突撃インタビュー
2020/02/07
/
ダニーロ ドロッコ氏
ロンバルディア州ヴァルテッリーナを代表するワイナリー「ニーノネグリ」。長年社長兼エノロゴとして活躍されたカシミーロ マウレ氏が引退!その跡を継いだ、ネッビオーロのスペシャリスト「ダニーロ ドロッコ」氏突撃インタビュー
※ネッビオーロはヴァルテッリーナ地方ではキアヴェンナスカと呼ばれています。以下、品種名はキアヴェンナスカとして表記しています。
フォンタナフレッダを始め30年間ピエモンテでネッビオーロを造り続けた醸造家ダニーロ ドロッコ氏の新たな挑戦!第2のエノロゴ人生にかける思い
2019年現在『ガンベロロッソ』最高評価を23回獲得、国内外に多くのファンを持ち名実共にヴァルテッリーナトップの「ニーノ ネグリ」。40年以上に渡り品質向上に貢献してきたカシミーロ マウレ氏は『ガンベロロッソ』2007で年間最優秀エノロゴに選ばれた偉大な人物です。彼が定年引退する話を聞き、すぐに履歴書を送ったのが1965年生まれのダニーロ ドロッコ氏でした。トリノ大学で醸造学を修めた彼はあの「フォンタナフレッダ」を始め30年間ピエモンテでバローロを造り続けたエノロゴです。54歳のダニーロ ドロッコ氏が第2のエノロゴ人生をかけて選んだのがロンヴァルディア州のヴァルテッリーナでした。
ダニーロ ドロッコ氏を魅了したテロワール「ヴァルテッリーナ」
段々畑にへばりつくように植えられているキアヴェンナスカを初めて見たときは驚きを隠せませんでした。この過酷な環境において古代ローマ時代から人の手で切り開かれた急斜面の畑は通常の5倍以上の労力を要します。さらに他にはない冷涼な気候。そしてここは岩の土壌です。
このような環境で栽培されているキアヴェンナスカは、私がピエモンテで造ってきたネッビオーロとは全く異なります。現在、ワイン業界において“山のワイン”はトレンドになっています。私は、山のワインが持つエレガントで繊細、力強いだけではない果実味とミネラルに魅かれていました。さらに岩に囲まれ区画による土壌の違いが表現できます。ヴァルテッリーナはイタリアのブルゴーニュになれる可能性があります。そして、ここで再度自分の力を試したい!と心の底から思いました。
ピエモンテとは異なる素晴らしいテロワール!ダニーロドロッコ氏が魅せられた、ヴァルテッリーナとは。注目を集めている山のワインのヴァルテッリーナがランゲとは違う3つの特徴
レオナルド ダ ヴィンチも評したヴァルテッリーナのワイン
ヴァルテッリーナはアルプスの真ん中に位置し、北部は背後に連なる壮大なアルプスの山々によって冷気から守られています。東西60kmに広がる渓谷は朝から夕方まで常に陽が当たり、シチリアのパンテッレリア島と同等の日照時間があります。大陸性気候で4000m級の山々の影響を強く受け、降雨量は少なく強烈な太陽を浴びます。ランゲより遥かに長い日照量です。
夜はアルプスの万年雪によって夜間の気温が急激に下がり、キアヴェンナスカがフェノールを蓄えていきます。レオナルドダヴィンチは1490年にこの地を訪れ、「ヴァルテッリーナは高いアルプスの山々に囲まれ、過酷な所だ。ここで造られるワインは力強く芳醇でリッチだ。」と評したことが文献に残っています。さらに1550年から1797年の間、ヴァルテッリーナのワインは樽に詰められ北ヨーロッパへ運ばれていました。当時は数カ月かかっていたその長い輸送に耐えられたのはキアヴェンナスカの強靭なタンニンのおかげと考えられています。
全ての斜面が南向きという渓谷
