突撃インタビュー
2019/09/20
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アンペレイア社 フランチェスコ パスクッチ氏
ビオディナミのカリスマ「フォラドリ」が惚れ込んだ手つかずの自然が残るマレンマ!高い標高と豊かな日照が産み出す極上のカベルネフラン「アンペレイア」
ここにしかないカベルネフラン「アンペレイア」
シエナから50キロ南、トスカーナ南部マレンマの丘陵地帯アルタにある「ロッカテデ リギ」にワイナリーを構えています。エルバ島からの海風を受けるエリアで元々リンゴの木が多く栽培されていた場所です。歴史的には鉱山地帯であった事もあり、ミネラルが豊富な土壌、かつ周りを森に囲まれ歴史的に一度も開墾されていない生物多様性が維持された極上の自然が残された環境です。かつマレンマとしては標高450~600メートルと例外的な高さ、豊かな日照によりゆっくりと果実が成熟できる理想的な環境が揃っています。
Q.元々ワイナリーがこの地にあったのですか?
畑は元々スイス人の夫婦が所有していたものです。彼らはワイン造りを主とせずに羊と鳩の飼育、古代小麦の栽培とほんの少しだけワイン用のブドウ、カベルネ フランを造っていました。(カベルネフランは)ゆっくり成熟することで青さがなくなり完熟へと向かいます。その為に高い標高と豊富な日照量が必要ですが、ロッカテデリギは まさに「カベルネフランの理想郷」と言うべき環境が揃っています。
「この地のカベルネ フランが特別なワインであるという事を世界に発信したい」
「アンペレイア」は2002年に初めてボトリング、自分達の18年の歩みをそのまま表しているワインです。18年かけて理想の姿に到達しつつあります。アンペレイアのカベルネ フランは存在感のある強いミネラルに、品種特有のスパイシーさが顕著に感じられる特徴を持っています。今飲んでいる2014年はサンジョヴェーゼをブレンドした最後のヴィンテージです。それ以降はカベルネ フラン100%になっています。なぜサンジョヴェーゼを抜いて、カベルネ フラン100%にしたかと言うと、ロッカテデリギ産のカベルネ フランが特別なワインであるという事を世界に発信したいと思ったからです。
Q.洗練さと純度の高さがあり、とても特徴的なカベルネ フランですね。フランス、イタリア、その他にはあまり経験した事がない味わいで驚きです。
以前、「どういうカベルネ フランを目指しているのですか」と聞かれた事があります。フランス、ロワール産のカベルネ フランはとても素晴らしいと思いますが、私達はロワールの味わいを目指している訳ではありません。ロッカテデリギでしか表現出来ないカベルネ フランを目指していきたいと思っています。
マレンマと聞くと、トスカーナ南部にあって暑い避暑地のイメージを持たれる方が多いと思います。それによって濃厚なスタイルの赤ワインの産地というイメージが強すぎる傾向があります。逆にそうではないエレガントなスタイルのマレンマがあるという事を私達は発信していきたいと思っています。
地中海的な特徴を表現する事こそ「マレンマの本来の姿」
「トスカーナだからサンジョヴェーゼに注力しないのか?」とも質問を受けますが私達はカベルネフラン、そして地中海的な特徴を持つブドウに注力しています。いわゆるトスカーナのサンジョヴェーゼといった考えには趣を置いていません。トスカーナでも海寄りで地中海性気候の影響を受けるマレンマは内陸性気候のキャンティやブルネッロとは性格が全く異なります。地中海的な特徴を持つブドウを栽培、表現する事こそ「マレンマの本来の姿」だと考えています。
「混植混醸」によるワイン造り
醸造はフォラドリで親子2代に渡って醸造を担当していたマルコ タイ氏です。敷地110ヘクタールの内35ヘクタールの畑はビオディナミが導入されていて50ヘクタールは森林を残し、残りは牛の放牧と古代小麦の栽培を行っています。元々ビオディナミという言葉はブドウ栽培だけを指す農法の事では無くて、その環境で全てを完結できるための複合的農法ですから。マルコ氏は混植混醸によるワイン造りにも取り組んでいます。
「異なる熟度、異なる品種、異なる要素」
混植混醸の概念は異なるブドウを一緒に収穫して一緒に発酵させる事にあります。別々に産まれて合わせるのではなく、「一緒に生まれる」ことが重要です。 昔のワイン造りは全てそうでした。
現代の醸造では熟すタイミングが品種毎に違うので品種毎に収穫し、別々に醸造して熟成してからアッサンブラージュするのが常識となっていますが、完熟したブドウだけだと味の単純化が進み、(完熟ブドウの)甘さに支配された単調なワインになりがちです。 異なる熟度、異なる品種、異なる要素が重要です。全ての品種をしっかり完熟させることで失うものもあると考えています。
