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Interview

突撃インタビュー

2011/11/30

マストロベラルディーノ社 ピエロ マストロベラルディーノ社長

マストロベラルディーノ ピエロ社長 突撃インタビュー

ピエロ社長とワインを手に
マストロベラルディーノ社の社長、ピエロ・マストロベラルディーノ氏がトスカニーの事務所に来て下さいました。2007年にポンペイの遺跡内で、当時のブドウ畑をマストロベラルディーノが忠実に再現し、ワインを造っていると聞いて実際に見てきて以来私たちのマストロベラルディーノに対する尊敬の念は頂点に達しており、今回、その社長さんが来て下さると聞いてとても楽しみにしていました。

紀元前から造られるイタリアで最も古いワイン産地のひとつ カンパーニア

ピエロ社長:まず、私たちの家族と、カンパーニア州の歴史について少しお話しさせてもらいます。カンパーニアはギリシャからワイン造りが伝わって以来、何世紀にもわたってブドウ栽培がおこなわれてきた、イタリアのみならず世界的に見ても重要な土地です。そんな土地に私たちがいるということをとても誇りに思っています。そして、大昔から栽培していた古代品種がカンパーニア州に適していたこと、そして私たち家族は一度も途切れることなく今も造り続けています。

カンパーニア州は、ナポリやポンペイ、アマルフィなど海沿いの町が有名ですが、内陸の山沿いの場所はあまり知られていません。ですが、内陸の場所もワイン造りに非常に適したエリアです。私たちがいるアヴェッリーノ県アトリパルダはナポリから車で60分から90分の場所にあります。(ピエロ氏は車で30分、と言ってましたが輸入元の担当者いわく、普通の運転では絶対に無理な距離だそうです(笑))

カンパーニア州の地図海沿いのエリアは魚介料理がメインですが、ワイナリーがあるアヴェッリーノはお肉料理がメインの場所です。例えば山羊のグリルやイノシシ料理など。この違いは造られるワインにも特徴が出ています。アヴェッリーノは標高が400~700Mでブドウが栽培されていて、その標高の高さが生かされたブドウとなります。つまり、酸とミネラルがはっきりとしたワインとなります。これが私たちのワインの特徴です。ヴェスヴィオ火山の土が風で運ばれ、アペニン山脈にあたり、その手前にあるアヴェッリーノの豊かな土壌が作られました。

ピエロ社長:ラクリマクリスティで有名なヴェスヴィオ地区と3つのDOCGが造られるアヴェッリーノ地区で、それぞれのテロワールの特徴をリスペクトしたブドウを作っています。売れるからという理由で国際品種を作る生産者たちもいますが、それはテロワールに適したものだとは私たちは思いません。自分たちの考えは土着品種でテロワールを表現した、エレガントでモダンなワインを作ることを目指しています。

第二次世界大戦後いなくなった地元の生産者にブドウの栽培を呼びかけた先代

トスカニー:今まで、生産が途切れたことはなかったのですか

ピエロ社長:ずっと造り続けてきました。第二次世界大戦後は、他の生産者はみんないなくなりました。私の父が栽培農家たち一人一人にブドウ栽培の再開をやっていこうと説得を続けたことで90年代に入ってから一気に数が増えました。

トスカニー:自己所有の畑はどれぐらいあるのですか?

ピエロ社長:全部で300haのうち、以前よりも増えて今は200haが自己所有畑です。白ラベルのラディーチリゼルヴァの単一畑は25haで、そのうち16haのみ使っています。毎年全部を白ラベルに使うわけではなく、出来栄えによっては下のクラスに使います。

