Rakuten新春カンファレンス2020

「Walk Together」をテーマに、同じ悩みや目標を持つ楽天市場出店者同士の出会いを通じて、店舗運営に役立つ学びを得る「楽天新春カンファレンス2020」。自身の専門領域に基づいて最新知見や哲学を披露いただくフォーラムにご登壇頂いたのは、独立研究者としてビジネスにおけるアートの重要性を説き続ける山口 周(やまぐち・しゅう)氏。大手広告代理店やコンサルティングファームでのキャリアを経て、自ら導き出した「次世代の必須素養」としての「アート」の価値について、まずはその背景からお話し頂きました。

山口 周 氏
1970年東京生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等で企業戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事。現在、ライプニッツ代表。世界経済フォーラムGlobal Future Councilメンバー。著書は『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『ニュータイプの時代』『武器になる哲学』など。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修士課程修了。

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MBA取得者が企業から求められない時代に。

皆さん、こんにちは。山口周(やまぐち・しゅう)と申します。これから1時間ほど、よろしくお願いします。今日は「『昭和的優秀さ』の終わりの始まり」という副題を掲げて、今日はお話しさせていただきます。令和に入ったいま、昭和はすでに2つ前の時代になっているわけですが、僕は未だに「昭和は終わっていない」と思うんですね。元号は平成から令和へと移り変わっていますが、昭和時代にうまくいっていたモノの考え方を誰もが捨てられずにいて、その方向で価値を出そうとしているので、なかなかうまくいっていないと感じています。

具体的な話をしていきましょう。ここ最近、これまでとは潮目が変わってきていると感じさせるニュースが増えています。これは、「英国の『ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(Royal College of Art, RCA)*1』という美術系大学に、経営幹部候補を送り込む企業が増えている」ことを報じる2016年11月のフィナンシャルタイムズ(Financial Times, FT)*2の記事です。皆さんの中では、美術系大学院というのはビジネス系のキャリアとは全く縁のない人が集まる場所というイメージがあるかと思います。ところが、グローバル企業のコアとなるような人たちが、美術系大学院に送り込まれているというのです。連想ゲームとしては、最も考えにくい組み合わせのカップルなんですが、そういうことが起こっている。

幹部候補を鍛えるというと、これまではビジネススクールで学ばせるのが定番だったわけです。それがどういう状況になっているのか。2019年10月16日のウォール・ストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)*3の記事を見てみると、「米国有数のビジネススクールへの志願者数は減少の一途を辿っているが、今年は一段とその落ち込みが激しい」とあります。日本はと言うと、ビジネススクールやMBAといったものが未だに後光を纏(まと)っているような状況で、書店ではこれらの書籍が並んでベストセラーになっているわけですが、この記事には「米国有数のビジネススクールへの志願者数は減少の一途を辿っているが...」とあるとおり、ビジネススクールの人気が落ちていることは、最早、周知の事実となっているわけですね。そして、記事は「入学適性検査を行なっている非営利団体によると、志願者数は5年連続で減少」と結んでいます。

この2つの記事から何が分かるでしょうか。ビジネススクールというのは、経営における問題解決方法を学ぶ場ですよね。皆さんの中にも卒業された方がいると思います。「分析的に正解を導くというスキル」を身につける学校です。そうした学校への入学志願者が減少しているということが何を示すかというと、端的に言えば、「ビジネススクールで学べるような知識・スキルを身に付けた人を、企業が欲しがらなくなっている」ということなんですね。「ビジネススクールに行くか、行かないか」というのは「あるアーティストのCDを買うか、買わないか」という「人気投票」とは違います。受講者からすると、これは「投資」です。「学費」と「時間」を投資しても将来的なリターンがあると考えた人が、ビジネススクールに行くわけです。リターンがあるというのは、「MBAを取得すれば、高額な報酬で雇ってくれる企業がたくさんある」ということです。だから、投資対効果に見合うと考えてビジネススクールに通うわけです。

