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interview:緊張をミカタにする入浴法(前編)

現役最年長ジャンパー:猿山力也選手

“緊張”と“お風呂”のいい距離感。

プレゼン、結婚式の挨拶、発表会、試合…。誰しも自分にとっての大切なイベントでは、緊張を感じます。
その中で良い結果を出すためにはどうしたら良いのでしょう。
前日はやっぱりお風呂でリラックス?

そこで、プレッシャーや緊張の中数々の記録を残している最年長ジャンパー・陸上競技走幅跳の猿山力也選手にお話をお伺いしました。

トレーニングの疲れを癒し、試合前に心身を良い状態に持っていくために、アスリートはどんなふうにお風呂を活用しているのでしょうか?

トレーニング後のケアに入浴を活用。

― トレーニングや試合で体に負担がかかると思うのですが、どのようにケアをしていますか?

猿山選手:

陸上競技は基本的に裏もも、内転筋、お尻の筋肉をエンジンとしていて、それらをバランスよく使うことが大切なんです。
どこか一つだけに偏って筋肉を使ってしまうと、その部分に痛みや疲労が出ます。特にお尻が使えなくなってくると、一気に裏ももと内転筋を使い始めるので、その部分は肉離れなどケガのリスクが高まってしまいます。
必然的に毎回バランスよく筋肉を使って、きちんと疲れを抜いている選手はケガをしにくいということになります。
そのため、トレーニング前後のストレッチ、マッサージなどのケアはとても大切です。
特に入浴すると筋肉が柔らかくなりますので、合宿などでは大浴場がある施設を選んで疲労を抜くようにしていますね。

さすが筋肉がすごいです!

― お風呂に浸かりながらストレッチなどはされますか?

猿山選手:

そうですね、浸かりながらしています。水とお湯の交代浴もよくします。

― ストレッチをお風呂の中でするメリットは?

猿山選手:

股関節回りは自分ひとりでするストレッチは限界があります。整体などに行って人に手伝ってもらわないとなかなかできません。
そういう時は水の中に入って体をねじったりする基本的なストレッチをすると、陸上でするストレッチより効率よく幅が効くんです。
単純に筋肉がほぐれて柔らかくなっているからでしょうね。

― スポーツの直後は冷やした方が良いとも聞きますが、普段のトレーニングではどうされていますか?

猿山選手:

すぐ冷たい水に浸かれる環境があればそれがいいのですが、なかなかそういう環境は無いんです。
ですから、トレーニング後は局所的に氷嚢などを使って冷やすことが多いです。
本来は氷嚢よりもサッと冷たい水に浸かって、その後アイシングをするのが一番良いんですけどね。
海外はそういった環境の整った施設は多いです。
日本にもそのような施設はありますが、そこに入ることのできる人は限られています。
シャワールームがすぐに使えないので、普段競技場でのトレーニングの後はだいたいストレッチなどをして帰るのが通常の流れです。

入浴法は体調や状況によって変える。

― 普段は毎日お風呂に浸かられますか?

猿山選手:

毎日ではないですけど、その日の体調によって変えています。
だいたい浸かるときは主に半身浴ですね。ぬるめの温度で、浸かる時間はだいたい3分くらいです。
寝る時間を考えて逆算してお風呂に入るようにしないと火照りすぎてしまうので、下半身だけ浸かって最後は水で冷やして…ということをしています。
休養日や疲労がたまっている日はしっかり浸かります。
でも、次の日に強度が強めのトレーニングがあるときは下半身だけ短く浸かって、最後冷やして上がります。

試合前の緩めすぎは禁物。
本番まで瞬発力をキープ。

― では普段はあまり長湯をされないのですね。短めの入浴する、というのは意外でした。

猿山選手:

筋肉はゴムと一緒で伸び切ってしまうと使い物になりません。
ある程度固さが無いと、本番で跳ね返りや瞬発力が来ないんです。
筋肉が緩みすぎて本番でしまりが無くなってしまうので、特に試合前は長風呂は絶対にしません。ほとんどの選手がシャワーや短めの入浴で終わらせていると思います。

― 私たちは肩こりなど緊張を「緩める」ためにお風呂に浸かる、という事に意識が向いていますが、筋肉を使う場合は緩めすぎると良くないのですね。

猿山選手:

そうですね。シャワーですら温まりすぎてしまわないように、温度や時間に気を付けるほどです。

緩めすぎない、それが本番で力を発揮するポイント。

イメージトレーニングもお風呂で。

― イメージトレーニングはどのようにされているのですか?

