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<傷つくのは、一般市民・子ども>
2007年5月、世界で初めてベルギーの「ハンディキャップインターナショナル」というクラスター爆弾の使用禁止を求めているNGOが、25の国と地域を調査した『被害の連鎖』という報告書でクラスター爆弾の被害の様子を報告しました。 クラスター爆弾によって今までどれほどの人々が被害を受けているのか、これまでは全体像をつかむことが困難でした。この報告書も実態調査は十分なものではなく、カバーされている被害情報は予測される全体の3%程度とコメントされており、被害の全貌はほとんどわかっていないのが実情ですが、それでもこの報告書から、被害者の98%が一般市民であること、35%が男の子であること、84%の被害が日常生活の場で起きていること、被害国は途上国がほとんどであることがわかってきました。
この報告書では、クラスター爆弾の被害者を少なく見積もっても5万5000人、最高で10万人と推定しています。そして、いつ爆発するかもわからない状態の子爆弾が世界25カ国以上にあり、その数は3億個ともいわれています。 現在、世界各国でNGOによって不発弾の処理と、不発弾の危険性のキャンペーンが取り組まれていますが、それでも不発弾の爆発による被害は増加し続けているのです。 <クラスター爆弾使用された主な戦争や紛争>
これに加え、2008年8月のグルジア紛争で、ロシア、グルジア両国のクラスター爆弾の使用が指摘されています。 (1)8月12日、ロシア軍機がグルジア中部ゴリなどに投下し、オランダ人記者を含む11人が死亡、イスラエル人記者を含む数十人が負傷した。 (2)グルジア中部で不発子爆弾を発見した と指摘しています。グルジアはロシア軍に対する使用を認めましたが、ロシアは使用を否定しています。 以下、ベトナム戦争を除く、これまでにクラスター爆弾が使われた主な戦争について簡単にまとめています。ベトナム戦争時のクラスター爆弾被害、特にラオスでの状況については、この後のページで詳しく述べることにします。 ■ 湾岸戦争(1991年) ベトナム戦争に次いで多数のクラスター爆弾が使用されたのが、湾岸戦争です。 使用された弾薬の数は資料により若干異なりますが、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(以下、HRW)の統計によれば、空中投下型のクラスター爆弾は米軍が59,904発(Mk 20ロックアイIIを28,173発、CBU-52/58/71を21,696発、CBU-87を10,035発)。米軍以外の多国籍軍が最低でも395発を使用し、地上発射のDPICM砲弾も約10万発、MLRSのM26ロケットも約 1 万発が使用されました(子弾の総数は2400-3000万発)。 クラスター爆弾は、広域に展開した戦車・装甲人員輸送車・砲、レーダー、地対空ミサイル、通信施設等のソフト・ターゲット、幹線道路や橋梁等に対して使用されました。米国の湾岸戦争報告書は、湾岸戦争で初めて実戦に投入されたMLRSを高く評価しています。報告書によれば、M26ロケットは兵士と非装甲車両に対して極めて効果的であり、「イラク兵に甚大な精神的衝撃を」与え、その破片効果は「鋼鉄の雨」と恐れられました(ただし、移動中の装甲車両にはあまり効果がなかった)。ATACMSも、目標とした防空サイトを沈黙させることに成功しました。 しかし、前述したように、湾岸戦争ではクラスター爆弾を中・高度から使用した時の命中精度の低さや不発率の高さが明らかとなりました。 不発率は、米軍の測定で10-20%、HRWの測定で30%以上と極めて高かったのです。不発子爆弾の多くは、砂漠に着弾したものです。不発子爆弾が原因で死亡した米兵は25名に上ります。米国の会計検査院の報告書は、不発子爆弾の識別や取り扱いについて十分な訓練を受けていない兵士も存在し、中には戦場の「土産」として不発子爆弾を持ち帰ろうとして爆発事故が発生した事例もあると指摘しています。 イラクにおける民間人の犠牲者数は、少なくとも、着弾時の死者が128人、負傷者が860人、不発子爆弾による死者が1,253人、負傷者が1,331人で、クウェートでも不発子爆弾によって4,000人以上が死傷したとされています。 ■ コソボ空爆(1999年) 1999年3月から6月に行われた北大西洋条約機構(NATO)によるコソボ空爆(同盟の力作戦)では、NATO軍機が使用した爆弾約26,000発のうち、クラスター爆弾が占める比率は約7%(約1,800発)にとどまりました。 湾岸戦争以降、精密誘導弾の使用率が上昇を続けていることもあって、クラスター爆弾の使用率は下降傾向にあります。 また、当初からNATOは、この作戦を人道的介入と位置づけていたこともあって、付随的被害の発生を特に警戒していました。
