TUSCANY イタリアワインとグルメ食材の店
Interview

突撃インタビュー

2012/6/25

テルラーノ社副醸造長兼エクスポートマネージャー クラウス ガッサー氏

アルトアディジェをイタリア白の銘醸地にしたテルラーノ社副醸造長兼エクスポートマネージャー クラウス ガッサー氏来社

ガッサー氏とトスカニースタッフ
テルラーノのワインはいつ飲んでもとてもクリーンで、美味しいワインが揃っているアルトアディジェの中でも別格のイメージがあります。上級ラインのノヴァドムスやルナーレ、クオルツなど、長期熟成できる素晴らしい白ワインや、とってもお買い得感のあるベーシックラインのテルラーネルクラシコ。アルトアディジェだから美味しい、と言うだけでは済まされないワイナリーの秘密をたっぷり語って頂きました。

夏の気温は高く、雨が少ない。アルトアディジェは地中海性気候の北限。

アルトアディジェの畑クラウス氏:アルトアディジェはご存知でしょうか?イタリアの北の端で寒いイメージがあるかもしれませんが、地中海性気候で夏の気温はとても高く、イタリアの中でも最高気温を観測することもあります。ワイナリーのあるボルツァーノから北にわずか80kmいったところがインスブルックですが、その手前にそびえる山脈のおかげで北からの寒気が入ってこないんです。さらに、南北を流れるアディジェ川沿いは幅の広い渓谷になっているので、南からのあたたかい空気が流れ込んで穏やかな気候となっているんです。

(アルトアディジェのプロモーションビデオをみんなで鑑賞。)
トスカニー:自然豊かで美しい風景が続くところですね。

クラウス氏:アルトアディジェはsudtirol(南チロル)と呼ばれるように、昔はオーストリア領でした。言葉もチロル方言、ドイツ語、イタリア語と3つの言葉が使われます。ご覧いただいたように建物のデザインもオーストリア風です。

大昔は海だったエリア。それが特殊なテロワールを造っている。

クラウス氏:何万年も前、このエリアは海でした。それが隆起してできた土地です。土壌はドロマイト質で、化石が多く含まれる石灰質土壌です。ドロマイトとはドロミテを形成する土質のことです。テルラーノがある地域は鉱物を多く含む石英斑岩(Quartz Porphyry)という火山岩から形成されていて、この土壌はアルトアディジェの中でもテルラーノだけです。

アルトアディジェはオーストリアハンガリー帝国領だったため、歴史的に帝国が好むワインを造ってきました。また、フランスとの交流が深かったのでその影響も強く、フランスの品種が栽培されていました。ドイツ語圏の中では最南端なので赤ワインが多く造られ、40年前ぐらいまで赤ワインの比率が9割と圧倒的に高く、テルラーノのように白ワインに特化した造り手は数軒ほどしかありませんでした。

トスカニー:需要が高かったのでフランス品種を植えていたとのことですが、テロワールには適していたのですか?

クラウス氏:その品種が適しているかどうかは分からなかったと思います。長年の経験を経て、適していると言うことが分かってきたのです。 また、この地域ならではのクローンも生まれました。
テルラーノ社の畑の地図

100年以上前から同じブレンドで造り続けてきたテルラーネルクラシコ

クラウス氏:テルラーネルクラシコは100年以上前からシャルドネ、ピノビアンコ、ソーヴィニョンの3品種で造ってきましたが、当初はシャルドネと言う名前では知られていなくて、ピノビアンコジャッロ(黄色いピノビアンコ)と呼ばれていたんです。そもそも、品種は重要じゃなかったんです。どの地域で造ったのかが重要でした。ブルゴーニュだったり、シャンパーニュだったり。

トスカニー:フランスは品種は少ないですが、イタリアは多いですよね(笑)

クラウス氏:確かに山ほどあります。だから、ソムリエの仕事があるってことですね(笑)。テルラーネルクラシコは、アルトアディジェDOCのなかのサブゾーン指定されているテルラーノクラシコのエリアで造っていますが、指定区域180haのうちの80%をテルラーネルが所有しています。つまり、テルラーノと言えばテルラーネルクラシコ。テルラーノにとって力を入れている、非常に重要なワインです。テルラーノは1893年に設立しましたが、ずっとテルラーネルクラシコを造っています。そして、1954年以降のテルラーネルクラシコをヴィンテージが途切れることなくセラーに保管しています。その以前は足りないヴィンテージもありますが、1893年のワインもまだ保管しています。そして、この3つの品種で1回も変わることなく造り続けています。

テルラーネルの畑は唯一無二特殊なテロワール。塩っぽさが長熟の秘密。収量が少なく全てのワインが凝縮され、ミネラルが豊富。

トスカニー:昔は白ワインに特化した造り手が少なかったと言うことでしたが、どのエリアで白ワインを造っていたのですか?

