どんな編目でも描けます。おそらく日本一。
阪東君いうて、うちとこ専門でしてくれてます。
クロワッサンが選んだ目利きの主人がいる東京・京都・大阪の和食器屋さん。
あの人の選んだ和食器がいますぐ欲しい。

ようびの真木啓子さん
ドキドキするほど美しいものを見て、使ってきた、そのおかげです。


 和食器が好きな人には骨董好きも多いはず。古伊万里の天然コバルトの染付などを愛でながら、「きめの細かな生地、なんのてらいもなく闊達に描かれた筆致、あるいは気迫ある仕上げ。ああ現代ではとても真似のできない技法、やっぱり器は昔のものにはかなわない」なんて、褒めてんのか嘆いているのか、複雑な心境になることも少なくないだろう。そういう人はぜひとも、大阪の『ようび』までご足労ください。
 古いものより優れた新しいものがあることを、そういう陶工が育つ土壌を耕し続けている店主がいることを、小さな店の天井まで埋めつくされた器のひとつひとつが証明してくれるから。
 同行願ったのはお茶の老舗「一保堂」の渡辺都さん。習っている鼓のお師匠さんが、店主の真木啓子さんと同じというご縁。今日はよそでは買えない煎茶茶碗や汲出が欲しいと、わざわざ京都から来てくれた。
「このたっぷりとした汲出の粉引いいですよね。この可憐な染付は」
 これは福森雅武さん。こっちは正木春蔵さん。正木さんは窯を開かれた時からのつき合いで、オリジナルをたくさん作っていただいていますなど、真木さんから説明を受けていると、入れ子の染付が目に飛び込んで来た。深く鮮やかな藍の編目文、一定の旋律で奏でられたかのように描かれている美しさ。真木さんこれは!
「阪東晃司さんといって、15年ほど前から私のとこだけで仕事をしてもらってる陶工です。ていねいで仕事熱心で、無理難題にも必ず応えてくれます」
 真木さんが所有する骨董の逸品を渡して、どこが美しいのかなんで使いやすいのかとことん話すと、五度でも六度でも阪東さんは試作を繰り返す。手に持っただけで2mmの寸法の違いを指摘する真木さんに、高温でしっかり焼いても狂いのない完成品を届ける。そういう才能を真木さんは、発掘して育てる先見があるということだ。
「阪東さんはもう充分作家としてやっていける実力。こんなに根気を必要とする仕事のできる人は希です」
 旅館「俵屋」はじめ、真木さんの選んだ器を好む一流どころは全国あまた。陶磁器のほか、国産の味わい深い漆器や、バカラの小さなグラスなどがさりげなく置かれている。
 店の名付け親は「辻留」の辻嘉一さん。日常の食器こそ、用と美を備えたものをとの願いが込められている。

 

クロワッサン
8|25 1999年
「和食器がいますぐ欲しい。」

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