例えば、1999年5月にHRWは、クラスター爆弾の即時使用中止を求める声明を発表しました。 これに対して、NATOや米軍の関係者は、クラスター爆弾の有用性や合法性を訴えました。
また、この高官は、不発子爆弾の存在自体は認めつつも、不発子爆弾の性質は単弾頭の不発弾となんら変わらず、不発子爆弾を地雷に喩えるのは誤りだと主張しました。 NATOの欧州連合軍最高司令官報道官も、「付随的被害が生じないと確信できる場合にのみ」クラスター爆弾を使用していると述べています。 米国防総省は、コソボ空爆報告書において、クラスター爆弾が国際人道法上合法な兵器であると主張していますが、同時に、不発子爆弾は民間人に被害を与えるため早期に除去する必要性があることも認めています。 ただし、この報告書も、不発子爆弾が他の不発弾よりも危険だとはみなさず、結論として次のように述べています。 「CEM(米軍で使用されている代表的なクラスター爆弾)は、正しく攻撃目標を選択し使用するならば、依然として適切で軍事的に有効な兵器である。ただし、この兵器を使用する際には、他の兵器と同様に、付随的被害のリスクが考慮されなければならない」
NATOは爆弾投下位置に関する情報を国連に提供しましたが、不発弾除去を行った国連のコソボ地雷対策調整センターの指揮官は、NATOから提供された情報は不正確で、クラスター爆弾が目標から約1km離れた地点に着弾している場合もあったと語っています。 HRWは、クラスター爆弾による爆撃で着弾時に民間人が死亡した事例が7-12件あり、90-150人が死亡したと主張しています。 特に被害が大きかったのがニス空港への爆撃で、機械的な誤作動で爆弾投下直後に子弾が散布されてしまい、空港周辺の市街地にも子弾が着弾しました。
また、空爆時は悪天候が続いたため、地面がぬかるみ柔らかくなっていたことも不発率を上昇させる要因となりました。
HRWが入手した米軍資料によれば、2001年10月から2002年3月までに、米軍機は、アフガニスタンにおける232の目標に対して1,228発の空中投下型クラスター爆弾(子弾248,056発)を使用しました。これは、同期間に使用された爆弾の総数約26,000発の5%に相当します。 米軍機が主に使用したのは、CBU-87/BとWCMDを採用したCBU-103です(CBU-103は、初の実戦使用)。 アフガニスタン攻撃でも、一部のNGOやジャーナリストはクラスター爆弾の使用を強く批判しました。英国国教会のスポークスマンは、民間人への被害が大きいクラスター爆弾を使用していては、対テロ戦という人々の心をめぐる戦いに勝利することはできないと批判しました。 このような批判に対して、R.マイヤーズ統合参謀本部議長は2001年10月の記者会見で、目標を攻撃する際には目標の識別と兵器の選択に格別の注意を払っており、「クラスター爆弾が目標に対して最も有効な兵器である場合にのみ、それを使用している」と反論しました。 同議長は同年11月の記者会見でも、米軍は特定の目標に対する攻撃が国際人道法に適っているのかを非常に注意深く検討している点を強調した上で、米国とその同盟国ほど民間人への被害を極小化しようと努力している国は他にないだろうと主張しています。 HRWの報告書によれば、米軍がクラスター爆弾で攻撃したのは、主として「軍事基地」「敵部隊」「敵兵が潜伏する民間人居住区」「洞窟」の 4つでした。 おそらく、その理由は、米軍が緒戦から航空優勢を獲得できた(低空からの爆撃も可能であった)こと、WCMDを投入したこと、地上に展開した特殊部隊等が目標の位置に関する正確な情報を入手し航空部隊に伝達したこと等にあると思われます。 民間人居住区でのクラスター爆弾の使用も、その多くは軍事目標を攻撃するためのものでしたが、近くの軍事基地を狙った爆弾が逸れて居住区に着弾したと思われる事例や、居住区から避難していなかった民間人が死傷する事例もありました。 アフガニスタンにおける不発子爆弾による民間人犠牲者は、2001年10月から2002年11月までで死者29人、負傷者98人(死傷者の69%が18歳以下)です。米国は、不発弾除去を行うNGOに対して資金・装備面での支援を行い、国連に対してもクラスター爆弾の使用地点等のリストを提供しました。しかし、国連側は、リストの情報は不正確だと不満を漏らしています。 ■ イラク攻撃(2003年〜) HRWの調査によると、2003年3月20日から4月9日の3週間で、米軍機は1,206発の空中投下型クラスター爆弾(CBU-103が818発、CBU-99が182発、CBU-87が118発、CBU-105が88発、子弾総数237,546発)を、英軍機は70発のRBL755(子弾総数10,290発)を使用しました。
