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Interview

突撃インタビュー

2024/02/13

ピエロ マストロベラルディーノ氏 Mr. Piero Mastroberardino

カンパーニャで最も長い歴史を誇る名門マストロベラルディーノ現当主ピエロ氏来日!先代へのオマージュ「スティレマ」プロジェクトと3つのタウラージの比較試飲セミナー

ピエロ マストロベラルディーノ氏
カンパーニャ州で最も長い歴史をもつ「マストロベラルディーノ」の現当主10代目ピエロ マストロベラルディーノ氏が来日。一族の歴史と現在、そして新しいプロジェクト「スティレマ」シリーズについての試飲セミナーに行ってきました。

カンパーニャで最も古い歴史を持つマストロベラルディーノ家

マストロベラルディーノ家は、1700年代から10世代にわたってワインを造り続ける一族です。ワイナリーとしては、私の曽祖父のアンジェロ マストロベラルディーノが輸出を始めてから発展が始まりました。アンジェロの息子のミケーレが1920年に世界の全大陸に輸出し始め、事業を拡大。そして私の父アントニオが戦後、カンパーニャの地ブドウの発展に大きく貢献しました。

2019年にワイナリーに「MIMA」というアトリパルダ マストロベラルディーノ博物館を創設しました。ここには10世代、300年続く一族の重要な書物などが10000点以上保管されています。それとは別に、カンティーナには、戦前や戦中のヴィンテージのボトルも大切に保管しています。

カンティーナの内部の熟成庫には壁や天井にワインの神話をモチーフにしたフレスコ画が描かれています。ワイナリー見学に来ていただいた方にご覧いただいています。

カンティーナ

3つのDOCGを生むイルピニアで土着品種だけにこだわったブドウ栽培

マストロベラルディーノの畑はカンパーニャの中でも内陸部の山の中のイルピニアにあります。イルピニアはカンパーニャの3つのDOCGが造られているエリアです。フィアーノ ディ アヴェッリーノ、グレコ ディ トゥーフォ、タウラージです。私達はが栽培しているのは、土着品種だけです。特に重要なのが、これらDOCGを造るフィアーノ、グレコ、アリアニコです。

イルピニアのワインの特徴は、エレガントさ、フレッシュさ、フィネス、そしてミネラルがあること。標高の高い畑で造られるマストロベラルディーノのワインにはこれらの要素があります。この要素は酸によって感じることができます。また、ミネラルはイルピニアの火山性土壌に起因しています。

そして、長期熟成ポテンシャルがあることもマストロベラルディーノのワインの特徴です。先日、ニューヨークで『ワインスペクテーター』誌によるマストロベラルディーノのタウラージの垂直試飲イベントがあり、100年熟成のものも出されました。これは記事にも掲載されているので、機会があればお読みいただければと思います。

畑の風景

父アントニオの時代の“ブレンドの美学”を現代に蘇らせたプロジェクト「スティレマ」シリーズ

今日は、新プロジェクトの「スティレマ」シリーズのフィアーノ、グレコ、タウラージと、そしてスティレマを含む3つのタウラージの比較試飲をして頂くことになっています。

アントニオ氏スティレマは私の父アントニオへのオマージュです。1950~1960年代に彼が造っていたスタイルを現代に蘇らせています。スティレマは、簡単に言うといろいろな畑の良いブドウだけをブレンドして造っているスタイルです。1950~60年代は、様々な畑のブドウをブレンドして完成させる“ブレンドの美学”をアントニオは表現していました。一方、1978年以降は、イルピニアにクリュの概念が生まれ、単一畑でワインを造るというスタイルに変化していきました。

スティレマは、複数の畑の良いブドウをブレンドさせることで、複雑さやDOCG地区のテロワールを表現することを目的にしています。これがスティレマの特徴です。

例えば、グレコは4つの畑があります。最も重要な畑がモンテフスコで、標高が高く、フレッシュ。ここからクリュ ノヴァテッラが造られます。一方トゥーフォとペトルーロ イルピノは硫黄感が出てきます。これはクリュにするとこの以降感が出過ぎてしまうので単一では造りません。ブレンドすることでミネラルやほのかなヨード感が加わります。

