1886年に創業して以来、130年にわたり「生粋の英国靴」を作りつづけてきた JOSEPH CHEANEY(ジョセフ チーニー)。伝統を重視しつつ、2000年以降になっても現代人に合う木型を開発するなど、革新は止めない老舗ブランドとして確固たる地位を確立してきました。今回は、そんなジョセフ チーニーの代表作とも称されるミリタリーシューズ「ケンゴン Ⅱ R」にフォーカス。その魅力を徹底解説します。
生粋の英国靴といえば「ジョセフ チーニー」
ジョセフ チーニーの靴を「生粋の英国靴」たらしめる所以は、自社工場での一貫生産にあります。一足が完成するまでに最低でも160工程、約8週間もの時間が費やされ、その全工程をノーザンプトンにある自社工場が担ってきました。多くのシューメーカーが生産の一部を外注するようになった現代でも「最初から最後までノーザンプトン」が貫かれています。
1999年、当時の親会社だった Church’s(チャーチ)がイタリアのプラダグループに買収されたことで、ジョセフ チーニーも一度はグループの傘下に入ります。しかし、「ノーザンプトンの正統な靴作り」を守りたいと考えたチャーチ5代目ウィリアム・チャーチと従兄弟のジョナサン・チャーチが、2009年にチャーチからジョセフ チーニーを買収し独立させたのです。こうして正真正銘の英国靴はジョセフ チーニーにより継承されることとなりました。
修理しながら長く使う
ノーザンプトンで作られる英国靴には、イギリスの人々がもつ「修理しながら長く使う」という価値観が色濃く反映されています。修理することが前提にあるからこそ、修理のしやすさが考慮された「グッドイヤーウェルト製法」が好まれてきました。この製法で作られた靴は丈夫で、履き続けるほど自分の足に馴染んでいき、修理時にはソールが交換しやすいという特長があります。
名作「ケンゴン Ⅱ R」とは
ケンゴン Ⅱ Rは、ジョセフ チーニーを代表するモデルの一つです。トラディショナルな外羽根キャップトゥで、英国軍に供給実績のあるミリタリーラスト「4436」による丸みを帯びたトゥや全体的にボリュームのある無骨なシェイプが最大の特徴。戦線に赴く兵士たちのさまざまな足型にフィットするよう合理的に考案されており、革靴とは思えないほどの履き心地の良さを体感することができます。木型の魅力もさることながら、ヴェルトショーン製法やベローズタン、コマンドソールといった軍靴らしいタフで機能的なディテールも秀逸です。
後年になると、朴訥(ぼくとつ)とした深い味わいや、男らしさを感じさせるディテール、シボ革やサイドのV字ステッチといった特徴的なデザインがファッションアイテムとしても注目されるようになります。さらに、革靴でありながらカジュアルスタイルにベストマッチし、かつ大人っぽく見せてくれるところも人気に火がついたポイントでしょう。
ミリタリーディテール 01 ヴェルトショーン製法
ノーザンプトンの靴作りの主流は、前述した「グッドイヤーウェルト製法」ですが、ケンゴン Ⅱ Rではそこから派生した「ヴェルトショーン製法」が採用されています。これはアッパー(表革)のグレインカーフレザーをそのままウェルトの上側に重ねて縫い付ける製法のことです。アッパーとウェルトの間に隙間がなくなり雨水や土埃の侵入を防ぐ効果があるほか、ステッチダウン製法と比較すると屈曲性(足裏の曲がり具合)にも優れた靴に仕上がります。悪路の多いミリタリーシーンでは重宝される作りですが、非常に手間がかかるため、今では歴史ある英国靴メーカーでも行わなくなってきている希少な製法です。
ミリタリーディテール 02 ベローズタン
「ベローズタン」は、羽根の内側にある「タン(舌)」が羽根とつながっている仕様のこと。トレッキングシューズや登山靴にも見られる仕様で、タンと羽根の間から雨水や土埃が侵入しづらくなるというメリットがあります。外からは見えないディテールだけに、これを省略してミリタリーシューズを名乗る革靴も多い中、ケンゴン Ⅱ Rでは手間を惜しまず、本物の仕様にこだわっています。
ミリタリーディテール 03 コマンドソール
ケンゴンⅡ Rの無骨なムードを高めているのが、厚さ1cm以上を誇るダブルコマンドソール。グリップ力が極めて高く、長距離の歩行でも足が疲れにくいのが特長です。山道、砂利、水たまりをものともせず、どんな悪路でも支障なく歩くことができ、足もとに圧倒的な機動力と存在感を与えます。
愛用者が語る「ケンゴン Ⅱ R」の魅力
ウィズが広く足馴染みの良い革質なため、日頃からレザースニーカー感覚で履いています。スタイリング時はスニーカーほどラフな印象にならず、重厚感あるカジュアルスタイルが作れるのが魅力です。悪天候にも強く、無意識に着用シーンが増え、今では欠かせない相棒となっています。専用シューツリーがあるのも嬉しく、履き皺のケアなど安心して行えるので、今後もパートナーとして末永く付き合いたいです。
軍パンやデニムなどミリタリーやワークテイストのアイテムと相性が良いのはもちろんのこと、グレースラックスやショーツ、フランネルスーツといった幅広いアイテムと季節に合わせてスタイリングを組めるのが魅力です。また、タフな作りであり、ミリタリーラストやヴェルトショーン仕様といったディテールにもストーリーがあるので、道具として愛着を持って使い続けられるところも魅力です。
イギリス靴だから雨の日でも不快感なく履くことができます。むしろ、雨の日にこそ履かないと!と思えて、自然にシューラックに手が伸びてしまう一足です。生産工程が複雑であることから、あえて生産量を増やさないようにしているそうで、それが自ずと希少性の高さにもつながっています。こういうところにも老舗ブランドらしいポリシーを感じることができて好感がもてます。
人生に寄り添うタフな1足を
ケンゴン Ⅱ Rが多くの人に選ばれ、愛される理由。それは、人生のあらゆるシーンに寄り添い、長い時間を共にする「相棒」になってくれるからではないでしょうか。何年も履きつづければ、大胆な履きジワがつき、シボは薄くなり、レザーも味わい深い表情をたたえます。その佇まいはあなたの分身といっても過言ではなく、そんな革靴だからこそお手入れや修理を重ねて長く履きたいと思えるのです。人生で最もアクティブな10年、20年を、ケンゴン Ⅱ Rと共に歩んでみませんか。