きつね物語 第1話 場面二【やまのおもちゃ屋】|【木のおもちゃ銀河工房】オリジナル物語

きつね物語 第1話
作 小林 ひろ
構成 小林 茂
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場面二 【やまのおもちゃ屋】

(音楽がかすかに流れている。)

「お母さん、これ、買って。」
「一つだけね」
あれにしようかこれもいいな、タカシが迷っているうちに、帰る時間になってしまいました。今日は妹の初誕生日のお祝を買いに来たのですから、おにいちゃんはしかたありません。なごり惜しく、お店の外からふり返ってみると、一匹のきつねが、おもちゃの中にコほンとすましてすわっており、おおきなくりくりした瞳をこちらに向けて、おいでおいでをしているではありませんか。お母さんは妹をチャイルドシートにのせていて気が尽きません。タカシは回れ右をしました。お店の中では、あのきつねが紙切れをくわえ、とがったあごを振り子のように揺らしていて、いかにもおとりといっているようでした。その時、「はーい」おもちゃ屋のおじさんがのそのそと中から出てくるようです。きつねは紙切れをぽとり、足もとにおくと、奥のおもちゃの中にとけ込んでゆきました。間をぬうように奥のほうにきえてゆきました。