TUSCANY イタリアワインとグルメ食材の店
Interview

突撃インタビュー

2023/08/28

ジャンフランコ サバッティーノ氏 Mr. Gianfranco Sabbatino、アンドレア バルザーリ氏 Mr. Andrea Barzagli

サッカーW杯優勝メンバーのバルザーリ氏らが創業!シチリア最古のDOC「ファロ」でひときわ優美な逸品を造る「カゼマッテ」突撃インタビュー

シチリア北東部メッシーナ海峡を見下ろす丘陵地帯で、二人の創業者が設立したワイナリー「カゼマッテ」。創業者の一人は、2006年FIFAサッカーW杯ドイツ大会で世界一に輝いたイタリア代表メンバー、アンドレア バルザーリ氏。強豪クラブ、ユヴェントスの黄金期を支えたイタリアサッカーのレジェンドです。彼らは「今後伸びていく可能性が高い」と話すシチリア最古のDOCファロに拠点を置き、ひときわエレガントなワインを生産しています。その優美な味わいが際立つトップキュヴェ「ファロ」は、初ヴィンテージの2013年から毎年『ガンベロロッソ』最高賞トレビッキエリを受賞し続けています。今回は、創業者のジャンフランコ サバッティーノ氏、アンドレア バルザーリ氏をオンラインでお迎えし、ワインジャーナリスト宮嶋勲氏に通訳と解説をしていただきお話を聞きました。

地元メッシーナ出身の会計士×ユヴェントスのレジェンド

シチリアの潜在力に惹かれた両者の絆
――本日はよろしくお願いいたします。

サバッティーノ みなさん、ボンジョルノ。ジャンフランコ サバッティーノです。私はここメッシーナで生まれ育ち、現在もメッシーナで暮らしています。長い間、会計士やワインの輸入会社の代表をしていました。アンドレアは、言うまでもなく有名な元プロサッカー選手ですね。

バルザーリ ボンジョルノ。アンドレア バルザーリです。ジャンフランコとは、私がパレルモでプレーしていた時に知り合いました。現役時代にワインを飲むことは少なかったですが、彼と仲良くなるにつれてワインに魅了されていきました。


パレルモのレストランで出会った二人が2011年に創業
――お二人は、どういう出会い方をされたのですか?

サバッティーノ 2008年にパレルモのレストランで出会いました。その時、彼はカクテルを、私はワインを飲んでいました。

バルザーリ そうですね。試合後の食事会でした。それから仲を深める中で徐々にプロジェクトを進めていき、2011年にワイナリーを設立しました。知り合った当初はまだ現役選手でしたし、ドイツのチームに移籍したこともあり、主な仕事はジャンフランコに任せていました。

ちなみに、ドイツ時代のチームメイトだった長谷部(誠/元日本代表)とは、遠征時に同部屋になることが多かったんですよ(笑)。


シチリアの中でも特に可能性を感じたDOCファロ
――シチリア、そしてメッシーナでワイナリーを始められた理由を教えてください。

バルザーリ シチリアの潜在力です。私はフィレンツェ生まれなのですが、トスカーナはワイン産地として非常に有名で、開発し尽くされている印象です。一方で、シチリアはまだまだ偉大なポテンシャルを秘めた産地です。特にDOCファロは、今後伸びていく可能性が高い産地だと考えています。そして、(メッシーナ出身の)ジャンフランコとの友情も大きな理由の一つですね。

名醸造家カルロ フェリーニを招へい
サバッティーノ コンサルタントを務めるのはカルロ フェリーニ(※)です。彼はもともと栽培家でもあるので、畑から醸造までワイナリーのチェックをしています。彼の存在はとても重要で、彼の感性がカゼマッテのエレガントさを生み出しています。
(※)イタリアを代表する名醸造家。キャンティ クラシコ組合の技術責任者も務めたサンジョヴェーゼの第一人者。現在は全国各地で醸造コンサルタントとして活躍し、モンタルチーノでは自身のワイナリーも手掛ける。
左から、サバッティーノ氏、バルザーリ氏、フェリーニ氏

