第2回 犬の歯周病 症状と治療

滝田雄磨 獣医師

    進行してしまった歯周病はどうなるのか、
    実際に病院で診察を受けたらどのような治療が行われるのかについてお話していきます。

  • 口腔ケアについては、前回のコラムをご参照ください。

    ほとんどの犬が患っていると言われている歯周病
    初期の症状は口臭ぐらいのものですが、
    歯周病が進行してくると、様々な症状を引き起こします。

    症状は大きく分けて、局所的のものと全身的のものとに分けられます。

    局所的のものとは、実際に歯周病を起こしている部位に見られるもの。
    一方、全身的のものとは、歯周病を起こしている部位に限らず、
    全身に現れる症状を指します。

    それぞれの症状について紹介します。

局所的な症状

歯周ポケットでの感染、炎症が悪化することでみられる症状です。

  • ➀歯茎が腫れる
    歯肉に炎症が起きています
    軽い炎症であれば、痛みも出ず、本人にも変わった様子は
    見られません。
  • ➁歯茎に膿がたまる
    歯肉の炎症、感染が悪化し、膿がたまった状態です。
    歯石により歯周ポケットが封鎖されることで発症します。
    疼痛を伴います。
  • ➂歯根の周りに膿がたまる
    歯周ポケットの感染が進行し、歯根にまで到達した状態です。
    歯は歯根の部分で歯槽骨という骨に刺さっています。
    歯根の部分に感染が起こると、
    白血球という血液中のパトロール隊が活発にはたらきます。
    このとき、白血球のはたらきにより、
    歯槽骨が吸収(溶けて)されていってしまいます

    歯槽骨が溶けてしまうと、支えが無くなってしまい、
    歯はぐらぐらと動くようになり、
    やがて抜け落ちてしまいます
  • ➃ 歯槽骨の吸収が進行し、鼻の奥に貫通する
    歯槽骨の吸収が進行していくと、
    なんと鼻の奥(鼻腔)に貫通してしまうことがあります。
    口腔と鼻腔がつながっている状態です。

    この穴には膿がたまっていますので、
    犬の鼻の穴から膿がでたり くしゃみをしたりするという症状が見られます。
  • ➄頬に穴が空き、皮膚が剥がれ落ちる
    歯槽骨の吸収がさらに進行し、穴が頬に貫通してしまった状態です。
    最初は頬の内側に膿がたまり、腫れ上がります。
    この腫れがはじけると、穴が空き、中から膿が出てきます
  • ➅顎などを骨折する
    歯槽骨の吸収が進行すると、顎などの骨がもろくなり、容易に骨折してしまいます
    感染した骨の骨折のため、治療は困難となります。
    いかがでしたでしょうか。
    歯が痛くなるだけだと思っていた方も多いのではないでしょうか。
    実際は、歯が抜け、骨に穴が空き、感染がどんどん広がっていく・・・
    とても辛い症状が待っているのです。

全身的な症状

歯周ポケットの感染が悪化し、全身に症状が起きている状態です。

  • ➀肺炎
    歯茎で悪さをしていた細菌が、血流にのって肺に到達し、
    炎症を起こしている状態です。
    肺炎を起こすと、呼吸に支障がでます。
    大変苦しく、危険な状態です。
  • ➁心内膜炎
    歯茎で悪さをしていた細菌が、血流にのって心臓に到達し、
    炎症を起こしている状態です。
    心臓の内側に感染をおこし、炎症をともないます。
    その結果、心臓の逆流を防ぐ弁構造の崩壊を招き、
    心不全を起こすこともあります

    また、血栓が生じ、突然死を招いてしまうことさえあります。
    細菌性の心内膜炎は診断が難しく、
    原因不明の突然死となることもしばしばあります。
  • ➂糖尿病
    慢性的な炎症が原因となり、
    糖尿病をひきおこすことがあります。

    糖尿病を起こすと、血液中の糖分の濃度が上がります
    糖分は細菌の大好物。感染を悪化させ、悪循環となります。
    糖尿病自体もまた、生命に関わる危険な病気です。
    いかがでしたでしょうか。
    歯周病が突然死を招くことがある
    飼い主様の間ではあまり知られていない事実だと思います。

治療法

  • では、歯周病と診断されたら、どのような治療ができるのでしょうか。
    基本的には、悪化を抑えるため、感染源の除去をします。
    感染源は歯石、また歯石で蓋をされてしまった歯周ポケットの奥にあります。
    したがって、歯石を除去し、歯周ポケットを清浄化することが
    歯周病の治療および予防へとつながります。

    歯石をとる方法として、大きく分けて2種類の方法があります。
    全身麻酔をかけておこなうか、全身麻酔をかけずにおこなうか。

    それぞれのメリット、デメリットについてご紹介します。
無麻酔処置
  • 【メリット】
    麻酔による負担がなく、短時間で終わります。
    したがって、高齢な犬であったり、
    麻酔の負担が大きくなるような持病を
    持っている犬ではこの方法が重宝するでしょう。

    【デメリット】
    麻酔をかけないため、痛みを伴います。
    歯のエナメル質を傷つけ、
    かえって歯石がつきやすくなってしまうことがあります。
    丁寧な細かい作業をじっくりすることができないので、
    歯周ポケットの奥の清浄化は望めません。

    歯周ポケットの奥が感染源であるため、根本的な解決につながらず、
    感染はどんどん進行していくおそれがあります。


  • 全身麻酔をかけずに行う方法は、一見本人の負担が少なく見えますが、
    デメリットが多いことも事実です。
    しっかりと把握したうえで治療法を選択しましょう。
全身麻酔下処置
  • 【メリット】
    全身麻酔のため、痛みや保定によるストレスを与えません。
    スケーラーなどの専門医療機器を用いることで、
    エナメル質を保護しつつ歯石や汚れを除去できます。
    ポリッシング(研磨)をすることで、
    歯石を付きにくくすることができます。

    本人が動かないので、じっくり丁寧に処置を行うことが出来ます。
    抜歯、感染部位を削る、抜歯の穴を縫うなどの処置を
    することによって、根治治療を望むことが出来ます。
  • 【デメリット】
    全身麻酔のため、高齢、心臓病、腎不全などの持病を持っている子では麻酔によるリスクが伴います。
    治療費が無麻酔処置と比べ、高額となります。

    全身麻酔下での処置のほうが、メリットが大きいため、
    昨今では全身麻酔下での処置が主流となっています。
    特別な事情がなければ、全身麻酔下でしっかりと治療、予防をしてあげましょう。

    また、昨今のガス麻酔の安全性は極めて高くなっています。
    歯石が付きやすい子では定期的な麻酔下歯科処置をおすすめします。
  • 大好きなごはんをおいしく楽しく、いつまでも元気に。
    歯周病に対する認識を深めていただければ幸いです。