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2007/01



  
新しい年を迎えると、なぜか清々しい思いになりますね。門松や鏡餅などの正月飾りは色彩的にも美しく端麗。竹や松の艶やかなグリーン、福々しい餅の白、そして、こころをほっこりさせる橙色…。ちなみに鏡餅のうえにのせる橙には、代々家が栄えるように、という願いがこめられているのだそうです。
 というのは、橙は果実を摘み取らずにそのままにしておくと落下しないで二〜三年はもちます。さらに面白い点として、いったん橙色になった果実が初夏にはまた緑色に戻り、冬になると橙色に…。このことから回青橙という名ももつ橙が縁起物とされるのは、一本の木に新旧の果実が共存し、代々の実がついていることや、一つの実が何度も色をかえることに理由があるようです。「薔薇の木に薔薇の花さく。なにごとの不思議なけれど」と北原白秋が詩にしたように、「橙の木に橙の実なる。なにごとの不思議なけれど」とでもいいたくなる、自然の奥行きの深さを感じます。ごく当たり前の営みを前にして、私たちは永遠の神秘にあらためて気づくのです。
 そのような豊かでユニークな生き方を知ってか知らずか、どこか素朴でやさしい橙色の橙。ときには飾るだけでなく、皮ごと利用するマーマレードをつくり、味わってみたいものですね。口に入れるとほろ苦く、光に透かせば黄金色。きっと、人生の喜怒哀楽がたっぷりつまっている味わいに違いありません。





浅野屋呉服店では色についてより正確にイメージをお伝えし、また、お客様の思いにより近い色の感覚を共有させていただくために、小学館刊「色の手帖」第1版第22刷を拠り所としています。今回の橙色の色味としては、同書のP66をご参照ください。

(エッセイ・羽渕千恵/イラストレーション・谷口土史子)
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