そのビジネススクールの志願者が5年連続で減少しているということは、すなわち、「ビジネススクールに行くことは投資対効果に見合わない」と考える人が増えたということですよね。5年連続減少で、今年は前年比9.1%減。前年度は同7%減。投資対効果に見合わないと考える人が増えたのはなぜか。それは、高い報酬を支払ってでもMBA取得者を雇いたいと考える企業が少なくなったということなんです。つまり、このトレンドは志願者ではなく、企業側が作っているんですね。企業側がMBA取得者を雇用しなくなっている一方で、どのように人を育てているかというと、アートスクールに人を送り込んでいるんです。こうした大きなトレンドが生まれているわけです。

「真」「善」「美」の判断基準に見られる明確な変化。

このトレンドと同じ流れにあると考えられるのが、コンサルティングファームによる相次ぐデザイン会社の買収です。コンサルティングのリーディングカンパニーである「マッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company, Inc.)*4」がアップル(Apple)製品のデザインなどを手がけていた「ルナー(LUNAR)*5」という老舗デザインファームを買収したのが2015年5月のことです。それ以外にも、ボストン・コンサルティング・グループ(Boston Consulting Group)*6」や「アクセンチュア(Accenture)*7」なども、配下にデザインファームを抱えていますね。

コンサルティングファームの仕事とは何か。簡単にいうと、「サイエンスと分析によって、顧客企業に対して正解を提供する」ということになります。ですから、サイエンスを基礎としたアプローチが特徴で、マッキンゼーは特にその傾向が顕著です。こうした企業がデザインファームを買収しているという背景には、分析的に正解を導くというスキルに対して、顧客企業が高い対価を払ってくれなくなっているという状況があります。つまり、「企業がMBA取得者を雇用しなくなっている」ことと同じ構造で、「顧客企業がコンサルティングファームに対して仕事を依頼しなくなっている」ということが起きているわけです。戦略系コンサルティングファームが書籍を出版するとベストセラーになるという状況が10年ほど前までは続いていましたが、現在では非常に苦戦していますね。完全に成長が止まった状態にあります。「サイエンスによって分析的に正解を導き、それを顧客企業に高い対価で買ってもらう」というビジネスが限界を迎えているんですね。

これはどういうことか。経営判断においては大きく分けて3つの軸があります。それは「真」「善」「美」です。「真」というのは「ビジネスの目的に合っているか」ということ。つまり「儲かるか?」ということです。「善」というのは「ビジネスとして許されるか?」ということ。「美」というのは「顧客に訴えかける美しさがあるか?」ということになります。この「真」「善」「美」が大切な判断ポイントになるわけです。そして、この3つの軸を判断する方法には2つの方向性があり、1つが「理性=サイエンス」であり、もう1つが「感性=アート」です。

「サイエンス」の考え方の場合、「真」を判断するのは「データ・事実」や「論理思考」になります。コンサルティングファームがやっているのは、正にこの部分です。この作業がうまい人たちが集まって、非常に高額な報酬を受け取りながら、その報酬を払えるだけの対価を顧客企業から受け取っていたわけです。なぜ、そうしたビジネスが成立していたか。それは高いフィーを払う企業がたくさんあったからですね。「善」について、「業界慣習」「判例」「法律」に基づいて判断するのも「サイエンス」の考え方になります。これを誰がやっているかというと弁護士ですね。弁護士がなぜ高いフィーを受け取っていたかと言えば、法律や判例から導かれたアドバイスの希少性が高かったからです。「市場調査」や「他社事例」から「美」を判断するのも「サイエンス」の特徴です。これをやっていたのが電通や博報堂などの大手広告代理店です。こうした職種の人が高い報酬を受け取れていたのは、「サイエンス」の考え方から導かれた提言に対して、非常に高い価値が置かれていたからなんですね。

