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TRICKERS看板

2022.9.28

英国王室御用達、老舗高級紳士靴ブランドのトリッカーズ

佐藤 誠二朗さんメンズファッション誌
「smart」元編集長
佐藤 誠二朗さん

メンズ雑誌「smart」をはじめ、これまで多数の編集・著作物を手掛けている佐藤さん。
2018年11月には「ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新」が発売
こちらを本屋で見かけて読まれた方もいるのでは!?
そんな佐藤さんが当店の取り扱いアイテムをコラムで熱く語ってくれるコーナーです!
実はあまり知られていないブランドの歴史などもこれを見れば知ることができるかも!?

ロイヤルワラントのトリッカーズ

イギリスのエリザベス女王が亡くなり、即日、長男のチャールズが王位を引き継ぎ、新国王に即位しました。
トリッカーズはそのチャールズ新国王が長年愛用する、いわゆる“ロイヤルワラント”のシューズメーカーとして知られています。
ロイヤルワラントとは、国王夫妻とその長男の3人のみが授けることのできる、「英国王室御用達」の証。
1155年に当時の英国王・ヘンリーⅡ世が認可したものが最初と伝えられるロイヤルワラントは、上記の3人に定期的に物品やサービスを収めることが許される、王室発行の“納入許可証”です。

ロイヤルワラントを獲得するには厳正な審査があり、まず最低でも連続3年間にわたって王室に相当量の商品やサービスを提供しなければなりません。
そして3年の実績が証明されれば、初めて王室侍従長事務所に申請をおこなうことができ、審査を受けることになります。
晴れてロイヤルワラントを受けることができたら、保持者はその印として“ロイヤルアームス”と呼ばれる王室紋章を、“バイ・アポイントメント(御用達)”の文字とともに店先に掲げたり、商品のパッケージに刷り込んだりすることができます。

トリッカーズが、当時は皇太子だったチャールズ国王からロイヤルワラントを授かったのは1989年のことでした。
そのきっかけとなったのは、チャールズの当時の妻だった故・ダイアナ妃だったと言われています。

ダイアナはかつて、故郷であるノーサンプトンのブランドであり、出自であるスペンサー伯爵家が代々御用達にしていたトリッカーズのルームシューズを、夫のチャールズにすすめました。
チャールズはその靴をとても気に入り、トリッカーズのドレスシューズやカントリーブーツを愛用するようになるのにも、そう時間はかからなかったと言います。

ロイヤルワラントには有効期限があって5年ごとに更新されますが、現在でもトリッカーズが3本の鷲の羽があしらわれたチャールズ国王の個人を示す副紋章を掲げているということは、少なくても1989年からずっとロイヤルワラントであり続けているということを示します。
ちなみに、イギリス国王の紋章は国章と同じなので、いずれはトリッカーズのロイヤルワラントの印もそのように変更されるのかもしれません。

ロイヤルワラントの店
photo:Nicki Dugan Pogue

1829年創業の老舗中の老舗

トリッカーズは、とても長い歴史を持つブランドです。
靴作りの名人として名を馳せていたジョセフ・バールトップという人物が、イギリスの靴産業の聖地として知られるノーサンプトンでブランドを設立したのは、1829年のことでした。
ノーサンプトンには現在も、クロケット、チャーチ、エドワード・グリーン、ジョン・ロブなど、世界中のジェントルマンが愛用し、あらゆる男が憧れる錚々たる高級紳士靴ブランドが集まっていますが、その中でもトリッカーズは最古の歴史を誇り、誰からも一目置かれるような存在なのです。

創業当初から高級紳士靴に特化して商品展開したバールトップの目論みは当たり、ブランドは成長していきます。
そして事業を息子であるウォルター・ジェームス・バールトップに継承しますが、このときまでブランド名は“バールトップ”でした。
ウォルターが彼の妻の旧姓である“トリッカーズ”へとブランド名を改めたのは、“バールトップ”よりも響きがいいからという理由だったのだそうです。

長い歴史を誇るブランドが多いイギリスの中でも、老舗中の老舗として知られるトリッカーズは、今も英国流の伝統と格式に則った製法を頑なに守りながら靴づくりをしています。
流れ作業ではなく、熟練の職人が一人でずっとベンチに座り、ひとつひとつの工程に時間をかけて一足の靴を作り上げていく「ベンチメイド」製法を守っているのです。
ベンチメイドで作られたトリッカーズの靴は、本物のブリティッシュトラッドとして世界中で多くの人に賞賛され、愛され続けています。

