特集コンテンツ
第1話 猪瀬商店 はじめに〜工房見学
第2話 猪瀬商店 猪瀬さんインタビュー
第3話 青木鞄 飯塚さんインタビュー(東京鞄協会について)
第4話 青木鞄 飯塚さんインタビュー(ご自身について)
第5話 青木鞄 飯塚さんインタビュー(会社について)
第6話 T−Styleスタッフによるインタビュー後記
第7話 猪瀬商店&青木鞄アルバム
第3話 青木鞄 飯塚さんインタビュー(東京鞄協会について)
飯塚貴志(いいづか たかし)株式会社青木 代表取締役社長 / 一般社団法人東京鞄協会 副会長
創業120年を超える青木鞄の社長であると同時に、“東京鞄協会”の副会長でもある飯塚貴志(いいづか たかし)さん。
一企業の社長として、また、鞄業界の中核を担う者として、飯塚さんは日々どんな想いでカバンと向き合っているのでしょう。鞄業界全体のことから、青木鞄が製品に込めている想い、そして飯塚さん個人が常に大事にしている想いまで。
おもしろおかしく、そして真剣に、惜しみなくお話ししてくださいました。
鞄協会について
― まずはじめに、鞄協会の目的と活動内容について教えていただけますか?
そうですね……例えば、こういうのを業界内に配ったりしています。
内容は……テキトーに読んでおいてください(笑)。
― いやいやいや、すみませんが説明をお願いします(笑)。
しょうがないなぁ(笑)。これはですね、カバンや小物に関わる基礎知識を収めた小冊子です。販売店のスタッフのみなさんに、素材の知識や、製品の構造や作りなど、基本的な情報を共有していただいて、その情報をお客様とのやりとりに役立てていただこうと。製品を正しく販売していただくためのバイブルのようなものですね。
― これかなり勉強になりますね。一般ユーザーに配ったりはしないんですか?
この冊子は販売店さん向けですね。その他の活動としては、皮革や皮革製品に関する意匠登録とか、特許申請されたデータを見ることができるんです。ちゃんと弁護士さん同席のもとチェックして、その中で必要な情報を加盟団体にお知らせしています。「こういう意匠登録がされたよー」とか、「こういう特許が取られたから注意してねー」とか。海外ブランドのデータも確認できるので、とても勉強になりますね。あとは、PRイベントをおこなったりしています。
― イベントですか?
ほら、日本製を示すタグ、あるじゃないですか。
「このタグが付いてると日本製の製品ですよ」っていう情報を広めるためのイベントを、先日、横浜と西宮でやりました。ここ数年、鞄協会が毎年おこなっている日本製PRイベントで、毎回、人気のお笑い芸人さんや女優さんにご参加いただいています。素敵なゲストが参加してくださると、会場がある建物内にいるお客様が、「あ、なんかやってる!」ってたくさん集まってくださるんですよね。会場では、カバンやランドセルを商品にしたジャンケン大会や、ミニカバン作りとか、カバンに関するアンケートをおこなって、お答えいただいた方に抽選でカバンを差し上げたりしています。うちも商品を提供したり。現状はまだ「カバンのイベントを見るために行こう」ってなるほどのパンチ力はないんですけど、今後も年1回はこういったイベントを開催していきたいと、鞄協会では考えています。
― 現状、鞄業界が抱える課題と言いますか、今後、こうしていきたいというヴィジョンみたいなものをお聞かせください。
そうですね……猪瀬さんと中国の工場に行ったっていう話、しましたっけ?
― いえ、伺ってないです。
以前、猪瀬さんと中国の工場に視察に行ったんですよ。その生産ラインを見たとき、猪瀬さんは「恐怖を覚えた」って言ってました。
― 恐怖、ですか?
例えば、今中国には“ミガキ”の技術って少ないんですけど、猪瀬さんが工場長に教えたら翌日からすぐやるんだろうなぁって。中国は分業が得意だから、“ミガキ”担当は朝から晩まで毎日磨く……これ、相当腕が上がりますよね。クオリティをきちんと管理する点には問題を残すけど、技術だけで言えば同じことをやってみようという人が海外にはたくさんいる。日本国内で同じように“ミガキ”の技術を伝授しようとなると、後継者うんぬんって話がついて回ってきて、なかなか前に進めないのが現状です。
― 中国の場合は、そこ(技術の継承と後継者)が別というか、必ずしも一緒ではないんですね。
今、インバウンドの影響もあって“メイドインジャパン”って騒がれてますけど、“メイドインジャパン”だって色々あることも事実なんですよ。“日本製”っていう大きなくくりの中ですべての“メイドインジャパン”が同じレベルで信用されている現状の怖さというか。「本来こうじゃないだろう」って思う部分も自分の中にはあって。
― あ、それ、分かります。
だから今社内では、「2年後には国内生産と海外生産の比率を半分ずつに持っていこう」って掲げています。やっぱり商品が上がっての商売ですからね。そうじゃないと問屋業として成り立たなくなる。“メイドインジャパン”を質・量ともに高めようとする中で、うちは逆行しているように見えるかもしれませんね。現在日本で作っている製品をすぐに海外生産へ移行させることはしませんが、これからは同じ新製品でも、価格を意識したゾーンの製品は海外で作り、こだわりや技術を必要とする意識の高い製品は日本国内で作る。例えば国内生産の場合、1日1個しか作れなかったら、「いいじゃん、工賃1日30,000円で!その製品を正しい価値の価格で売ればいいんでしょう?」ってことで。正直、この方法で出来上がった製品のほうが、モノとしての価値や完成度はずっと高まるはずです。
― そうですね。
でも、日本国内の職人の現状はとても厳しくて、職人全体の高齢化と後継者不足は業界内でもとても大きな課題です。今業界を支えてくださっている職人さんの年齢は確実に上がり続ける中で、決められた納期で常に同じ数量か、それ以上の製品を作ってくださいね、って言ってるわけです。さらに、職人としての技術を守りつつ日々鍛えることも忘れないでくださいね、って。この現実にはかなり危機感を感じています。ただ、日本製品が良くて海外製品が悪いかって言われたらそんなことはなくて、海外製品でも良いモノはあるんです。実際には材料調達の規制や、“海外製品=安いモノ”という固定イメージなど、まだまだ問題もありますが。現状の製品の中でも、「これを海外生産でお願いしたらきっと良いモノができるんだろうな」って考えることがあります。そのためにはやっぱり、国内製品の質を高めることが大切。そこに戻ってくる。例えば1枚の皮革から10枚取れる製品を、良い部分を選んで8枚にする。それだけで確実に、素材の質は高まるじゃないですか。そこに職人の技術を重ねれば、良いモノへもっと近づくことができる。最終的には、日本製品のグレードをぐっと上げていかなくちゃいけないんだろうなって、いつも思っています。それと同時に、メーカーさんたちが食べられるようにしていかないといけない。もちろん僕らも食べていかないといけないので、「海外の工員さんの力を借りるしかないのかな」って。そういうふうにも思います。