一方で、「アート」に目を向けてみましょう。この考え方では、「データ・事実」や「論理思考」では「真」なることはわからないとして、「五感・匂い・手触り」や「直感」によって判断されることになります。「善」については、「法律」や「判例」に照らして考えることも大切にしながらも、「道徳」「倫理」「世界観・歴史観」に基づいて判断します。「こんなことをしていいのか?」ということを自分たち自身に問い、内在的に判断することができないと、合法であっても世の中から叩かれるということになります。例えば、アパレルの廃棄問題などがそうです。日本では年間30億から40億着のアパレルが生産されていますが、そのおよそ半分が廃棄されているんですよね。世界的にゴミ問題やCO2排出問題が叫ばれているなかで、法律で問題ないからといってこれだけの廃棄アパレルを生み出しているとなると、世界から叩かれるのは、もはや秒読み段階に入っていると思います。「美」についても「サイエンス」と「アート」では考え方が異なります。「市場調査」や「他社事例」からは平均的な顧客が好むものは生み出せても、本当にハイセンスな顧客を牽引し、むしろ「顧客に憧れさせるようなもの」は、「感性」や「審美眼」からしか生まれないというのが「アート」の考え方です。

「主」と「客」における「意味の逆転」を考える。

このように、「サイエンス」に基づいた考え方と、「アート」に基づいた考え方の2つがあるわけですが、結論から申し上げると、「サイエンス」に重きを置いて判断している企業ほど、現時点で苦しい状況に置かれていると思うんですね。それに対して、業績好調な「アップル(Apple)」や、後ほど紹介する「バルミューダ(BALMUDA Inc.)*8」などは、「アート」に重きを置いた意思決定をしていると言っていいでしょう。ですから、「サイエンス」と「アート」のバランスの取り方を改めて考える時期に来ていると思うのですが、これまで日本では分析が得意で論理が扱える人が優秀とされてきたわけです。

言葉を変えてみれば、「サイエンス」は「客観」であり、「アート」は「主観」となります。ビジネスの現場では、「それは客観的な意見なんですか?」とか、「主観でモノを言うな!」という言葉がよく聞かれます。「客観」と「主観」を並べたら、明らかに「客観は良いことで、主観は良くないこと」という含みがあるわけですね。「客観的に申し上げますと...」というと非常にポジティブであるのに対し、「これは主観ですが...」というと遠慮がちなニュアンスがあります。「客」と「主」の違いですね。漢字というのは面白いもので、その起源に遡ると本来の意味がわかります。漢文学者である白川静(しらかわ・しずか)*9先生の著作などでも紹介されていますが、「道」という漢字について考えてみましょう。
この「道」という漢字は、「辶(しんにょう)」の上に「首(くび)」が乗っています。これは昔、まじないやお祈りの意味で、四辻(交差点)に罪人の首を埋めたことから来ているんですね。これは余談ですが、漢字というのは、その由来を調べてみると非常に面白いわけです。

では、「客(きゃく)」と「主(しゅ / ぬし)」という字を調べてみましょう。「客」というのは「二次的なこと」という意味で、元々は「大して重要でないこと」を指していました。それに対して「主」というのは「重要なこと」「真ん中に置かれるべきこと」という意味でした。ですから、「主観」と「客観」という言葉についても、元々の文字が持っている意味からすれば、「主観」が重要で「客観」が重要でないということになります。ところが、おかしなことに、現在のビジネスの世界では「客観」が非常に重要視されているわけですね。「顧客視点を持っているのか?」ということが、よく言われます。元々の意味では「客」というのはそれほど重要でなかったんです。「客」は家の外にいて、家の中にいるのが「主」ですから。それが逆転する現象が起こっているんですね。

