「寝る」ことについて
 人の一日の約1/3は寝る時間に当てられます。つまり人生の約1/3は寝て過ごしていることになります。こう考えると、人の生活の中での「寝る」ということの意味について少し考え直してみる必要がありそうです。
 快適に寝ることは、一日の疲れをとり、明日への力を約束する何よりの条件です。また、眠りの良い・悪いが起きている時の人の体や心の状態にまで深く関わっていることは言うまでもありません。
 この意味で、人にとって寝ることは生活の基本といえます。特に、ストレスに悩まされる現代人にとって気持ち良く眠ることは何よりも大切な条件といえます。
 ここでは、人間工学の立場から、快適な眠りを得るための条件について整理します。

眠りを科学する
眠りの深さと変化
図1

 人間の一晩のうちの睡眠のリズムは、以下のように2つの『眠り』が交互に組み合わされて成り立ちます。
・レム(逆説)睡眠…身体のほうが熟睡し、脳が浅い眠りを示している状態。
・ノンレム(徐波)睡眠…脳が熟睡し、身体の筋肉が浅い眠りの状態。
 ぐっすり眠っている状態では、上図のように2つの眠りの出現パターンがはっきりしています(レム・ノンレム−サイクルの間隔が安定している)。また、すっきり目覚めるためにはタイミングが重要であり、睡眠時間を長くすればいいというわけではありません。(以上図1)
 また、夢をみるのは一般的にレム睡眠のときで、乳幼児ではレム睡眠が半分程度を占めますが、大人になるに従い次第にレム睡眠は全睡眠の2割程度になっていきます。

就寝のための条件

図2 安眠は環境条件(寝具、室内)を整えることから始まる。

 人が安眠するためのインテリアの環境条件は、
・音の静けさ…30〜40db(デシベル)、人のささやき程度以下に抑える。
・適度な温度…15〜18℃ 暑すぎず寒すぎず。
・湿度…40〜60% 湿りすぎず乾きすぎず。
・気流(空気の流れ)…0.1〜0.15m/s(無風に近い状態)扇風機などで強い風を直接身体に当てるのも避ける。

・明るさ…10〜30lx(ルクス)以下の薄暗い状態に保つ。
・相応のスペース(広さ)…広すぎず狭すぎず。(以上 図2)
などが挙げられます。
 こうした室内の環境条件を整えることもさることながら、人の身体に直接触れ、包み、支える「寝具」の条件によって、安眠が左右されることはいうまでもありません。

人間工学からみた「寝具」

 寝具は衣服と同じで、人間の身体に一番身近な環境を創り出す道具です。この部分がおろそかにされては気持ち良く寝ることはできません。前のパネルにあるように、衣服や寝具の環境は、人間によって第一次的な環境といってよいでしょう。これは、室内・インテリア空間のような第二次的環境にくらべ、快適さを生み出す基本環境といえます。

寝具の人間工学

 寝具の基本は人間の体を支えるマットレス(敷ぶとん)と、頭を支えるまくら、そして体を包む上掛け(掛ぶとん)です。気持ち良く眠るためには、まずは体を支える敷ぶとんやまくらの性能を第一に考えます。次に上掛けの条件を整えます。
 ここからは、良い寝具の条件について整理します。

図3a

(出典:小原二郎・建築・空間,人間工学,鹿島出版会)
図3、a 重い部分(胸、おしり)は(b)のように、固さを増やしてやる(kは固さを示す)。

 気持ち良く眠るための敷きぶとんの機能条件は、
・正しい寝姿勢の確保…仰向けになった時、身体がほぼ水平状態になるのがよい。(図3、a)

図3b

図3、b 標準的固さ(左)では、体圧がちょうどよく寝心地がよいが、柔らかすぎる(右)では、体圧が加わっては悪い部分まで広がってしまうため寝心地が悪い。
(出典:小原二郎,人間工学からの発想,講談社)
※2つの図中の(a)(b)はそれぞれ対応する


・適正な体圧分布…身体には圧力の加わってよい部分と悪い部分とがあり、この調整が大切。(図3、b)
・適正な寸法…足がはみ出さず、十分に寝返りがうてる大きさ。幅は肩幅の2.5倍程度、長さは身長×1.05+15cm程度。
・クッション性…弾力の異なる三つのクッションで構成された三層構造がよい。畳にふとんは正しい寝姿勢を確保するのに役立つ。

まくら
図4                           

 立っている時の姿勢を保つ。自分に合った形、大きさの物を選ぶ。

 睡眠におけるまくらの役割は重要で、「ふとんが変わると眠れない」ということを良く聞きます。これはふとんよりもまくらが原因の場合が多いのです。
 まくらに求められる機能は、適度な高さに頭を支えることです。(頭が低いと血液が頭部に流れ、脳細胞を刺激して寝付けないし、逆に高すぎれば肩や首の筋肉に負担をかけることになります。)
(以上 図4)


寝具の中身

図5 ふとん詰め物の比較

素 材 木綿わた 真わた 合繊わた 羽 毛 羊 毛
用 途 掛ぶとん敷ぶとん 掛ぶとん 掛ぶとん 掛ぶとん 掛ぶとん敷ぶとん
使用重量(kg) 4.0〜4.5(掛)
6.0(敷)
0.5〜1.0 1.8〜2.0 1.0〜1.4 2.0〜2.5(掛)
2.5〜2.8(敷)
保温性
吸・放湿性
軽量性
フィット性
回復性
(天日干し)
長 所 打ち直しができる 軽く肌添いが良い 軽く扱い易い 軽く肌添いが良い 湿気を感じない
短 所 天日干しが必要 へたると回復しにくい 吸湿性に劣る 品質の見分けが難しい へたると回復しない
注 ◎は良い ○はまあ良い △はやや悪い
(出典:SINGU・寝具・SINGU〜すこやかな眠りのために〜/(社)全国消費生活相談員協会)


 快適な睡眠を得るための寝具の性能は、その詰め物(じゅうてん物)によってほとんど決定されます。その性能は先に述べた人間工学的機能の他に、
・保温性…睡眠中は昼間の安静時に比べ、20%程度代射量が減少するため。
・吸湿、放湿性…人間が一晩にかく汗の量は普通の大人の場合でコップ一杯(200cc)の量にもなる。
・軽さ、フィット性…掛ふとんが重いと、寝返りがしにくく、身体(心臓)への負担も大きくなる。などの生理的機能も重要です。
(以上 図5)

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