「ケポス」はアリカンテネロ、カリニャン、ムールヴェードルの異なる3品種を混植混醸で造っています。凝縮感、複雑味、土地の表現力が感じられます。チャーミングさもありながら熟した果実の豊かさ、ハーブを思わる香りが楽しめます。ブドウそれぞれを別々に醗酵させ、よりフレッシュな味わいを目指す弟分の「ウンリトロ」とは違った方向性を持つワインです。
「染み込むように楽に飲めるけど、味わいの要素に複雑性がある事が重要だと思っています」
色々な状態のブドウがお互いに影響し合うことで自然なバランスが造られ、突出した一つの要素ではなく、より一体感が産まれ、出来上がったワインはまとまりが感じられると思います。力強さよりも馴染んだ優しい味わい。偉大なワインではなく、シルクのようなワイン。染み込むように楽に飲めるけど、味わいの要素に複雑性がある事が重要だと思っています。また、全てのワインはノンフィルターで造っています。ビオディナミ農法で育てた健全なブドウから得られる色々な要素を(フィルターで)取り去る事はナンセンスだと考えているのでフィルターをかける事は行っていません。
畑の標高毎に栽培品種を分ける
35ヘクタールある畑は標高の高さで大きく分けて3つのエリアに分けられます。単に標高の違いだけではなく、テロワール特性も異なってきます。それぞれの適性にあったブドウ品種を畑に応じて栽培しています。
1.Ampeleia di Sopra【アンペレイア ディ ソープラ】
標高が一番高い畑です。元々畑があった場所で現在のワイナリーもここに位置しています。標高450~600メートルに位置する15ヘクタールの畑で内陸と海風の両方の影響を受けブドウがゆっくりと成熟していきます。粘土質が主体でカベルネ フランを栽培しています。
2.Ampeleia di Mezzo【アンペレイア ディ メッツォ】
海抜250~350メートルの15ヘクタールの畑です。粘土質で小石の多い肥沃な土壌です。サンジョヴェーゼ、カリニャン、グルナッシュ、アリカンテ ブーシェを栽培しています。
3.Ampeleia di Sotto【アンペレイア ディ ソット】
標高200メートル前後の10ヘクタールの畑で海に一番近く温暖な気候です。火山性の砂が多く混じる土壌が主体です。グルナッシュを中心に地中海品種を栽培しています。
「畑の場所によって植物の生態系も違う」
上部のソープラの畑は冷涼で栗の樹や高原植物も自生しています。中部、下部はコルクガシやオリーブ等地中海性植物も見受けられます。畑の場所によって植物の生態系も違うので当然適応するブドウ品種も異なってきます。私達の畑の周囲は全て森です。近隣に他の生産者の畑は無く、完全に自然の中にブドウが共存している環境です。
エリザベッタが理想とする生物多様性が完全に守られている理想の環境
キャンティやモンタルチーノのようなネームバリューこそありませんが、エリザベッタ フォラドリがロッカ テデリギでワイン造りを決めたのは、海を臨む汚染されていない豊かな自然環境にいたく惚れ込んだからです。フォラドリは自身がトレンティーノで行っているようなビオディナミ農法が出来る場所を探していました。以前「何故ここを選んだの?」とエリザベッタに聞いたところ、「(理想的な畑を求めて)シチリアにも行きましたが、ここロッカ テデリギは周りに他の農家もいなくて、真に理想的な環境にいたく感動したと」と話してくれましたね。しかもDOCではないのでワイン 造りに決められた制限も無いと言えます。これこそがエリザベッタが理想とする生物多様性が完全に守られている理想の環境なのです。
エリザベッタ フォラドリ女史が貫く「土地の個性を表現する」栽培哲学
とても一言では表現出来ない難しい質問ですね。際立ったカリスマ性があり、最後の最後まで仕事に拘りを貫く人です。そして全てに工程に配慮が出来る人ですね、まずそれが印象的です。彼女と仕事が出来る事は光栄ですね。現在はワインメーキングの現役を退いていますが、ものすごくエネルギッシュな人で、現在はビオディナミ認証団体「デメテール」のイタリア支部の役員として活動をしています。多忙なエリザベッタですが必ず週に1回連絡がありますし、月に1回は必ずロッカテデリギに来ていますね。
トレンティーノを代表する生産者「フォラドリ」
エリザベッタは父親の死によって1980年代に20代にしてトレンティーノを代表する「フォラドリ」の当主を引き継ぐ事になりました。経営者になった彼女は質を高め、評価を上げることに注力。当時の最新技術やバリックを導入し、収量を制限し、一気に評価を高めていきました。経営難だったワイナリーの転機はトップキュヴェ「グラナート」1997年が国際的ワイン誌で最高評価を獲得。世界的人気となり、一気に有名生産者となり、新しい技術を積極的に取り入れながら品質を高めていく事になります。
「国際的評価を気にせず、より土地の個性を表現する為ビオディナミ農法に転向
しかし、彼女が最終的にたどり着いたのが、現代的な醸造ではなく、土壌の活性化と生物の多様性でした。