畑の位置

「スティレマ」「ナトゥラリス イストリア」「ラディーチ」 3つのタウラージリゼルヴァの違い

本日飲んで頂く3つのタウラージ リゼルヴァはすべて2016年ヴィンテージです。タウラージのエリアは北と南でも違います。南は標高が高く、高いところで700mほど、北は比較的なだらかで350~450mです。どの畑のアリアニコを使うかでワインのキャラクターは違います。アリアニコは果皮にタンニンなどの成分が含まれるので、どの程度抽出を行うかによってもワインのキャラクターが違ってきます。醸造や熟成の違いもワインの個性が違います。

3つのタウラージ

タウラージだけでなく、アリアニコからはフレッシュな赤ワイン、ロゼワイン、そして白ワインも造られています。

長い歴史を持つワイナリーとしての使命と社会貢献

マストロベラルディーノは30年前からサステイナブルに取り組んでいます。畑からカンティーナまで環境への配慮をした「マストロ グリーン」を実践しています。そして2011年にイタリア環境省によって提唱された「VIVA(イタリアブドウ栽培サステイナブル プロジェクト)」のリーダーとしての活動も行っています。

長い歴史を持つワイナリーとして研究が終わることはありません。イルピニアの中にもまだまだ新しい気づきがあります。マストロベラルディーノはホテル、レストランも運営していますので、ぜひ私達のホスピタリティを体験しにいらしてください。

“エレガンスの巨匠”とも呼ばれるフィアーノで造る長期熟成ポテンシャルを持つリゼルヴァ

フィアーノは、「ヴィティス アピアーナ(ミツバチに愛されているブドウ)」と呼ばれていた品種です。そして“マエストロ ディ エレガンス”つまりエレガンスの巨匠とも呼ばれています。

スティレマ フィアーノ ディ アヴェッリーノ リゼルヴァは、フィアーノ中のトップキュヴェです。40~50年は長期熟成できるポテンシャルを持っています。特徴は、24ヶ月間シュールリーをしていること。そして1年半から2年半、瓶熟成しています。これは2019ヴィンテージですが、4年以上熟成させたとは思えないほどの透明感があります。白い花や梨、そしてトーストしたヘーゼルナッツの香りに、火打石やフュメのニュアンスがあります。
スティレマ フィアーノ ディ アヴェリーノ リゼルヴァ2019

試飲
コメント

塩気のあるミネラルとヨード香、さらにクリームも感じます。厚みのある味わいながら飲み心地はスムーズ。そしてしっかりとしたミネラルが長く続きます。

赤のような力強さを持つグレコで造る厚みのあるミネラリーなリゼルヴァ

グレコは、ギリシャから伝わってきたブドウですが、「アミネア ジェミナ(ギリシャの双子のブドウ)」と呼ばれていました。ブドウの房が双子、つまり2倍できるということでその名がついていました。

グレコ ディ トゥーフォとフィアーノ ディ アヴェッリーノのエリアは接してはいますが、この2つのワインは個性が違います。グレコはフィアーノに比べると、香りに強さがあり、ストラクチャーがしっかりしています。赤ワイン的な特徴を持っています。

海のミネラルが感じられますが、熟成が進むとガソリンぽいトーンが出てきます。フィアーノは白い花や梨の香りでしたが、こちらは桃や黄色い果実、アーモンドを感じさせます。香りも力強く、そして味わいには粘性があります。
スティレマ グレコ ディ トゥーフォ リゼルヴァ2018