欲求の変化を捉えきれていない現代社会。

なぜ、その逆転が起こったのでしょうか? それは、「サイエンス」が非常に役に立った時代があったからです。主に昭和という時代です。「マズローの欲求5段階説*10」を用いて説明していきましょう。これは、「人間の欲求には段階があり、最下位の『生理的欲求』から、『安全の欲求』、『所属と愛の欲求』、『承認(尊重)の欲求』、『自己実現の欲求』と、順次、上位の欲求へと関心が移行していく」ということを唱えた理論です。厳密にいうと、各個人によって上下が逆転することはありますが、大多数の人にとって、「自己実現の欲求」よりも、「お腹いっぱい食べたい」とか「暑さ・寒さから逃れたい」という「生理的欲求」や、「安心して眠りたい」というような「安全の欲求」の方が関心が高いわけです。その欲求が満たされると、「仲間をつくりたい」とか「人を愛し、愛されたい」という「所属と愛の欲求」が生まれ、「他人からリスペクトされたい」という「承認(尊重)の欲求」や、「自分らしい自分になりたい」という「自己実現の欲求」へと欲求のレイヤー(階層)が上がっていくわけです。

昭和というのは、ものすごい経済成長の時代でした。昭和30年代から40年代にかけて、所得が倍増するという高度成長を成し遂げました。当時のGDPの成長を産業別に要素分解してみると、何が起こっていたのかが大変クリアにわかります。つまり、世の中にある「生理的欲求」への不満や「安全の欲求」への不満というものを、悉(ことごと)く潰していったという時代だったんですね。それを日本国内に向けてだけでなく、世界に向けてやっていた。当時の加工貿易の中心は家電製品と自動車です。家電製品で言えば、「冷蔵庫」「洗濯機」「テレビ」が「三種の神器」と呼ばれていました。これらはすべて「生理的欲求」や「安全の欲求」を解決するものだったわけです。そしてこれらは「物質的欲求」なんですね。物質的に解決することが可能な問題でした。だから、「サイエンス」と馴染みが良かったんですね。サイエンスとテクノロジーを使って「生理的欲求」や「安全の欲求」を解決する製品をつくる。これが大成功したわけですね。

こうした昭和時代の大成功によって、「生理的欲求」や「安全の欲求」はほとんど満たされてしまいました。欲求不満が解消されてしまった。欲求不満がないところにビジネスは生まれませんから、同じことをしようとしても成長はありません。欲求不満がないのに同じことを繰り返して成長できなかったのが、平成という30年でした。なぜ成長できなかったのか。それは、「生理的欲求」や「安全の欲求」が満たされると、より高次の欲求へとシフトしていくからです。現代人は「承認(尊重)の欲求」や「自己実現の欲求」を持っているので、これを解決する商品やサービスには高い金額を払う準備があります。ですが、果たして、この欲求はサイエンスとテクノロジーで解決できるでしょうか? これらは人間の心に関わる問題ですから、単純に「データ」や「論理思考」だけでは解決が難しいわけです。その結果として「過剰なモノ」と「希少なモノ」の逆転が起こっています。次はその話をしましょう。

*1 ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(Royal College of Art, RCA) | 1837年に設立された英国ロンドンにある国立美術大学。修士号と博士号を授与する世界で唯一の美術系大学院大学で、アニメーション、情報経験デザイン、ジュエリー、インテリアデザイン、文章構成(ライティング)、建築、絵画、彫刻、自動車デザイン、キュレーション、写真、コミュニケーションデザイン、イノベーションデザイン工学、サービスデザイン、テキスタイル、ファッション、陶芸という多様な分野を学ぶことができる。映画監督のリドリー・スコット(Sir Ridley Scott)、現代アーティストのデイヴィッド・ホックニー(David Hockney)、起業家のジェームズ・ダイソン(Sir James Dyson)、プロダクトデザイナーのジャスパー・モリソン(Jasper Morrison)、デザインエンジニアの田川欣也(たがわ・きんや)など、多数のクリエイターを輩出している。

*2 フィナンシャルタイムズ(Financial Times) | 英国の経済紙。「ピンク・アン(Pink ‘Un)」という愛称はサーモンピンク一色の紙面に由来する。政治的には中道であり、右派・左派との指摘は特になされない。