ヴァルテッリーナは、ヨーロッパプレートとアフリカプレートがぶつかって生まれた渓谷です。東西に広がるアルプス渓谷でその大きな特徴である段々畑は南向きの谷底を見下ろすように北側斜面に広がっています。その海抜は谷底の315mから最も高いのは900mを超えています。ピエモンテのランゲは急斜面もありますが丘陵地帯ですのでまったく異なる環境です。ヴァルテッリーナではブドウは南北、東西どの方向でも植えることが出来ますが「ニーノ ネグリ」はミラノ大学の樹木栽培期間の研究を元に東西に決定しました。
ヴァルテッリーナとランゲ。土壌の決定的な違い
ヴァルテッリーナは泥を含む砂質と様々な大きさの岩を含む稀有な土壌です。粘土はありません。水はけが悪く水分を蓄えることが出来ず常に乾燥しています。岩が昼間熱を蓄え夜間放出します。ランゲは石灰岩を含む粘土質土壌で、ブドウが適度に水分を蓄えることが出来る土壌です。ヴァルテッリーナのキアヴェンナスカは喉越しがスムースでキメの細かいタンニンと酸味のバランスに優れ、ランゲではしっかりとしたボディと骨格を持ったワインになります。
ヘリコプターを使って収穫!通常の5倍の労力が必要な段々畑の急斜面
ヴァルテッリーナ渓谷ではその位置の特性上、日の出から日没まで太陽を浴びることが出来ますがあまりにも急斜面の段々畑のためトラクターなどの重機が入れず多くのマンパワーが必要です。このため収穫期はヘリコプターでブドウを運びます。それ以外は全て手で行わなければならないので、通常の畑仕事の5倍以上の労力を必要とします。ここまでの労力と手間をかけて造られるワインは他にないと思います。
ヴァルテッリーナの5つのサブゾーンとクリュの違いを表現
ヴァルテッリーナには5つのサブゾーン「サッセッラ」「グルメッロ」「インフェルノ」「ヴァルジェッラ」「マロッジャ」が存在します。ニーノ ネグリは「グルメッロ」「インフェルノ」「ヴァルジェッラ」に畑を所有、さらに200軒の栽培農家と契約しています。その契約農家が年間に造れるブドウは平均700kgと非常に少なく700本のワインも造れないほど小さな畑の農家さんが殆どです。
繊細でミネラルに富む柔らかい味わい「グルメッロ」
「ニーノ ネグリ」が所有する3つのサブゾーンの一つ「グルメッロ」は標高450mで真昼の一定した日照量が理想的であることから高品質なブドウを栽培に適しています。フレッシュで繊細、ミネラルに富み柔らかい味わいのワインが出来ます。2019年産からはここからクリュのワインがリリースされます。
イタリアのブルゴーニュ!友人達がブラインドでピノネロだと思い込んだ「インフェルノ」
夏は非常に暑く午後は働きたくなくなるほどの酷暑となる「インフェルノ」。ここにはワイナリーの醸造所があり、非常に急斜面です。広がりがあり力強くふくよか、余韻の長いワインが出来ます。岩の量が特に多く昼間は日光を反射、夜間は熱を放出してフレッシュで完熟したブドウが出来ます。エレガンスも感じられイタリアのブルゴーニュになりえる可能性がある場所です。以前、友人たちを集めてピノネロだけのブラインドテイスティングをしたのですが、その中にこっそり「インフェルノ」を入れてみました。その場にいた全員がピノネロだと信じて疑いませんでした(笑)。
エレガントで柔らかく繊細なミネラルとタンニン「ヴァルジェッラ」
1879年ヴァルジェッラ中心部に自社畑「フラチャ」を購入、現在7haを所有しています。水分を蓄える力があり乾燥に強い畑です。エレガントで柔らかく繊細なタンニンとミネラルを持ったワインが出来ます。
ヴァルテッリーナはアパッシメントに適した気候条件!キアヴェンナスカのエレガンスを生かした陰干しワイン「スフルサート」
ニーノ ネグリのフラッグシップワイン「チンクエ ステッレ スフルサート ディ ヴァルテッリーナ 」は伝統製法「スフルサート」で造るヴァルテッリーナを代表するワインです。3ヶ月陰干しして半乾燥させたブドウを茎を切り離し圧搾、その後バリックの新樽で20ヶ月間の発酵熟成、さらに瓶熟成4ヶ月を行う非常に手間と時間がかかる製法です。太い骨格があり酸味が凝縮、厚みあのあるタンニンとコクのある果実味。まさに山を感じさせるワインです。これまでに20回以上『ガンベロロッソ』で最高評価トレビッキエリを獲得しています。