試飲
コメント

フルーティーでミネラルを感じるアロマ。果実の厚みのある味わいとともに塩っぽいミネラル、フレッシュがあり心地よい。

短めのマセラシオンによる透明感、エレガンスを感じる洗練されたタウラージ リゼルヴァ

2016ヴィンテージが現在の現行ヴィンテージになります。マストロベラルディーノにとって、重要なタウラージです。

3つのタウラージ(スティレマ、ナトゥラリス ヒストリア、ラディーチ)を並べて注いでもらいましたが、比べてみるとスティレマは透明感があります。マセラシオンが8日間と短く、しかも18度ぐらいの低めの温度でやっています。このことでフレッシュさが出ています。

小さい赤黒系の果実のニュアンス。イチゴジャムのような味わいも出てきます。酸と心地よいミネラルのおかげでとてもフレッシュな味わいで喉越しもスムーズです。36ヶ月間樽熟成(大樽主体)しています。
スティレマ タウラージ リゼルヴァ2016

試飲
コメント

チェリーやプラムなどの果実とスパイス。フレッシュさのある滑らかな味わいで綺麗な酸と心地よいミネラルが上品なバランスを作っている。スムーズな飲み心地で余韻も長い。

樹齢50年超のアリアニコをバリック熟成、濃密で甘いトーンのあるタウラージ リゼルヴァ

こちらは樹齢50年超の「ミラベッラ エクラーノ」の畑のアリアニコから造っています。バリック(旧樽)で24か月間熟成させています。赤く濃密な果実の香りがあります。甘いトーンがあり、先ほどのスティレマとは全然違います。
ナトゥラリス イストリア タウラージ リゼルヴァ2016

試飲
コメント

甘やかで濃密感のある果実のアロマ。まろやかでジューシーな味わい。果実の甘みと強さをしっかりと感じる。余韻にはバニラのニュアンス。濃厚さのある力強いタウラージ。

タウラージのクラシックな味わいが楽しめるラディーチ リゼルヴァ

この2016ヴィンテージは、『ワインスペクテーター2023』の年間トップ5位に選出されました。このラディーチをタウラージのクラシックな味わいだと捉える人が多いと思います。

今日の3つのタウラージは全て2016ヴィンテージです。2016年の気候は寒すぎず、暑すぎずというのが特徴でした。どのワインもフレッシュさがあります。
タウラージ ラディーチ リゼルヴァ2016

試飲
コメント

凝縮した色合いで濃密感があります。スミレやチェリーの香り。タンニンはこなれていて、味わい全体に落ち着きがあり、穏やかな甘みと旨みが見事に調和しています。

インタビューを終えて

カンパーニャは南イタリアにあり、ナポリのイメージからか温暖なエリアという印象を持っている人もいるかもしれませんが、マストロベラルディーノのイルピニアは全く違う土地。山に囲まれた内陸地で標高も高く、寒暖差があり、かつ火山性土壌であるために、酸とミネラルが特徴のワインが生まれます。ピエロ氏もマストロベラルディーノのワインの個性は酸とミネラルにあると何度も強調されていました。

特に、今回試飲した「スティレマ」シリーズは、2つの白「フィアーノ ディ アヴェッリーノ リゼルヴァ」「グレコ ディ トゥーフォ リゼルヴァ」どちらも長期熟成ポテンシャルを持つワインで、数年の熟成を経てもなおイキイキとしたフレッシュさとミネラル感が印象的な味わいでした。これから熟成を重ね、どう変化していくのかとても楽しみなワインです。

そして昨年末の『ワインスペクテーター』で第5位に選ばれた「ラディーチ タウラージ リゼルヴァ」を含む3つのタウラージ2016年の比較試飲は、マストロベラルディーノのはっきりとしたコンセプトを感じることができました。ピエロさんが私達セミナーの参加者に「3つのタウラージのどれが好きか」とアンケートを取ったのですが、1種類に偏ることもなく、「どれが秀でているかではなく、どれもが個性を持っていることがわかってもらえた」とピエロさんも満足げでした。個人的には、ラディーチが私の好みの味でした。貴重な体験をすることができたセミナーでした。

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