シチリア北東部メッシーナ海峡を見下ろす丘陵地帯
1976年認定のシチリア最古のDOC「ファロ」

北はティレニア海、東はイオニア海、南はエトナ山に面するDOCファロ
――ワイナリーについて教えてください。

サバッティーノ ワイナリーの名前は、畑の中で発見された第二次世界大戦時のカゼマッテ(砲台、機関銃座)に由来しています。場所は、シチリア北東部メッシーナのファロ スペリオーレ村、DOCファロのエリア内です。ティレニア海とイオニア海がぶつかるメッシーナ海峡を見下ろせる丘陵地帯です。

二つの海が対面して常に風が吹くので、ブドウ栽培に理想的な場所です。また、現在シチリアは干ばつが問題になっていますが、シチリアで最も雨が降るメッシーナではその影響を受けません。さらに粘土質土壌で保水力を持つので、非常に恵まれた産地と言えます。60キロほど南にエトナ山がありますが、火山性土壌の影響は多くありません。


「普通のトラクターでは登れない」急傾斜の丘
――丘陵地帯ということですが畑の標高はどのくらいですか?

サバッティーノ 標高は250~500メートルです。非常に急傾斜のため普通のトラクターでは登れない場所です。

宮嶋 四輪駆動(4WD)の車でないと登れないんです。上の畑までずーっと上がっていくのですが、そこから眺めるメッシーナ海峡の景色がすごく綺麗で感動しました。


DOCファロの畑を半数近く所有し、全て有機栽培の認証を取得
――DOCファロについて教えてください。

サバッティーノ DOCファロは、1976年にシチリアで初めて認定されたDOCです。生産地区はメッシーナ県全域で、栽培総面積は約30ヘクタールと非常に小さい産地です。赤ワインのみ生産が許されており、ネレッロ マスカレーゼ、ネレッロ カプッチョ、ノチェーラのブレンドが義務付けられています。

――所有する畑は何ヘクタールですか?

サバッティーノ 合計14ヘクタールです。DOCファロの栽培総面積が30ヘクタールなので、このエリアで私たちは最大のワイナリーと言えますね。畑は全てファロの中にあり、どの畑も有機栽培の認証を取得しています。造るのは主に土着品種。ネレッロ マスカレーゼ、ネレッロ カプッチョ、ノチェーラ、ネロ ダヴォラ、グリッロ、カリカンテです。

一線を画す優美な味わいが追求された逸品

『ガンベロロッソ』最高賞トレビッキエリの常連
カゼマッテが造るトップキュヴェ「ファロ」

サバッティーノ トップキュヴェのファロは、国内外で高い評価を得るワインです。初ヴィンテージの2013年から『ガンベロロッソ』最高賞トレビッキエリを受賞し続けています。とても高貴なワインで、飲むたびに幸せを感じます。

宮嶋 非常にエレガントですよね。ブルゴーニュと比較されることの多いエトナはバローロのように固く刺々しいことがありますが、ファロはまさにブルゴーニュのエレガントさがあります。他のシチリアワインと比較すると全く個性が異なります。

サバッティーノ そうなんです。私は25年前にワインの仕事を始めましたが、当時はこういうタイプのワインを誰も望んでいなかったんです。シチリアというと濃い色でアルコールが強くジャミーなワインが有名ですが、個人的にはファロが“真のシチリアワイン”だと思っています。エトナも似たスタイルですが、今となっては世界中から愛されていますよね。


カルロ フェリーニの感性と近代的手法が引き出す繊細でクリーンな味わい
――昔からDOCファロのワインは、このように繊細でエレガントなワインだったのですか?

サバッティーノ 25年前はもっと荒々しかったです。今は、伝統を尊重しながら栽培と醸造を近代化させ、樽を頻繁に変えたり、セメントタンクを用いるなどしてクリーンな味わいを表現しています。何よりもカルロ フェリーニの素晴らしい感性が、このようなエレガンス溢れるワインを生んでくれましたね。

メッシーナとエトナは60キロしか離れておらず、栽培品種も歴史もほとんど同じです。ファロのほうが生産者が少なく栽培面積も小さいので知名度は低いかもしれません。しかし、ファロはリリース直後からもバランスが良く繊細で非常に高品質なワインです。エトナよりも安い価格であることも特徴の一つですね(笑)。


メッシーナの地形を模した特徴的なラベル
海由来のミネラルと上品さが表現されたペローロ ロッソ&ビアンコ

サバッティーノ シチリア島の形はしばしば三角形と言われますが、その一つの岬(角)がペローロ岬です。ペローロのワイン名とラベルデザインは、そのシチリア北東部のペローロ岬に由来しています。ペローロには赤白と2種類のワインがあります。