ベンチメイド
photo:Mark Morgan

トリッカーズの代名詞的な商品は、イギリスらしい質実剛健なデザインで、ドレッシーにもカジュアルにも履けるブーツとして人気のブローグシューズ、“カントリーブーツ”の通り名で知られるストウです。
ストウは開発当初から、地主や農場主など特権階級の人たちのハンティングのお供として支持されてきた靴です。

穴飾りの意味は

ストウのアッパーに使用されているカーフレザー、そして職人技によるグッドイヤーウェルト製法で作られるソールは、野外でのハードな使用に耐えられるように、頑丈で高い耐久性を備えています。
前述のとおり、ストウは“カントリーブーツ”と通称されていることからわかるように、もともとは野外で履くことを目的として作られたブーツです。

イギリスにはトリッカーズのストウ以外にもカントリーブーツと呼ばれる靴が存在しますが、一般名称としてのカントリーブーツは、16〜17世紀のスコットランドやアイルランドの高地湿原帯に住むケルト民族が履いていた“クアラン”や“ラリオン”と呼ばれる労働靴を起源としています。
頑丈かつ耐水性に優れた彼らの労働靴には、現在のブローグシューズに近い穴飾りがすでにあったようです。
19世紀末にクアランやラリオンはイングランドへと伝わり、それをヒントにカントリーブーツが生まれたと言われています。

トリッカーズのカントリーブーツ・ストウ、短靴のバートン、サイドゴアブーツのヘンリーに施されている、穴飾りの正式名称は“メダリオン”といいます。
メダリオンは一見、ただの華やかな装飾に見えますが、これには労働靴由来の実用的な機能性が隠されています。
革靴のアッパーは、革を何層にも重ねて作られていますが、メダリオンがあることにより、下層の革の水捌けが良くなるのです。
つまりメダリオンは、重ねた革のための通気口というわけです。

もとは実用本位の通気口に過ぎなかったメダリオンを、華麗な模様に見えるように配置したことこそが、イギリス流のセンスだったわけですが、現代のブローグシューズに施されているメダリオンも、通気口としての役割をしっかりと果たしてくれています。

メダリオン
photo:Robert Sheie

ちなみにブローグシューズは、穴飾りの模様が鳥の翼のように見えることから“ウィングチップ”とも呼ばれ、こちらの方が耳なじみがいいかもしれません。
しかしウィングチップはアメリカ発祥の呼び名ですので、イギリス伝統のブランドであるトリッカーズの場合は、意地でもブローグシューズと呼びたいと思うのは私だけでしょうか。

【トリッカーズ BOURTON】
【トリッカーズ ウッドストック】
【トリッカーズ BOURTON】
【トリッカーズ ストウ】
【トリッカーズ ストウ】
【トリッカーズ HENRY】

トリッカーズと質実剛健

トリッカーズにはもちろん、ブローグシューズ以外の靴も多数ラインナップされています。
カーフレザーのアッパーに、ダブルレザーのソールが合わせられているブーツ・バーフォードや、短靴バージョンのウッドストックがその代表格です。
ストウよりも見た目がシンプルでスッキリしていて、よりドレッシーに履くことができるので、こちらを好む人も多いようです。

バーフォードの基本的な形状やディテールは、先発であるストウのそれをそのまま継承しています。
カントリーブーツ由来の質実剛健なデザインながらプレーンなアッパーが採用されたことによって、よりいろいろな服に合わせやすく、街履きしやすいブーツとして近年、人気が急上昇しているようです。

本コラムで私は、トリッカーズの靴を端的に表す表現として“質実剛健”という言葉を何度か使いました。
質実剛健とは本来、人物の特性を表すために用いられる言葉で、「飾り気がなく誠実で、心も体もたくましくて健やかなこと」を表現しています。
まさに、トリッカーズの靴にぴったり当てはまるような言葉だとは思いませんか。

トリッカーズロゴ

2020年の3月、イギリス国内でも猛威を奮っていたコロナの影響で、トリッカーズは工場を一時的に閉鎖せざるを得なくなりました。
スタッフが工場内でソーシャルディスタンスを保つことは不可能だったための措置でしたが、1829年の創業以来、トリッカーズが靴の生産を中止したのは、これが初めてのことだったそうです。
結局5月には銀行からの資金援助を受けて工場の環境を整え、再び元通りに生産を再開したそうですが、トリッカーズの誠実な姿勢がうかがえるエピソードです。
トリッカーズは現在、80〜90名の靴職人が日夜働き、毎週1000足のペースで靴を生産しているそうです。

【トリッカーズ カントリー バーフォード】
【トリッカーズ BURFORD】
【トリッカーズ BURFORD】
【トリッカーズ ウッドストック】
【トリッカーズ ウッドストック】
【トリッカーズ ウッドストック】

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