また、米軍機が使用した1,206発のクラスター爆弾の約75%がCBU-103及び105であることは、クラスター爆弾の精密誘導化も確実に進行しつつあることを示しています(CBU-105の実戦での使用はイラク攻撃が初)。 また、米海軍は3月から4月にかけてJSOW-Aを253発使用したとの情報もあります。 4月25日の会見において、マイヤーズ統合参謀本部議長は、使用した空中投下型クラスター爆弾の大半はWCMDを備えており、民間人居住区から1,500フィート(457.2m)以内で使用されたのは26発に過ぎず、付随的被害が発生したのも1件のみだと主張しました。 また、同議長は、クラスター爆弾の攻撃目標は地対地ミサイル、レーダー・サイト、防空サイト、地対空ミサイル、装甲部隊等であるが、イラク軍がこれらの軍事目標を民間人居住区の中に配置していることもあるため、付随的被害が発生するリスクを承知の上で攻撃しなければならない場合もあると指摘しました。 HRWも、空中投下型のクラスター爆弾が民間人居住区の近傍で使用された例が少なかったことを確認し、攻撃時の付随的被害も、地上発射型のクラスター爆弾による被害に比べれば格段に小さかったとしています。
第3師団の文書では、MLRSや榴弾砲で使用されるDPICMがイラク攻撃の「敗者」とされていますが、その一方で、精密攻撃が可能なSADARMは「勝者」と位置づけらています。米軍は地上発射型のクラスター爆弾を使用する場合でも、できる限り民間人への被害を極小化しようと努力はしていました。
加えて、第 3 師団は攻撃前に目標の画像情報を確認することを義務づけると同時に、事前に12,700の攻撃禁止物(学校、モスク、病院等)のリストを作成し、それらの300-500m以内への攻撃を禁じていました。しかし、米軍の努力にもかかわらず、地上発射型クラスター爆弾による民間人被害は大きかったのです。 バクダッド南方の都市ヒッラでは、3月31日のクラスター爆弾による攻撃で民間人38人が死亡、156人が負傷しました。また、不発弾による民間人死傷者の多くも、地上発射型のクラスター爆弾がもたらしたもので、米英軍兵士も最低 5 人が不発子爆弾によって死亡しています。
しかし、この法務官によれば、陸軍が保有する長射程の兵器はMLRSしかないため、単弾頭弾でも十分に破壊可能な目標に対してもMLRSを使用しなければならない場面もありました。
■ その他使用例 上記の例以外にクラスター爆弾を使用した国・勢力としては、モロッコ(1976年に西サハラで米国製のクラスター爆弾を使用)、イスラエル(レバノンで1976年、1982年、2006年に使用)、ソ連(1979年以降のアフガニスタン侵攻で使用)、イギリス(1982年のフォークランド紛争で使用)、スーダン(1980年代からの内戦で使用)、エチオピア(1990年代初頭のエリトリア独立紛争で使用)、1990年代の旧ユーゴ紛争における各勢力(特にボスニアのセルビア人勢力)、アゼルバイジャン(1993-1994年の内戦で使用)、ロシア(1994年以降のチェチェン紛争で使用)等が存在しています。 スーダン内戦では、政府軍はクラスター爆弾で市街地にある病院や教会も攻撃しました。ロシアもチェチェン紛争でクラスター爆弾を多用しており、1995年1月にはシャリの学校や農場等が攻撃され民間人55人が死亡、186人が負傷し、1999年10月にはグロズヌイの市場が攻撃され民間人137人以上が死亡したと言われます。 2006年7月に発生したイスラエルとヒズボラの間の紛争では、クラスター爆弾による被害が大きく注目され、クラスター爆弾規制を求める国際世論を高める契機となりました。 CBU-58はベトナム戦争時代の爆弾で、発見された不発子爆弾の中には品質保証期限が1973年のものもありました。 国連の統計によれば、2007年3月までに不発子爆弾によって最低でも民間人30人が死亡、200人が負傷しています。 なお、ヒズボラも、中国製のクラスター爆弾100発以上をイスラエル北部に向けて発射したと報じられています。 イスラエルが特に批判されたのは、クラスター爆弾の多くを民間人居住区に向けて使用したことでした。イスラエル政府は、あくまでも攻撃目標は民間人居住区の中の軍事目標だと主張していますが、米国政府も、イスラエルの兵器使用法が、米国からの武器輸入に関する2国間協定に定められた条項に違反する可能性があるとして、調査を開始しました。 この協定は秘密協定ですが、1976年にイスラエルは、防護された軍事目標への攻撃以外にはクラスター爆弾を使用しないと米国に誓約したと報じられています。イスラエルの違反が認定されれば、米国からのクラスター爆弾の輸出は停止されることとなります。 |
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