猿山選手:

直前に試合が無く、少し長く浸かるときはお風呂でイメージトレーニングをしますね。
浴槽に浸かっているときの方が「自分がどう走ってどう跳ぶか」のイメージがしやすいです。
リラックスできている状態の方が、より良いイメージが出来るんだと思います。
ですが、試合前はもう気持ちが出来上がっている状態、スイッチの入った状態なので、お風呂でイメトレはせずに、それまでの調整を無駄にしないためにも(筋肉が緩まないように)短めに入ることだけを意識しています。

入浴法は少しずつ進化。

― 走り幅跳びを始めた頃と、入浴の仕方は変わっていますか?

猿山選手:

子どものころは長距離やバスケをしていましたが、走り幅跳びを本格的に始めたのは中学校1年の後半からです。
中学校の時からイメージトレーニングはお風呂でしていましたね。
浸かる頻度は今よりも高かったと思います。ほとんど毎日浸かっていたかもしれません。
ストレッチも中学校のころから浴槽の中でやっていました。

― 今のように試合前やきつめのトレーニングの前など、緊張感を持たせるために短く浸かるようになったのはいつ頃からでしょうか?

猿山選手:

やっぱり大学からですかね。OBや強い選手がたくさんいたので、学生の中で自然に色んな情報が回ります。必然的に情報量が多くなるんですよね。
強い選手の話だったら、その人のまねをしていこうとなります。
今のようなスタイルが固まったのは大学のころからです。
入浴に関する変化は大学生の時期が一番大きかったと思います。
サウナで減量する選手もたくさんいました。
試合の1カ月くらい前からサウナと銭湯を駆使して体重の調整をしていましたね。
お湯に入ったりサウナに入ったりのセットを組んで実践していました。
そういうのも日本記録保持者がそういった事をしていたので、それに倣うことは当たり前だろう、という感じでした。

― やはり入浴は体を整えるうえで重要視されていることなんですね。

猿山選手:

そうですね。疲労を抜く=水に浸かるという意識は多くのアスリートが持っていると思います。
海外でもジャグジーにこぞって行くくらいです。プールで泳ぐこともします。
アメリカはジャグジーとプールが付いていることが多いですね。ヨーロッパの方は室内プールが多くて、お風呂に浸かる文化もあります。場所によっては温泉が出ていることもあります。
ハワイやグアムの時は海に行きます。プールもついていますが、気分的にも海で泳いだ方がリフレッシュできるので(笑)

summary

お話を伺う中で印象に残ったことは、ここぞという大切な日には程よい緊張感が必要だということ。
無理にリラックスしても良い結果が出るとは限らないのですね。
大会前は筋肉的にも気持ち的にも緊張を残すためシャワーにし、大会後や合間の日は疲れを癒したりイメージトレーニングをするためにお風呂に入る――猿山選手は緊張とよい距離感を保ちながら、お風呂を活用していました。

アスリートでなくとも、社会人として生かすことのできる内容だと思いました。
後編(vol.5)は、子どもや女性が日常生活の中でできるトレーニングについてお伺いします。

〜 後編 〜
プロに聞く!緊張と入浴

猿山力也(さるやま りきや)

プロ陸上選手。
走り幅跳び跳躍自己ベスト8m5cmの記録を持つ、現役ジャンパー。
8m超えの記録を持つ現役選手のなかでは最年長。

2017年より実業団所属からプロに転向。

自身の大会出場はもちろん、陸上競技の魅力を多くの方に知ってもらうため、
小学生を対象にした「かけっこ教室」や企業を対象とした健康増進プログラム、「コリとり教室」などを主催。

プロという立場から、陸上界の常識を変えていく活動を積極的に行っている。