世界遺産ポンペイ遺跡の中で当時の栽培方法を忠実に再現。
「等間隔で穴が開いていたんだ、それはブドウの樹の跡だったんだよ。そこにまた、同じように植樹したんです」

畑の門の前でトスカニー:5年ほど前にポンペイに行って、ヴィッラ デイ ミステリの畑を見てきました。このワインは毎年生産されているのですか。

ピエロ社長:2001年が初リリースで、毎年、造っていることは造っています。でも、マストロベラルディーノとして「生産しています」と言えるほどの本数では全然ありません。このワインはシンボル的なワインです。ポンペイは世界中から多くの訪問者が来ますし、そのような世界遺産の遺跡の中でブドウを栽培できることを誇りに思います。2000年前に栄えていたポンペイの現実、伝統、文化を表現すること、当時のワイン造りを再現していること、全ての意味においてカンパーニアのシンボル的な存在だと考えています。

ブドウ畑の発掘を行ったとき、等間隔で穴が開いていたことがわかりました。その穴が何だったのかをまず調べ始めました。そして、ブドウ樹が植えられていた跡だったことが分かったのです。つまり、その当時から等間隔に植樹していたわけです。私たちもその間隔にしたがって植樹しています。

一同:それはすごい!

ピエロ社長:ピエディロッソとシャシノーゾという2つの品種が植えられていたことがわかりました。2001年の初リリースからずっと、この2つの品種でヴィッラ デイ ミステリは造っています。ところが最近、アリアニコに近い品種も植えられていたことが分かってきたので、現在は3つの品種を栽培しています。今後は、ヴィッラ ディ ミステリは3品種のブレンドでリリースされていきます。

世界遺産ポンペイ遺跡内にもある同社のブドウ畑
トスカニー:古代品種を作っていたエリアは、カンパーニア以外にもあったのですか?

ピエロ社長:もちろん、他のエリアでも造っていましたが、アヴェッリーノエリアはローマ帝国に押されてしまい、遺跡として残っているようなものはありません。そう考えると、ポンペイの土地がいかに優れていたのかがわかります。

世界遺産ポンペイ遺跡の中で当時の栽培方法を忠実に再現

トスカニー:ヴィッラ デイ ミステリはどういうところに販売されているのですか?

ピエロ社長:半分はイタリア政府、わたしたちも研究用にストックします。だから一般に販売する数はほとんどありません。

トスカニー:2004年ヴィンテージですが、これからの熟成はいかがでしょうか?

ピエロ社長:2004年は素晴らしいヴィンテージです。ピエディロッソは比較的若いうちから飲めるタイプなので、今でも十分飲み頃になっています。今後はアリアニコが入るので、より長期熟成させることができると思います。

トスカニー:ポンペイに行ったときにヴィッラ デイ ミステリの畑を見て、こんなワインがあるんだと帰国してすぐにモトックスに聞いたら、ちょうど入荷する所でタイミングがよかったんです。日本には2004年が入荷しただけで、それ以降入荷はしてないんですよね。私たちもあと少しだけ在庫があります。

ピエロ社長:それは素晴らしい。貴重ですよ!

試飲が始まりました。

ワイン造りに大切な3つの要素。品種。土壌。ミクロクリマ。それに向き合っているのが、造り手です。マストロベラルディーノは何世代にも渡って私たちファミリーがそれぞれ真摯に向き合ってきました
同社のワイン4本ピエロ社長:グレコ ディ トゥーフォ2010です。グレコはギリシャから来たという意味もありますが、アミネアジェミナ(Aminea Gemina)というギリシャ名です。アミネアというのはギリシャの町の名前で、ジェミナは双子という意味です。房の形が双子のようだからですね。このワインの特徴は、ミネラル感と酸です。この2つのバランスを最も重要としていますし、これがないと私たちのワインではなくなります。

トスカニー:まさにその通りの味わいです。

ピエロ社長:花や果実のニュアンスももちろんありますが、ミネラルと酸がやはり一番特徴的です。そして、飲みこんだ後にアーモンドのようなほろ苦さがあるのもこのワインのキャラクターです。

トスカニー:香りが華やかで、味はシャープで酸がしっかりしているのが本当にわかります。他のワイナリーのグレコではもうすこしやわらかなものもありますが、マストロベラルディーノのワインは本当に酸がしっかりしていますね。

