今回は以前までにお話しさせて頂いた素因以外の外耳炎になる素因・要因をお話しさせて頂きます。
これらは、
�＾貅＼�因子（直接的に外耳炎を起こす引き金になる素因。）
と、もう一つは、
��外耳炎の悪化要因（外耳炎における治療・治癒を妨げ悪化・持続させることとなる要因）
に分けられるかと思っています。





一次性因子には、局所性要因と全身性要因があろうかと思いますが、後者の全身性要因については以前にお話しさせて頂いた素因・要因があげられると思います。
今回は局所性要因についてお話しさせて頂きたく思います。

局所性の問題としては
　・ダニ
　・異物
　・治療過誤
などがあると思います。


・ダニ（耳ダニ）　：学名Otodectes cynotis

ミミヒゼンダニは耳道を自由に動き回り耳疥癬症(みみかいせんしょう)をおこさせます。
ヒゼンダニは耳道の上皮表面に生息しますが、ときには皮膚表面にも生息する強い伝播力※を持っています。
犬における耳炎の10%、猫においては50％もの関与があるという報告もあります。
また実際のヒゼンダニにおける発症率はこれより高いとさえいわれています。

なぜなら、検査で検出のできない少数のダニで耳炎を生じる場合があるからだともいわれているからです。

ダニは耳だけの危険性ではなく、
二次的に化膿細菌や酵母の感染が起こると耳道から皮膚へと移動する場合があり、炎症が耳だけではなく、耳介や全身の皮膚に病変を引き起こす可能性を秘めているからです。

また、このダニは肉食動物間に特異性がない※ので、
ご存知の通り、ご家族(人)にも感染する事態に遭遇する場面もありうるからです。

そして、免疫的にも厄介で、
「ダニはリンパ液や血液を吸い、それによってダニ抗原に侵され、抗体を産生することとなります。 そうなると、ダニ抗原に対し即時に免疫反応が起き症状が発現する厄介な事となる」
といわれています。
猫においては87%が証明されたとの報告もあります。

耳疥癬治療においてダニがいなくなっても、それらの事が今後の治療その他に大きくかかわってくることはいうまでもないことだと思います。
このこと一つをとってみても、単純にみえる疾患が今後の体質や治療、診断に大きく左右されるという事を、我々獣医師も主治医である自覚を認識し、肝に銘じなければならないことだと思っています。


(ALBIOT注)
コラムNo.28の耳の構造の画像をご参照下さい。
おおまかな耳道(外耳道)の範囲としては一般的に「耳」とよばれている外側の部分の根元から内側の鼓膜へと続く部分を言います。 その耳道内の表面部分を「耳道の上皮」と言い表されています。
イメージとしては飲み物を飲む時に使うストローの飲料の通り道である内側部分の事です。
そして、ここで書かれている「皮膚表面」は「耳の外側を含む全身の皮膚」とお考え下さい。
ちなみに、一般的に「皮膚」と呼ばれている部分は、体の外側(空気に触れる側)から内側へ向かい、表皮(上皮)→真皮→皮下組織の順に層を作っており、 それらを全てまとめて「皮膚」と呼ばれます。
医学用語上の【特異性】は「限定されている」や「特化されている」と同様の意味で捉えてください。
限られた範囲でのみ働く場合に用いられる用語です。
そのため上記の【ダニは肉食動物間に特異性がない】の場合は「ダニは特定の生物にのみ寄生する訳ではなく肉食動物であれば何にでも寄生できる」となります。


・異物

私が診せて頂いた中で多かったのは、植物の芒（のぎ）であり、欧米のある地方では最も多い外耳炎における原因の一つとされているようです。
あながち簡単に扱うものではなく、綿棒などで押し込んでしまい鼓膜に入り込んだり、あるいは自然に入り込んだり、見落とすことで治療効果が出なかったりすることがあるため、草むらなどでよく遊ぶ場合には気を付けなければならない一つのように思います。エノコログサがたくさん生えている場所は特に気を付けられたほうが良いように思っています。
多くの症例では、急性かつ片側性※ではあるものと、そうではない場合もあることを知っておく必要もあると思います。
親御さんの獣医さんへお話しされる場合に大切な一言になるやもしれません。