クラウス氏:歴史的には私たちのエリアとバリザッコですね。バリザッコはインスブルックに向かう谷の途中です。もちろん、他にも白を造るところはありましたが、メインは赤ワインと言う造り手がほとんどでした。私たちのような白ワインを造ってきたのはアルトアディジェで唯一です。テルラーノの畑はイタリアにおいても、恐らく世界的に見ても唯一無二と言っていい、非常に特殊な土壌です。さらさらとした砂で、火山性の玄武岩です。先ほどアルトアディジェの特徴としてお話ししたドロマイト質はテルラーノにはありません。石英斑岩と言うのですが、ケイ素が非常に多いのです。シレックス(Pouilly-Fumeのテロワールの名前)と似ていますが、水晶が多いです。

この土質の特徴は非常にやせていることで、有機的な成分が全くない。それがブドウの味を非常に特殊なものにしています。ワインを分析すると酸がとても少ないんです。

トスカニー:えー、そうなんですか。

クラウス氏:つまり、ワインのフレッシュ感は塩っぽさからきているんですね。塩分にはワインを安定させる効果があります。テルラーノのワインが長熟なのは酸でも糖でもなく、この塩分のおかげなのです。

クラウス氏:畑は250mから900mぐらいまでにあります。やせた土地なので収量が自然に少なくなります。アルトアディジェの中で最も低いです。

トスカニー:収量をわざと落とすのではなく?

クラウス氏:はい、自然にそうなります。だから全てのワインが凝縮され、ミネラルが多いのです。第2次大戦ぐらいまではたくさんワインを造ることを求められましたが、どう頑張ってもできないんです。そのおかげで長熟可能なワインができたと言えます。今は、収量を落とすことが品質のポイントになりますので、仮にたくさんできる年があったとしてもコントロールして収量を落としている部分もあります。

トスカニー:1本当たりが少ない?それともできる房が小さいのですか?

クラウス氏:一般的には1haあたりどれぐらいできるかで計算されますが、高級ワインは1本当たりどれだけできるかを見ます。テルラーノの畑は傾斜地にあるので、密植度については3500~9000株/haとばらついています。だから一概には言えません。傾斜がきついところは機械も入れませんのでできるだけ密植させます。それから、植え替えをできるだけ少なくし、樹齢をできるだけ高くするように配慮しています。

テルラーノの砂質土壌を感じさせるのはワインを飲まれるとよくわかります。ボディであったり、ミネラル感であったり。長熟していくワインの特徴を感じ取ることができます。

現代の白ワインの傾向は低温発酵。テルラーノはあえて高い温度で発酵する。

クラウス氏:テロワールも重要ですが、醸造方法もテルラーノのワインの重要なポイントです。現在の白ワイン造りでは15~16℃の低温発酵が一般的ですが、私たちは少し高めの20℃以上で、24℃ぐらいの時もあります。実は低温発酵を試みたこともあるのですが、アロマが保たれないことがわかりました。非常に不安定で、ブドウ固有のアロマが出てこないのです。香りはもちろん大切ですが、私たちは鼻で感じる香りを過大評価しないようにしています。

それから、シュールリーを長く行います。テルラーネルクラシコで5~6ヶ月、上級ラインやビッグヴィンテージの場合はずっとシュールリーのままタンクで保管することもあります。全部で15のヴィンテージを保管していますが、一番古いのが1979年のもので今もシュールリーの状態でタンクに寝かせています。

トスカニー:それはすごいですね。いつごろから長期熟成ワインを造ることにしたのですか?

クラウス氏:SO2(酸化防止剤)もない時代でしたから1890年代とか昔は白ワインは酸化したものが一般的でした。そんな時代にテルラーノのワインだけが常に若々しくってフレッシュだったんですね。フランスでも、ロシアでも、もちろんオーストリア帝国でもそれは有名でした。なぜフレッシュなのかを追求すると言うよりは、瓶詰して保存しておこう、ということになり、ストックが始まったのです。テルラーノのワインは当時から有名で、Ringelratz(-1920)というドイツの詩人は、テルラーノのワインの素晴らしさを詩によんでいます。

そして、1955年からテルラーノのエノロゴだったセバスチャン ストッカーが毎年きちんと保管を始めました。彼は世界的にも有名な醸造家です。テルラーノの白ワインは哲学と歴史もある、偉大な白ワインとして世界的に認められてきたのです。

トスカニー:長期熟成させるという発想はフランスの影響ですか?当時、イタリアにはなかったものだと思いますが。

クラウス氏:フランスもそうですが、リースリングを大樽で熟成させていたドイツの影響ですね。
瓶詰後にストック中のワイン
では、ワインを飲んでいきましょう。

(試飲後に)
トスカニー:ところでクラウスさんはどんなワインをお飲みになるのですか?

