ヘルノ・ピレネックス看板

2024.1.9

暖かさの巧妙な舞台裏
ヘルノとピレネックス ダウンブランドの歴史

佐藤 誠二朗さんメンズファッション誌
「smart」元編集長
佐藤 誠二朗さん

メンズ雑誌「smart」をはじめ、これまで多数の編集・著作物を手掛けている佐藤さん。
2018年11月には「ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新」が発売。
こちらを本屋で見かけて読まれた方もいるのでは!?
そんな佐藤さんが当店の取り扱いアイテムをコラムで熱く語ってくれるコーナーです!
実はあまり知られていないブランドの歴史などもこれを見れば知ることができるかも!?

最高級ダウンブランドHERNOの歴史

いよいよ寒さが厳しくなり、冬本番という様相の昨今。
この時期になると恋しくなるのが、そう、暖かいダウンです。
そこで今回は、2つの素敵なヨーロッパ系ダウンウェアブランドを紹介します。

最高級ダウンウェアブランドとして名高いヘルノ(HERNO)は、1940年代後半からその歴史をスタートさせています。
まだ第二次世界大戦の傷跡も生々しい当時のイタリアで、レインコート会社に就職した一人の青年、ジュゼッペ・マレンツィが、のちのヘルノの創業者です。

兵士として軍務経験のあった彼はその会社で、軍での経験を活かした画期的な防水技術を開発します。
彼が手がけたのは、たっぷりのひまし油(キャスターオイル)で処理したコットン生地を使い、完全防水を施したレインコート。
当時は高性能なウォータープルーフウェアがほとんどなかったので、ジュゼッペのレインコートは瞬く間にヒット商品となりました。

敗戦国である当時のイタリアは物資が枯渇していましたが、ジュゼッペは放棄されたイタリア軍の戦闘機から、ひまし油を調達するアイデアを思いついたのだそうです。
そして彼は、その成功を足がかりに独立。
1948年に妻のアレッサンドラ・ダイアナとともに、イタリア北部のノヴァーラ県レーザという街で起こした会社が、今に続くヘルノです。
ブランド名は、工房の近くを流れていた“エルノ川”からとったそうです。

創業の地レーザは、エルノ川とマジョーレ湖という美しい自然に囲まれた街。
そんな恵まれた環境の中、ヘルノ社はまず、機能的で高性能なジャケットやレインコートをリリースします。
創業当初からヘルノの服には、イタリアらしい優れたデザイン性と伝統の職人技が反映され、寒さや雨、冷たい北風、そして湖水地方特有の湿気からしっかりと身を守る実用性にも長けていたといいます。

イタリアは日本と同様、1950年代には急速な復興と成長を遂げていきます。
ヘルノ社はその好景気に乗り、積極的な事業展開を仕掛け、レインコートに続く看板商品として、ウールコートやスーツの製造にも着手するようになります。
そして1950年代後半にはイタリア国内にとどまらず、ヨーロッパの各国にもヘルノの名は轟くようになりました。

ヘルノ・ピレネックス①
photo:Steven Mike/flickr

HERNOが今世紀に編み出した画期的製法

ヘルノは1960年代後半に、日本への上陸も果たしています。
1968年、奥田清治という人物が手がける商事会社が、ヘルノのウェアを日本市場に初投入。奥田との交流によって日本に高い関心を抱いたジュゼッペは、1971年、大阪にヘルノの日本1号店をオープンし、ほどなく東京にもショップを設けています。
1980年代初頭にはアメリカにも進出し、高い評価を受けることになりました。
こうしてヘルノは、名実ともにグローバルなブランドに成長したわけです。

一方で80年代のヘルノは、自社製品だけではなく、ラグジュアリーブランドのウェアのOEM製造を開始します。
ヘルノのウェアは、自社ブランドのものも、OEM生産のものも、日本では百貨店や高級セレクトショップでの取り扱いが多かったようです。そして富裕層を中心に、ヘルノといえば最高級ブランドとのイメージが根付いていきました。

2005年にはラグジュアリーブランドのOEM事業から撤退し、自社ブランドの製造に専念することになったヘルノ。
2008年、スポーツウェアに使われるハイテク素材と伝統的な製造技術の融合を打ち出し、約200gの超軽量ダウンジャケットを発表します。

本物のダウンをたっぷり使いながら、これほどの超軽量を実現できた秘密は、その製法にありました。
通常のダウンウェアは、袋に羽毛を詰めた“ダウンパック”というものを入れて作りますが、ヘルノはダウンを袋に詰めることなく、生地に直接注入(インジェクション)する製法を編み出しました。
ダウンパックを省くことにより、十分な保温性を確保しつつ軽量ですっきりとしたルックスが実現できたため、ヘルノのダウンウェアへの評価と注目度は、これまでにも増して高まりました。

伝統的な手法による良質な仕立てと、さまざまなテクノロジーを駆使した革新性、さらにはイタリアンエレガンスを感じさせるデザインが特徴のヘルノ。
最高級の位置付けにあるブランドですので、一着の値段は決して安くはありませんが、一生物としていつかは必ず手に入れたいダウンウェアと言って間違いありません。