(ALBIOT注)
【片側性】とは(体の)半分側(片側)にだけ異常が見られる場合に使用される用語です。
耳のお話ですので、この場合は「左耳だけ」とか「右耳だけ」と言った意味を含む「片側だけ」の意味になります。
「そうではない場合もあることを・・・」とあるように片側だけではなく「両耳に異常が出る」場合も考えられます。
この場合は【両側性】と言います。
「片側にだけ異常がでるのか」「両側とも異常がでるのか」といった事でも考えられる原因に違いがあるため治療法も異なるようです。



・治療過誤

お耳の治療時において、綿棒を使用するにあたり必要以上の力が加わったり、弱っている上皮に傷をつけてしまったり、使用する局所薬における刺激がときとして悪化や持続の原因になりうる。
このことは、獣医師は常に頭におかなければならない一つかもしれません。





外耳炎の悪化要因としては、

・微生物（細菌・酵母・真菌）
・耳道の組織変化
があげられると思います。

耳道の組織変化はここでは腫瘍を取り上げさせていただきます。


・微生物（細菌・酵母・真菌）

これらは、以前にもお話しさせて頂いたように多くの場合、正常な状態であっても耳道内に持っておりますが、これらの微生物の中には病原性があるものもあり、一定の均衡を保って共生しているといっても過言ではないと思います。
そのため、耳道内の環境がそれらの微生物に都合の良いように変化すれば、瞬く間に炎症を引き起こすことをご理解ください。
それらを予防するには以前にお話しさせて頂いてあるよう主治医さんとの連携が重要に思っています。 (【コラム034】分泌過多性や先天性角化症性など)


・腫瘍

この症例は初期段階から診断することが難しく困難な場合が多いように思います。
「適切な検査・治療にも応答しない外耳炎の慢性症例には、腫瘍を考えるべきである」
とさえいわれています。
ではどのような種類の腫瘍があるのでしょうか？
これらは皮膚またはその付属構造から発生することがあり、報告されているものには、

○扁平上皮癌
○組織球腫
○皮膚腺腫・皮膚腺癌
○基底細胞癌
○肥満細胞腫
○軟骨腫・軟骨肉腫
○毛包上皮腫
○アポクリン腺腫・アポクリン腺癌
○線維腫・線維肉腫
○乳頭腫

などがあげられます。
また、犬における耳の腫瘍は猫におけるものより多く存在するとされていますが、悪性度は猫の方が大きいとされています。






以上をもちましてお耳の病気を最終話とさせていただきます。
最後に、獣医師の考えを少しお話しさせて頂き、終えさせていただきたく思います。

私たち獣医師はお耳の病気で来院された場合、今までの事柄を踏まえ、
親御さんに様々なことを細かくしつこいほどお聞きさせていただくことがあります。

お耳には関係がないような皮膚科を中心とした様々な病歴や、身体一般検査をさせていただく場合があります。
これらは、鑑別診断をするのに最初の一歩に過ぎないからです。

病歴を軽々しくお考えの獣医師には（いらっしゃらないと思っています）
鑑別診断を行う前に治療をおこない、良くなったとしても今後の予防や再発防止において的確な指導ができないように思います。
親御さんも「治ればいい」から「ならないようにする」というお気持ちを持たれることが大切なように思います。
また、それらのことがお耳以外の予防や体質などの大切なことを導きだすこともしばしばあると思っていただきたく考えています。
その子の環境も一つの大切な手掛かりになることを上記の異物による外耳炎でお話しさせて頂いたように感じていただければ幸いに思います。
ダニをもらった。これも環境の一つではないでしょうか。

たかが“耳”
されど“耳”
導きだされるものはその子にとって最も大切なことかもしれません。

ありがとうございました。　　




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