膚炎の診断に使われますがいつの血液であっても良いということではありません。
このIgE値は抗原の存在時期に応じて変化することを念頭に置かなければなりません。
まったく問題のない、痒みもない時期に検査をしても診断が適切に行われるか否か、ということになります。
※環境抗原には
・ハウスダストに含まれるコナヒョウヒダニやヤケヒョウヒダニ
・花粉
・寄生虫(ノミやダニなど)
・ある種の食品
・微生物(細菌・酵母・糸状菌など)
・生物学的製剤(ワクチンなど)
・薬品
等があるように思います。




では、アトピー性皮膚炎においてはどのような症状を訴えられて病院におこしになられることが多いのでしょうか。
これはいうまでもなく「身体を掻く。異常に痒がっているんです」とおっしゃる場合がほとんどで、いわゆる掻痒(そうよう)が圧倒的に多いように思われます。
このような訴えになるのは原発性の湿疹(例えていうならば丘疹や膨疹など)がアトピー性皮膚炎には普通みられることが少ないからだと思います。(痒みのみで他に何らかの異常が皮膚に認めない)
そのため、獣医師はお話しさせて頂いたような事柄を細かくお聞きし、視診をおこないます。
それは、痒みによる結果としての病変が存在しているかの確認です。

・顔面・・・特に目の周囲や口の周囲にきわだった病変、病巣はないか。
・耳・・・・以前にも外耳炎でお話しさせて頂いたように耳道に病変はないか。
・四肢・・・特に手根部(手首のところ)や、前足の指の間など。足根部(かかとのところ)や、
      後足の指の間など。ひじの裏やひざの裏など。
・体幹・・・腋窩部(脇の下)や内股部(内腿の付け根)あるいは腹部に病巣はないか。
※これらはアトピー性皮膚炎における特徴的な発現部位をしめしているかと思います。
 単独や組み合わせた部位に発現します。




ある研究者によれば、
アトピー性皮膚炎において以下のような発現率があるとされています。


外耳炎(私はもっと多いように思っています。 以前の外耳炎のお話しをご参照ください)
結膜炎(アレルギー性結膜炎)
全身性における皮膚病(特徴病巣があるようにみえるが全身性病巣が存在する)
細菌感染による膿皮症(化膿したような褥瘡も含めた皮膚病変)
 毛包炎・節腫症・湿疹性皮膚病などを含む。
※膿皮症においては再発するものも少なくはありませんが、多くの原因や誘発要因が示唆されており、アトピーもこの要因の一つとされています。
脂漏性皮膚炎
多汗(以前にお話しさせて頂いた分泌腺の存在する場所がべとべとする)
上記以外で稀に、アレルギー性鼻炎やアレルギー性喘息や消化器系の異常もみられるとされています。


次回は、同じように痒みがでる疾患が多く存在する中でどのようにアトピー性皮膚炎と区別したらよいのか(類症鑑別)あるいはどのように見極めればよいのか。
今までのお話でお分かりになられたことと思いますが、少しでも“もしかして”と思っていただけるよう
少しでも早くお気づきになられることができますようにとお話しさせて頂きます。