きつね物語 第1話 場面一【やまの坂道】|【木のおもちゃ銀河工房】オリジナル物語

きつね物語 第1話
作 小林 ひろ
構成 小林 茂
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場面一 【やまの坂道】

静かなしずかな‥‥(ハミング・フェイドアウト‥‥)

木々のあいだを、きれいな聞いた事のない音が近付いてきました。がさ。ひょいと顔を出したのはきつねでした。きつねは手にしているひもをふりまわしていますが、ひものさきには、ぽつぽつと穴の開いた石がついています。その穴から空気がぬけると幾つもの音が和音になり、ゆっくりと変調していくのです。きつねのコンチはこの笛石をおじいさんからもらいうけたときのことを思い出して、振り回す手に力が入りました。生まれた家を出て行く朝、呼び止められた時のことを思って。
「お前がもっと小さなころ、空から落ちて来た石だよ。これをもっていきなさい」

 きつねはピンと耳を立て遠くのエンジン音に耳をそばだてました。こんな山奥で人間の気配を感じるのはめったに無いことですので、音の方へ木の葉を踏み締めながら山道を下って行きました。しばらくすると薮のむこうから「あったよ、木のおもちゃって看板だ」
人間の子供の声です。ここまで子供が来るとは珍しい、この先の村にきたのか。きつねは意を得たようにもう一度耳をとがらすと、薮の中へ、しっぽをふさふささせて飛んで行きました。