クラウス氏:完璧なワインはありませんが、興味深いワインはいっぱいあります。世界中に好きなワインがあります。この話を始めると終わらないですよ(笑)。

もともと私は醸造学校を出て、その後ドイツで6年間エノロゴとして働きました。地元に戻ったあと、テルラーノで働いている醸造学校の同級生からテルラーノのオールドヴィンテージ試飲に誘われました。ショックでした。いっぺんにのめり込みましたよ。

エノロゴとして働かないかと言われましたが同級生の下につくのは嫌だったので(笑)、それじゃあマーケティングと販売の責任者にどうだということで入社して18年になります。

他のワイナリーもうらやむミネラル感

クラウス氏:酸度は低いですが、ミネラルや塩っぽさのおかげでこのようなフレッシュ感があります。砂質土壌はそれほど濃密な香りを生みませんが、シュールリーを長くすることでブドウ本来の香りが残ります。それは飲んだ時にわかります。

トスカニー:本当にしっかりとしたミネラルです。甘みもあるし、凝縮感を感じますが、とてもフレッシュで美味しいです。余韻もすごく長いですね。
クラウス氏:このミネラル感がテルラーノそのものです。長期熟成を生むこのミネラルは他のワイナリーがうらやむほどです。
テルラーネル クラシコ

世界でも有名なテルラーノのソーヴィニョン

クラウス氏:テルラーノはソーヴィニョンが世界的にも有名で、パーカーポイントで92点を取ったこともあります。10年ぐらい前までは白ワインの評価は低く、良さが理解されていなかったのですが、最近はわかってくれる人が多くなりました。上級ラインのQuarzクォーツは、ワインスペクテイターが行っているGrand Tourにイタリアワインとして唯一呼ばれているソーヴィニョンです。
ソーヴィニヨン ウインクル

テルラーノの特徴を最も表現しているノヴァドムス

クラウス氏:このワインはブルゴーニュタイプのグラスで飲んでください。ノヴァドムスはテルラーノの特徴を表現しているワインです。大樽で熟成させる、伝統的な醸造方法で造ります。今日は2009と2001を比較して頂きます。

(まず2009を試飲)
トスカニー:ハチミツのニュアンスがあるクリームのような香り。濃密感とミネラリーな要素のバランスが素晴らしい。とても美味しいです。

クラウス氏:バランス感、ハーモニーは私たちが大切にしている点です。バリック熟成のワインは飲んだ時に舌の両サイドにどうしても渋味を感じますが、大樽熟成だと全体のバランスが完全にとれます。
(続いて2001を試飲)
トスカニー:2009に比べると熟成感が加わった気がします。香りや味わいの広がり方が複雑です。

クラウス氏:2001でもまだ若いです。もう少し熟成が進むとブリオッシュやパンの耳、コーヒーのニュアンスが出てきます。絹のような、ヴィンテージもののシャンパーニュのような舌触りで、味わいのバランスが完璧です。
テルラーネル クラシコ ノヴァ ドムス リゼルヴァ2009/2001

インタビューを終えて

外見はドイツ人のようで、話している時の表情も厳しいクラウスさんでしたが、時々見せる笑顔がとても魅力的でした。ワインを飲むのが大好きで、つい2日前も朝の5時まで飲んでいたそうです。「昼はドイツ人、夜はイタリア人」というクラウスさんの正確な説明のおかげで100年以上前からイタリアで長期熟成タイプの白ワインを造り始めたテルラーノの秘密が本当によくわかりました。

その後行われたセミナーでは1956年のテルラーネルを試飲。パッシートワインのような複雑で熟成させた香りが印象的でした。酸化している印象はなく、青リンゴやハーブのような印象もあって、まさか50年以上に造られたものとは信じられませんでした。

(※今回のページは、インタビュー後に行われたセミナーの内容も含めて構成しています)
ガッサー氏とトスカニースタッフ

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