Prologue
- Coffee break story -
いつからか、大人になっていくに従ってコーヒーの美味しさがわかるようになってきた。子供の頃、何故大人たちは真っ黒で苦い飲み物をおいしいと言って飲むのだろうと不思議だった。
社会に出るようになってそれなりにコーヒーを飲むようにはなったものの
どちらかというと無頓着で、種類の違いや味も判らずだった。
ただ、どこかホッとする感覚だけは何となく感じていた。
そんな時、学生時代の友人の家に招かれ、昔話に花が咲く。
輸入商社に勤める友人が自身が手がけたコーヒーをふるまってくれるという。
焙煎された豆をその場で丁寧に挽いてゆっくりと時間をかけて
ドリップして出されたコーヒーを口にしたとき、
そして、友人との会話を楽しみながら、少しづつ穏やかに温度が下がっていく
コーヒーを飲み終えたとき、これまでの私は大きな誤解をしていたことに気づいた。
コーヒーってこんなに美味しいんだ…
そして、味覚以上に満たされる感覚は何なんだろう…
そうか、丁寧にゆっくりとコーヒーを淹れる一連の工程とその時間、
部屋を満たす香ばしくふくよかな香りが五感を刺激し、心身ともに私を満たしているんだ!
「運命的」と言ったら言い過ぎ。
でも、それぐらい何かから解き放たれたように
心の曇りが薄れクリアになっていったのを鮮明に覚えている。
これまで見えていなかった大切なことがちゃんと見えるようになったのも
この時から。
「Coffee break」…それ以来、私はこの時間を大事にしている。
忙しい日々だけど、何かに忙殺されて時間だけが過ぎていくこともあるけど
手間や時間を惜しまず、ゆっくりと丁寧にお気に入りの豆を挽いてコーヒーを淹れることが
私の「癒し」であり、同時に私自身の「心の修正」にも。
私も少しは大人になったかな?