第1回 犬の歯周病・口腔ケア

滝田雄磨 獣医師

    「先生、そういえば最近うちの子の口臭が強くなった気がするんです。」

  • 病院で診察していると、そんな相談をよく受けます。
    たいていの場合、他の要件で来院され、
    最後に「ほかに気になることはございますか」と
    お伺いしたときに口臭のお話が出ます。

    つまり、本当に困っているわけではないけど、
    強いて言えば気になるかも、という程度の認識です。

    犬の口が臭うのなんて当たり前じゃないか、
    そう言って特に気に留めていない方も
    多くいらっしゃるかと思います。

    しかしこの口臭、実は放っておくと命に関わる病気に
    進行してしまう
    こともある、とても怖い病気のサインなのです。

口臭の原因


  • ヒトと違い、実は犬にはほとんど虫歯ができることはありません。
    猫にいたっては虫歯になった症例報告はまだありません。

    犬の口臭の主な原因は、歯についた歯石
    さらに歯肉に炎症が起こる歯周病が問題となっています。

    人と同じく、犬たちにおいても発症率がとても高いお口のトラブル。
    3才以上の犬の実に8割以上が口腔トラブルを
    抱えている
    という統計があります。

    さらに犬の場合、人と違ってお口のケアが難しく、
    重症化してしまうケースが多いというのが現状です。

    では我々は、歯周病を悪化させないために、
    どのようなケアをすればよいのでしょう。

口腔ケアグッズ

    お口のケアの方法は何種類かあり、デンタルグッズとして色々なアイテムが発売されています。
    それぞれのグッズの特徴についてご紹介します。
消毒系グッズ
  • お口の中にスプレーしたり、液体を垂らしたり、
    飲水に添加するなどして使用するタイプのグッズです。

    これらのグッズの良いところは、比較的容易に行えること。
    そして犬の負担がすくないことが挙げられます。
    その効果はグッズによってまちまちですが、
    歯垢や歯石を落とすというよりは、増えないように予防する効果
    また口腔内の殺菌による口臭の予防が主たるものです。

    歯磨きが難しい犬、おやつタイプだとカロリーが
    気になる
    犬で重宝します。
おやつ系グッズ
    比較的よく見かけるタイプです。
    これらのグッズは嗜好性が高く、犬たちが喜んで食べてくれることが何よりのメリットでしょう。
  • これらのグッズも、歯石の増加の予防や、
    口腔内の消毒による口臭の予防の効果が望めます。
    欠点をあげるとすれば、カロリーがあるという点です。

    高カロリーなグッズはほとんどありませんので、
    そこまで気にすることはありませんが、
    減量中の犬では他の方法を検討しましょう

    また、ヒヅメや骨系のグッズは、
    歯を摩耗または破折させる恐れがあります。
    歯が折れてしまうと、多くの場合、抜歯の対象となります。
    硬すぎるおやつは、基本的には避けるようにしましょう。
ブラシ系グッズ
    一般的な歯ブラシであったり、手袋にブラシがついているタイプであったり。
    ブラシによって物理的に洗浄することができるグッズです。
  • これらのグッズの最大のメリットは、
    唯一、歯周ポケットの奥までケアできるという点です。
    裏を返せば、これらのグッズを併用しないと、
    歯石の蓄積を防ぐことはとてもむずかしいと言えます。

    そして欠点は、慣れていない犬は歯磨きを
    嫌がってしまう
    という点です。
    また、われわれ歯磨きをする側に、
    ある程度の技術がもとめられるという点です。
歯みがきペースト
  • ブラシ系グッズと併せて用います。
    歯磨きペースト、歯磨き粉も多くの種類があります。
    どの商品も歯周病の予防に大きく貢献してくれるでしょう。

    どの味が好みなのか、種類を変えて試してみるのも楽しみの一つ。
    ただし、犬用、ネコ用、犬ネコちゃん兼用などの違いはありますので、よく確認してから使用しましょう。
歯みがきのコツ
  • なかなか上手にできず、多くの飼い主様が頭を悩ませている歯磨き。
    歯磨きを成功させるためのコツを紹介します。

    歯磨き嫌い克服の裏ワザとして、
    普段、歯ブラシをフードと一緒に置いておき
    フードのにおいをつけておくという方法があります。

    実際にこの方法で歯磨きができるようになったという子がいますが、
    残念ながらみんなうまくいくわけではありません。



  • 一般的な方法は、徐々に歯磨きに慣らしていく方法です。
    最初は口周りを触ることから始め、歯を触り、
    ガーゼで歯を磨き、そして歯ブラシを使う。
    切歯(前歯)から臼歯(奥歯)へと徐々に慣れさせていきましょう。
    このように段階を踏むことで徐々に慣らしていく方法が、
    歯磨き訓練の王道と言えます。
  • 歯磨きのあとは楽しいことをしましょう。

    ほめる。ごほうびをあげる。散歩に行く。
    歯磨きも楽しいことのはじまりと学習してもらうと、
    犬たちも楽しく歯磨きできるようになります。

    できれば幼い頃から習慣づけておきたいところですが、
    大きくなってからでも間に合います。
    根気よく、徐々にならして行きましょう。
歯みがきの注意点
  • すでに歯石がしっかり付着してしまっている犬では、
    力強い歯磨きは逆効果です。

    歯石が付く位置は、主に歯周ポケットです。
    歯周ポケットについた歯石は、いくら強くこすっても取れません。
    くさびを打ち込むように、歯石をグイグイ歯周ポケットに押し込む形になるので、強い痛みが生じます。
    こうなると大変。
    犬たちはどんどん歯磨きが嫌いになってしまいます。

    歯石がたまってしまった犬では、優しく歯磨きをする習慣をつけ、
    一度歯石を除去するために動物病院へ相談しに行きましょう。
歯みがきの頻度
    よく歯磨きはどのくらいの頻度でやればいいのかという話がでます。
    歯石の蓄積を防ぐためには、歯垢が歯石になるまえに除去する必要があります。
    歯垢が歯石になるのにかかる時間は、およそ3日間。

    つまり、理論的には3日以上間隔をあけずに完璧な歯磨きをしていれば、歯石の蓄積を防ぐことが
    できます。

  • ただ、完璧な歯磨きなんてできるのでしょうか。
    実際は、どんなにおとなしく歯磨きをさせてくれる犬でも、多少の磨き残しが出来てしまうものです。
    したがって、可能であれば、毎日の歯磨き
    推奨しています。(ヒトと同じです)

    毎日の口腔ケアは大変だけど、
    私達ヒトも健康のために毎日やっていること。
    犬がいつまでも元気に過ごすために、
    一緒にがんばって行きましょう。
    次回は歯周病が進行してしまうとどうなるのか、
    実際に動物病院へ行ったらどんな治療をするのかについてお話をします。