明月椀・尚古堂・山本哲|和食器の愉しみ・工芸店ようび|夏は家派!

桜紋螺鈿の椀

 明月椀は、鎌倉明月院(創建当初は北条時宗が蘭渓道隆を開山として建立した最明寺の塔頭だった)に伝来した、桜紋螺鈿の椀一式です(飯椀、汁椀、平椀、壺とお膳)。明月院は、紫陽花殿と呼ばれる仏殿があり、いつ頃植えられたのか紫陽花の名所となっていて、その季節にはたくさんの人が訪れるようです。

 明月椀は、織田有楽斉が考案(デザイン)して作らせ、同院に寄進したものと伝えられていますが、明月院と有楽斉の関係は判然としません。
 美しく独創的な形なので、後世たくさんの写し(模作)が造られてきましたが、貝が白蝶貝になっていたり、形がきちんと写されていなかったりで、あまりよいものを見る機会に恵まれませんでした。
 特にこの飯椀は形も美しく、螺鈿のふっくらとした桜の花びらの形は、江戸前期の好み(傾向)が見られ、見込みの豊かさ、全体の大らかさと魅力いっぱいで、写しを作ってみたくて、二十年前、尚古堂さんにお願いしましたが、輪島では割貝の技術がないということで、奈良の山本哲さんに螺鈿をお願いしました。この度は二度目の挑戦です。
 本歌を見せていただく機会もあったのですが、作っていただく時は『時代椀大観』の寸法その他を参考にいたしました。
 割貝というのはふくらみに添わせるための技術で、李朝の螺鈿の影響だとおっしゃる方もありますが、丸いものに貝を貼るという要求に応えた自然発生的な技術であると思います。

 (1)尚古堂さんで下地まで仕事をしていただいた後、(2)山本哲さんに行き桜の貝を貼っていただき、(3)また尚古堂さんへ戻して上塗をしていただいて、(4)もう一度山本哲さんにお返しして花びらを切り出して貰い、(5)また尚古堂さんへ戻して仕上げをしていただく、こんな工程で仕事をいたしました。
 これを造るのももう最後かなと思いつつ出させていただきました。

 桜の文様なのでその季節だけお使いいただくというのではなく、「サ」は早苗、早乙女、五月雨など「神様の」という意味で、「サクラ」は「神様の座(くら)」即ち「田の神の来臨するところ」という意味です。
 お丈夫なものです。そんなことを想いつつ、せいぜい使って楽しんでいただきたいものです。の中でどれほど漆という素材が快いものであるかを、一部のお人だけではなく多くの方に解っていただきたいと思う気持ちは、ようびも同じでございます。

工芸店ようび 店主 真木
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