エリザベッタは国際的評価を気にせず、自身が目指すより良いワイン造りに注力していきます。土地のアイデンティティをより強く表現するため2002年にビオディナミに転向。一切の化学肥料の使用をやめ、土壌の改良に努めました。単に化学肥料や農薬を使わないということではなく、敷地の1ヘクタールを潰して、野菜、花やハーブを植え、ミツバチや鳥、動植物が集まる環境を造りました。畑でとれた野菜、穀物を食べ、育ったハーブを調合して農薬の代わりに畑に撒いています。全てが循環するコミュニティに造り替えたとでもいうべきでしょうか。ですので、ビオディナミは「昔の農法への回帰」という意味だけではなく畑に関連している全てのエレメントを見直す、とても「現代的なアプローチ」とも言えます。
テロワールの女王エリザベッタ フォラドーリが三種のブドウをアサンブラージュして表現するマレンマ丘陵地の白
アンペレイアの美味しさが理屈抜きに楽しめるカジュアル1リットルワイン
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ハツラツとしたフレッシュな果実の香りとすがすがしいミネラルがとても心地よい。ライト~ミディアムボディで純度の高い果実の透明感と複数品種からなる複雑性が滑らかに溶け合う。高くなくとも魅力的な個性が詰まったお買い得な自然派デイリーワインです。
ウンリトロの兄貴分的存在!凝縮感、複雑味、土地の表現力が楽しめる「ケポス」
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プラムやダークチェリーの充実した果実香にハーブの芳しいニュアンスが溶け合っています。チャーミングさもありながら熟した果実の豊かさが広がる。混植混醸由来の凝縮感、複雑味が綺麗に重なり、みずみずしい飲み心地があります。
自然な果実の厚みと滑らかさ!地中海的テロワールを見事に表現したアリカンテ
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レッドチェリーやスグリの充実した純度の高い果実香が立ち上ります。日照条件の良さを感じさせる自然な果実の厚みと滑らかさが印象的です。地中海的テロワールを見事に表現した見逃せないワイン。ハーブを使った地中海料理と合わせてみたいワインです。
酸と果実の張り詰めたバランス。クールでゆっくりと表情を魅せてくれるカリニャノ
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伸びやかなラズベリーのアロマに清々しいミネラルが寄り添う。美しい酸がボディを引き締める綺麗なシェイプ。品種個性とテロワールの特徴が見事に表現されたしなやかさがあります。抜栓数日後も酸と果実の張り詰めたバランスは崩れず。数日置いて飲みたいワインです。
品種の個性が際立ったミネラルの豊かさ!ここにしかない個性的なカベルネフラン
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アメリカンチェリーやベリーの果実香にミントやラベンダーのアクセントが混じる洗練されたインパクト。タンニンの主張はあるものの、細やかで上質、生命力に溢れたみずみずしい果実感、中盤から広がるスパイシーさを美しいミネラルが締める無理のないボディバランスの素晴らしさがあります。ここにしかない個性的なカベルネフランです。
熟した果実の滑らかさ、中盤から優しく染み入るようなタッチ「アンペレイア」
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ドライチェリー、バラの花の洗練さにミントやミネラルの凛とした落ち着いたアロマ。熟した果実の滑らかさ、中盤から優しく染み入るようなタッチがあり、均整のとれたボディかつ余韻にかけて厳かな旨みが感じられる。恵まれたテロワールが純粋に反映された非常に特徴的なカベルネフランです。
インタビューを終えて
「アリカンテ」「カリニャーノ」「カベルネフラン」「アンペレイア」等、テロワール毎の可能性を追求したキュヴェの発想はトレンティーノでフォラドリが造る「グラナート」「モレイ」「スガルツォン」と非常に共通点があるとも感じました。マレンマでもビオディナミのカリスマ、エリザベッタの高潔な思想はしっかりと息づいている印象を受けました。
キャンティやブルネッロと全く性格が全く異なる、海に近いマレンマの地中海的テロワールを尊重しブドウを栽培「マレンマの本来の姿」を表現するアンペレイア。
18年の歳月をかけてビオディナミによって活性化したブドウは農薬で生かされたブドウ樹ではなく、自然な環境で本来の野生の生命力を持った躍動感に溢れています。DOC規定やブドウ品種に固執せず、ありのままの土地の表現が楽しめるアンペレイアのワイン。今後益々、見逃せない自然派ワインです。
試飲
コメント
果皮浸漬由来の明るみのあるイエローの色調に白桃の果実感にアーモンドの香ばしいニュアンス。綺麗な酸と旨みの詰まった豊かな風味。中盤から果実の甘みが広がる心地よさが印象的です。