【ヘルノ テック Pコート】
【ヘルノ ピウム ジュポット ジャケット】
【ヘルノ アレンデールパーカー】
【ヘルノ ラミナー ゴアテックス インフィニアム ウィンドストッパー パーカー】
【ヘルノ LA デニムジャケット】
【ヘルノ ジュポット ボンバー ジャケット】
【ヘルノ ジャッコーネ レッグ コート】
ヘルノ・ピレネックス②
photo:Steven Elliott Brown/flickr

ピレネー山脈の麓で創業したPYRENEX

もう一つご紹介したいのは、フランスのダウンウェアブランド、ピレネックス(PYRENEX)です。
このブランドの魅力を存分に堪能できるのは、代表作である「スプートニック」というモデルでしょう。
スプートニックは、ダウンジャケットならではのベーシックなデザインを持つタイムレスな定番で、短めの着丈やファスナーによって着脱可能なフードなど、カジュアルかつスポーティに着こなすことができる、アクティブな雰囲気が魅力のアイテムです。

【ピレネックス スプートニック リップストック ジャケット】

ピレネックスの最大の売りは、泣く子も黙るほどの極めて高品質なダウン素材にあります。
一般的なダウン製品には、生後5週間前後の若鳥の羽毛に使われますが、ピレネックスが採用するのは生後15週間前後の成熟した水鳥の羽毛。
ここに高品質の秘密があります。

単純に考えると、若い鳥の羽毛の方が柔らかく、高品質なのではないかと思いがちですが、実はさにあらず。
成鳥の羽毛は若鳥のそれよりもかさ高があり、集積してダウンウェアに仕立てた際、より優れた保温性を発揮するのです。

ダウンの製造過程は鮮度が重要なので、ピレネックスはその羽毛を採取から24時間以内に加工しているそうです。
そうした要素に加え、ファミリービジネスならではの160年以上にわたって守られてきたマル秘技術や厳格な品質管理により、フワフワで暖かく、復原力の強い高品質のダウンが生まれるのです。

さてここからは、そんなピレネックスというブランドのの歴史を紐解いてみましょう。

ピレネックス社は、食用として処理されたグース(ガチョウ)の副産物である羽毛を使い、掛け布団や枕などの寝具を生産する会社として創業しました。
創業は今から160年以上前の1859年。
創業者はアベル・クラボスという人物です。
そして創業の地は、フランス・スペイン国境にまたがるピレネー山脈の麓、サン・セベという町です。

ヘルノ・ピレネックス③
photo:Steven Daniel Jolivet/flickr

PYRENEXがフランスの片田舎で操業する理由

ただしピレネックス社は、最初からアパレル会社だったわけではありません。
サン・セベのある南西フランスは、食肉やフォアグラなどの家禽産業が盛んな地域で、大量の羽毛を常時入手しやすい環境。
そんな地の利を生かして得た良質の羽毛を加工し、羽毛素材や寝具、そしてOEMによって他ブランドのアウトドアアイテムなどを生産する会社として、営業を続けてきたのです。
ちなみに、ピレネックス社が製品提供していたブランドとしては、フランスのモンクレールなどが有名です。

ピレネックス社が、自社のブランド名を冠してアパレル事業を開始したのは、1990年代に入ってからのことです。
その時にはすでに、ピレネックスが高級ブランドへ製品提供をする、高い技術力を持った一流ファクトリーであることは広く知られていたので、短期間で多くのファンを獲得していきます。

そして今や世界に名だたるダウンウェアブランドに成長したピレネックス社ですが、いまだにフランスの片田舎であるサン・セベに本社と自社工場を置いています。
パリの直営店や有名百貨店、セレクトショップにコーナーを展開する、世界的に有名でおしゃれなファッションブランド、ピレネックス。
しかしその製品を一貫して生み出している場所は、田舎工場の風情漂う素朴な建物なのです。

でも、その地に居を置き続け、頑なに原毛から一貫生産し続けているからこそ、ダウンウェアの最高峰とまで謳われる現在のピレネックスがあるのかもしれません。
創業した1800年代と変わらず、サン・セベにはピレネー山脈からは冷たく厳しい風が吹き下ろしてきます。そこで育ったグースが、暖かくフワフワの羽毛を育んでくれることも、昔と変わりありません。
ピレネックス社はおしゃれなダウンウェアとともに、事業の原点である羽毛寝具の生産もいまだ継続しています。
そんな堅実な姿勢こそが、このブランドが多くの人々を魅了する理由なのでしょう。

【ピレネックス オーセンティックマットファー】
【ピレネックス オーセンティックミニリップストップ】
【ピレネックス ハドソンXP】
【ピレネックス ステン】
【ピレネックス ヴィンテージ ミシック】
【ピレネックス フェニックスジャケット】
ヘルノ・ピレネックス④
photo:Steven Krzysztof12/iStock

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