健康タイム・対談38-3

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 このコーナーでは、エヌ・ピュア社長・鳴海周平が各界を代表する人生の達人との対談を通して、「こころとからだの健幸」に役立つ様々な情報をご紹介しています。毎日の健幸にお役立ていただけましたら幸いです。

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Vol.38 ゲスト:坂東 元(げん) さん ~前編~ 3

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こころとからだの健康タイム

鳴海
それまでにもたくさんの生き物に接してきた坂東園長がそう感じるくらい、野生動物というのは独自の雰囲気、迫力を持っているんでしょうね。

坂東 僕が勤務した年にヒグマの子が保護されてきたことがありました。母親は人家に近付いたために猟銃で駆除されてしまったのですが、そばにいた小熊があまりにも小さかったので不憫に思い、そのまま連れ帰ってきたとのことでした。僕はその小熊を抱っこして、ミルクをあげました。今まで飼っていた生き物と同じように、きっとすぐになついてくれるだろうと思って…。ところが、まったく飲まない。飲むそぶりすら見せないんです。しびれをきらして、ちょっとの間部屋を離れて戻ってきたら、ミルクはもうすっかり空になっていました。ショックでしたね。「これが野生なのか!」と思いました。
 でもよく考えてみたらこれって当然のことなんです。食べる側と食べられる側が常に混在している自然界では、他の生き物に気を許すなんてことはあり得ない。相手に依存した瞬間に野生では生きていけなくなる、ということを小さいながらに本能でわかっているんですね。餌を与えたらなついてくれるだろう、という僕の思いあがった考え方がとてもはずかしく思えました。
 ケガをした野鳥が保護されてきた時も、餌をまったく食べようとしませんでした。そしてそのまま食べずにあっさりと死んでいきました。
「食べればいいのに…。食べたら元気になるのに…。」という僕らの思いと、野生の生き物たちの思いはそれだけ違うんです。
 僕たちは「鳥は空を飛べるからいいなあ。気持よさそうだなあ。」と思いますが、鳥からしてみたらそれは「生きるために飛んでいる」だけなんですね。
 僕はヒグマの子や野鳥たちに「野生とはどういうことか」を教えてもらいました。「野生動物はペットじゃない。だからペットとして見ると本質がわからなくなってしまう」という旭山動物園の基本的な考え方は、こうした経験に基づいているんです。

鳴海 ヒトと野生動物では「死生観」というもっとも根本的なところから、これだけ考え方が違うんですね。
 まったく異なる生き物だから素晴らしい、とおっしゃる坂東園長の言葉が実感としてわかるエピソードです。

坂東 こんなに凄い動物たちを、動物園という施設の中で皆さんに知ってもらいたいという想いが「ワンポイントガイド」や「もぐもぐタイム」という形になりました。
「公務員の常識から外れた動物園だ」という評価を、とてもありがたく拝聴しています(笑)

次回の後編では、閉園寸前だった旭山動物園が全国の注目を集めるまでになった軌跡、坂東園長が描く理想の動物園像などを掲載します。どうぞお楽しみに!!


坂東 元 プロフィール

1961年北海道旭川市生まれ。旭山動物園園長・獣医師。
酪農学園大学獣医学部修士課程卒業後、1986年から旭山動物園に勤務。飼育展示係長、副園長を務める。
「動物たちに本当に生き生きと過ごせる空間で生きてほしい」という動物への想いと「どうしたら人が本当にゆったりと満足してもらえるか」という人間の、両方の視点を大切にした動物園創りを目指している。

著書に「旭山動物園へようこそ!−副園長の飼育手帳・初公開写真」(二見書房)「動物と向き合って生きる」(角川学芸出版)「夢の動物園−旭山動物園の明日」などがある。