キアヴェンナスカのエレガンスを追求!伝統製法「スフルサート」に最適な場所
アルプスからの冷たく乾燥した風、高い標高、乾燥した気候の下、収穫されたブドウは3ヶ月間専用の小屋で乾燥します。ゆっくり冷たい空気で乾燥させたブドウは重量は30%以上減少、糖度とアロマが凝縮されます。通常にワインを造ると12%程度にしかなりませんが陰干ししたブドウは16%のワインになります。この高いアルコールと凝縮したアロマと酸味、旨味のハーモニー。そして厚みのあるタンニンと果実のバランスから素晴らしい「スフルサート」が産まれるのです。このエレガンスはまさにヴァルテッリーナの気候がもたらすものです。よくアマローネと比較されることがありますが、醸造工程は似ていますが似て非なるものだと思います。ランゲは湿気と霧も多く「スフルサート」はなかなか難しい土地だと考えています。
ヴァルテッリーナを代表する「ニーノ ネグリ」白のフラッグシップ「カブリオーネ」
シャープな酸と岩のミネラルを蓄えるサブゾーン「インフェルノ」のキアヴェンナスカ
試飲
コメント
香りは抑制されていますが、その奥に膨大な旨味を感じます。プラム、ブラックベリー、バラ、スミレの上品で控えめな風味。乾いたタンニンとフレッシュな酸味がバランスを保ち見事な骨格を造っています。厳格なミネラルがあり果実は非常に凝縮しています。口当たりはソフトですが中~後半にかけてのボリューム感に圧倒されそうです!特に素晴らしいのはエレガンスの極みと言える繊細な余韻です。輸出MGのダニエル ドロッコ氏は「ピノノワールに似ています、私はイタリアのブルゴーニュと呼んでいます。」と語っていたのが印象的でした。
ヴァルテッリーナを代表する「ニーノ ネグリ」のベストセラーワイン!遅摘みキアヴェンナスカ「マゼール」
試飲
コメント
やや濃い青みがかったルビー色で甘さを感じるスパイス、リッチで力強くふくよかな果実味、繊細で厚みのあるタンニン、味わいに広がりが感じられ上品で塩味を伴った余韻が素晴らしい!厳格さもありエレガンスさもある山のワインです。
ミネラル、タンニン、樽が余韻で三位一体となるキアヴェンナスカの最高峰ヴァルテッリーナを代表する「ニーノ ネグリ」赤のフラッグシップ
試飲
コメント
100%新樽熟成による濃密な香りと凝縮感に圧倒されます。非常に洗練されて力強いボディで長期熟成が期待できます。濃くて深みのあるガーネット色、驚くほどリッチで複雑な香りと濃密な果実味、熟したフルーツの風味にスパイスが重なり合います。さらに上品なミネラルがあり凝縮して厚みのある酸味がありフレッシュ!塩味に変わったミネラル、熟して甘ささえ感じるタンニン、新樽由来の厚みのある風味が三位一体となる余韻は本当に素晴らしい!まさにキアヴェンナスカの最高峰、五つ星(チンクエ ステッレ)のワインです。
インタビューを終えて
偉大なる前エノロゴの功績を引き継ぎ、ニーノ ネグリを新たな領域へと導いたダニーロ ドロッコ氏の想いと行動力に深く胸を打たれたインタビューになりました。
試飲
コメント
緑色を帯びた輝きのある黄色でグラスの中で力強く広がる複雑な風味に圧倒されてしまいます。トロピカルフルーツのエキゾチックな香りとシロップに漬けたフルーツの中に繊細でフレッシュなミネラルを感じます。旨味とミネラルが調和し味わいはエレガントの一言!ミネラルが余韻で上品な塩味に変わりさらにキアヴェンナスカ由来のタンニンが重なり厚みと厳格さが加わります。深みとヴォリュームが見事なまでに融合、ヴァルテッリーナの唯一無二の個性を感じる山の白ワインです!