ペローロ ロッソは、ネレッロ マスカレーゼが70%とノチェーラが30%のブレンド。スモーキーでタバコの香りがあり、唾が出てくるようなフレッシュな酸が特徴的で、長期熟成能力が高い赤ワインです。ペローロ ビアンコは、グリッロ65%、カリカンテ35%で造るDOCシチリア。繊細ながらアロマティックかつ凝縮感のある味わいです。海の近くで造られることもあり、塩味を感じさせるミネラルが表れています。

宮島 強すぎないミネラルが上品にまとまっています。それでいて、とても余韻が長くエネルギッシュです。その特徴は、ファロにも共通しています。エトナと同じ品種を使っていますが、より繊細で気品のある感じに仕上げられています。


サバッティーノ ペローロ ビアンコにはちょっとした小話があります。ラベルに書いてある「Caricante(カリカンテ)」は、実はRが一つ足りないんです。正しくは「Carricante」で、Rは二つです。メッシーナの言葉にはRが二つ重なる方言がないので、私が一つにしてしまったんです。それ以降、間違ったまま記載しています。

――誰からも指摘はされなかったのですか?(笑)

サバッティーノ 『ワインアドヴォケイト』のモニカ ラーナーからは指摘されましたが、詳しく説明したら笑ってくれました(笑)。

デリケートで優美な味わいが引き出されたネロ ダヴォラ
――ネロ ダヴォラもまた非常に繊細でエレガントですね。これも意図したスタイルですよね?

サバッティーノ そうです。私たちは日本人のようにデリケートで優美なものが好きなんです(笑)。繊細な醸造方法も大きい要素ですね。従来は力強くなりがちなネロ ダヴォラをエレガントに仕上げています。改めて飲むと、やっぱりこのネロ ダヴォラは美味しいですね(笑)。

2024年5月に来日予定のカゼマッテ
サバッティーノ ありがたいことにカゼマッテは創業時から国内外で高い評価を得ています。しかし、私たちが何よりも重要視しているのは飲み手のみなさんの評価です。この12年間で積み上げた成果によって、長い間日本から輸入していただけていると思っています。そのことに大変満足していますし、誇りを持っています。実は来年5月、アンドレアと一緒に日本を訪れる予定なんですよ。

――そうなんですか! 私たちを含め、多くのカゼマッテファンやユヴェンティーノが楽しみに待っていると思います。

バルザーリ 日本のみなさん、次回はぜひ日本でお会いしましょう!

アロマとフレッシュな酸が引き出されたエレガントなグリッロ

ジャンフランコ:
「シチリアでは、2021年からグリッロやネロ ダヴォラと記載する場合はDOCシチリアと名乗ることが義務付けされました。グリッロは収穫後、酸化を防ぎアロマとフレッシュさを保つためにドライアイスで冷却します。プレス後、0度の状態でステンレスタンクに2日間置き、自然に清澄させます。その後、発酵タンクに移し16度で2週間発酵させます。1日にアルコールが1度も上がらない程度の緩やかな発酵を行います。それにより、エレガントで、酸とアルコールのバランスが取れたワインが生まれます」
グリッロ シチリアIGT2022

試飲
コメント

輝く淡い麦わら色。白い果実、リンゴ、ハーブ、南国果実のジューシーな香り。口に含んだ瞬間フレッシュな酸が広がり、香りに感じた要素の味わいがあります。軽やかで親しみやすい味わい。果実を煮詰めたようなニュアンスも僅かに感じます。

ミネラル豊富な塩味とフレッシュなリンゴが溶け合う上品な白ワイン

ジャンフランコ:
「グリッロ65%、カリカンテ35%で造るDOCシチリアです。醸造方法はグリッロと同じですが、より選別したグリッロを使用しています。輝いた色を持ち、アロマティックで繊細。35%のカリカンテが入っていることによって、口の中でより塩味を感じさせるミネラル、酸、深みが生まれます。凝縮感もあるので、魚料理だけでなく肉料理にも合うと思います」
ペローロ ビアンコ シチリア2022