*3 ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal) | ニューズ・コーポレーション(News Corporation)の子会社 ダウ・ジョーンズ(Dow Jones & Company, Inc.)が発行する経済紙。世界80カ国以上に支社を構え、100年以上、経済のみならず数多くのスクープ記事を掲載してきた歴史を持つ。記事は全て署名記事であり、匿名の情報源を取り扱わない方針を持つ。

*4 マッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company, Inc.) | シカゴ大学経営大学院のジェームズ・O・マッキンゼー(James Oscar McKinsey)が設立したコンサルティングファーム。世界60カ国以上に支社を置き、年間1,600件以上のコンサルティングプロジェクトを手がけている。

*5 ルナー(LUNAR) | 1984創業のデザインファーム。アップル(Apple)、シスコ(Sisco)、コカ・コーラ(Coca Cola)、DKNY、エレクトロラックス(Electrolux)、グーグル(Google)、HP、インテル(Intel)、ジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)、ナイキ(Nike)、ソニー(Sony)、フィリップス(Philips)など、世界有数の企業がクライアントリストに名を連ねる。近年、経営者の相談相手としてデザイナーやクリエイティブディレクターが指名されることが増えており、日本でも、柳井正氏や鈴木敏文氏がクリエイティブディレクター・佐藤可士和氏に幅広い領域の役割を依頼している。

*6 ボストン・コンサルティング・グループ(Boston Consulting Group) | 1963年に設立されたコンサルティングファーム。マッキンゼー・アンド・カンパニーと双璧をなし、「成長曲線」や「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)」といった経営コンセプトの開発も手がけたことでも知られる。

*7 アクセンチュア(Accenture) | アイルランド・ダブリンに登記上の本拠を置く世界最大のコンサルティングファーム。様々な分野・産業に対して、戦略、業務、IT、デジタル広告など、あらゆるコンサルティングを提供する。IBMに次ぐ、システムの設計・開発・運用を手がけるITサービス企業でもある。

*8 バルミューダ(BALMUDA Inc.) | 2003年、寺尾玄(てらお・げん)が設立したプロダクトメーカー。扇風機、空気清浄機、加湿器といった空調関連製品を軸として、そのデザイン性の高さから独立系メーカーとして高い評価を受けている。バルミューダ(BALMUDA)という名称は寺尾による造語であり、語感を重視したものと語っている。

*9 白川静(しらかわ・しずか) | 1910年、福井生まれの漢文学者。中国古代社会・中国古代文学を漢字の語源研究を通じて民俗学的に明らかにし、同時に日本古代文学との優れた比較研究を行なった。殷ならびに周時代の甲骨文字や金石文の体系的研究を行い、その業績は、『白川静著作集』や、独創的基本文字研究として金石文に詳細な注解を加えた『白川静著作集』別巻「金文通釈」(全7巻)、漢字の原義を字形的に体系化し甲骨文字・金石文など草創期の漢字成立における宗教的・呪術的背景を字形分析から明らかにした『白川静著作集』別巻「説文新義」(全8巻)に結実した。「説文新義」は、1世紀以来、中国文字学における基本書であった許慎(きょしん)の『説文解字』の文字解釈を根底から覆す画期的著述とされる。

*10 マズローの欲求5段階説 | アメリカの心理学者 エイブラハム・マズロー(Abraham Harold Maslow)が仮定した、人間の欲求を5段階で理論化したもの。5段階とは「1. 生理的欲求」「2. 安全の欲求」「3. 社会的欲求(所属と愛情の欲求)」「4. 自我の欲求(尊厳と地位の欲求)」「5. 自己実現の欲求」であり、この欲求は「1」を底辺としたピラミッド型として表され、「1」から「5」の順で欲求のレベルが高次になるとされる。低次の欲求が満たされることによって、順により高いレベルの欲求が生じ、最終的には自己実現への欲求が生じるとする仮説である。