試飲
コメント

淡い麦わら色。リンゴやハーブ、ミネラルを感じる上品な香り。リンゴのようなフレッシュな酸味、ミネラル豊富な塩味が重なり合うアロマティックな風味。余韻には僅かな渋みも感じます。

イチゴジャムが際立つ繊細で優美な風味のネロ ダヴォラ

ジャンフランコ:
「繊細に仕上げたネロ ダヴォラです。ネロ ダヴォラというと非常に力強い品種でアルコール感の強いワインになりがちですが、デリケートにピジャージュすることで、非常にエレガントなネロ ダヴォラが生まれます。私たちは繊細で優美な味わいを好んでいます」
ネロ ダーヴォラ シチリア2021

試飲
コメント

輝く淡いルビー色。イチゴジャムの軽やかな香りが広がります。非常にソフトでまろやかな口当たり。繊細でジューシーな赤い果実と黒い果実と僅かなタンニンを感じる、優美な味わいです。

ベリー系果実、ハーブ、旨味が調和するシチリアロッソ

ジャンフランコ:
「ノチェーラ30%、ネレッロ マスカレーゼ70%で造る赤ワインです。円錐形のステンレスタンクでアルコール発酵、マロラクティック発酵が終わったら、木樽で6ヶ月から8ヶ月熟成させます。フレッシュで、スモーク香やタバコのニュアンスがあり、長期熟成能力の高いワインです。ネロ ダヴォラと比較すると酸が高い印象です。肉と相性が良いですが、魚料理とも相性が良いです。特にカジキマグロをトマトとケッパー、オリーブで軽く煮込んだギオッタというメッシーナの郷土料理と合います」
ペローロ ロッソ2019

試飲
コメント

ルビー色。ベリー系果実に加えて、ハーブのニュアンスもあるフレッシュなアロマ。口に含むと赤い果実と黒い果実の繊細かつフレッシュな風味が口中に広がり、後から僅かなタンニンと旨味のようなミネラルが現れます。

繊細で優美な味わいが染みわたる高貴なトップキュヴェ

ジャンフランコ:
「ファロは非常に高貴なワインです。私はこういったワインを飲むと非常に幸せを感じます。ネレッロ マスカレーゼ55%、ネレッロカプッチョ25%、ノチェーラ10%、ネロ ダヴォラ10%。14ヶ月から18ヶ月間フレンチオークの樽で熟成した後、3ヶ月セメントタンクで熟成させてから瓶詰めしています。毎年ガンベロロッソでトレビッキエリを獲得し、海外からも高い評価を得ています。フレッシュな酸があり、余韻が長くエレガントで非常に美味しいです。ファーストヴィンテージは2013年で、今その2013年を試飲しても状態が非常に良いです。長期熟成能力は高いと言えます」
ファロ2020

試飲
コメント

ガーネットよりのルビー色。熟した果実とスパイスが香るアロマ。口当たりは柔らかく、果実とスパイスが綺麗に溶け合いバランスに優れた味わいです。タンニンはこなれており、繊細で優美な風味が染みわたります。

インタビューを終えて

念願が叶い、アンドレア バルザーリ氏のカゼマッテにインタビューをさせていただきました。お話を聞いている間はもちろん、インタビュー後も興奮が止まりませんでした。バルザーリ氏、めちゃくちゃかっこよかったです。

ワイン&ワイナリー説明の後、メッシーナ海峡が一望できる場所からその眺めを見せてくださいました。「今日は湿気が多くて見えにくい」と話されていましたが、それでも高台から見える岬や本土(カラブリア州)の景観が素晴らしかったです。約10年前、夜行バス(フェリー乗船)でメッシーナを訪れたことがありますが、こんなにも素晴らしい場所を素通りし、見逃していたのだと気づき、自責の念に駆られました。

ワインは驚くほどクリーンで優美な味わいです。繊細ですーっと透き通るような味わいに加えて、海由来と思われるミネラル(塩味)やハーブがどのワインにも共通してありました。特に印象的だったのは、トップキュヴェ「ファロ」。ソフトな口当たりで、果実とスパイスが綺麗に調和していて美味しかったです。ネロ ダヴォラも印象的で、こんなにも繊細なのかと驚きました。

繊細で優美な逸品を生み出す、シチリア最古のDOCファロの造り手「カゼマッテ」のワインをぜひご堪能ください。

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