ピエロ社長:こういう特徴を持っているワインは、長期熟成ができることの証明です。だからバックヴィンテージを楽しめるように、全てリリースするわけではなく、ある数量は残しています。フィアーノもそうで、グレコに比べると酸とミネラルが強く、フィアーノのほうが長期熟成向きです。

トスカニー:そうなんですか~

ピエロ社長:フィアーノのほうが酸化に強いんです。グレコは8,9年するとかなり黄色がかってきますが、フィアーノは麦藁色を保っています。同じヴィンテージを比べて飲むとよくわかるのですが、最初はフィアーノは閉じている印象があります。そして、ゆっくりゆっくり熟成をしていくのです。

トスカニー:そういう特徴は他の造り手さんのグレコやフィアーノでも現れるのですか?

ピエロ社長:ブドウ品種本来の特徴は同じですが、造り手によって何を最も重要視するかが違います。私たちのフィアーノは全体のバランスを保つように造るのでゆっくり熟成させることができますが、たとえば、華やかさを強調するような造り手のフィアーノは私たちほど長期熟成はしないでしょう。

ピエロ社長(と、ここで図を書き始めるピエロ社長)

ピエロ社長:ワイン造りには3つの大きな要素があります。まず、最も重要なのは品種選びです。私たちは土着品種を選んでいますが国際品種を選ぶ人もいるでしょう。そして、土壌。あとミクロクリマ(地区気候)。土壌とミクロクリマを合わせたものがいわゆるテロワールです。この3つの要素に対して人が加わって完成します。この「人」はマストロベラルディーノの場合はひとりではなく、何世代も続いてきたファミリーです。人がどのように3つの要素に向き合っていくことが大切なのです。

「モッツァレッラ ディ ブッファラはラクリマの赤とよく合いますね」
ピエロ社長:ラクリマクリスティです。ピエディロッソ100%で造っています。ヴェスヴィオ県はアヴェッリーノよりもやせた土地で、砂質土壌がメインになります。そのため、ワインがやわらかく飲みやすくなります。アロマが華やかでタンニンがあまりなく、果実の味わいがシンプルに表現されています。果実味が特徴なので、それを覆い隠すような樽はほとんど使いません。このような親しみやすい味は、ナポリのワインの特徴です。ナポリのトラットリアなどででてくるワインの味わいです。このワインはカンパーニアのマンマの料理や郷土料理、たとえばモッツァレッラ ディ ブッフ ァラやピザ、パスタ、あと白身肉によく合います。

トスカニー:モッツァレッラ ディ ブッファラは白と赤とではどちらが合うのですか

ピエロ社長:私たちは赤を好んで合わせます。モッツァレッラは脂質も多いし、しっかりとしたストラクチャーのある味なのでこのラクリマぐらいの赤と本当によく合いますね。

フルーツバスケットのイメージ通りのアリアニコ
ピエロ社長:アリアニコ カンパーニア ロッソです。これはアヴェッリーノの中のイルピニアで造っていて、先ほどのラクリマよりもしっかりとした味わいです。アリアニコはカンパーニアの重要な品種で、果実の特徴を表現するために木樽の使用は最小限にしています。果実の香りがベストにでるように気を付けています。樽で熟成させた後、果実の酸があまり前に出ないようになるまでゆっくり瓶熟成を行ってからリリースします。このアリアニコは合わせるお料理も幅広く、食事全般と合わせてもらえます。

トスカニー:上のクラスのアリアニコの「レディモーレ」との違いはなんでしょう

ピエロ社長:レディモーレは単一畑で、このロッソは色々な畑のアリアニコを使っています。レディモーレはタウラージの指定エリアではあるのですが、この単一畑で造られるアリアニコは非常に個性が強いので、樽をしっかり使った熟成をさせるとその特徴が生かされないんです。レディモーレとは「ベリーの王様」という意味なのですが、まさにベリー感いっぱいの味わいです。

1934年タウラージラディチリゼルヴァが2007年のバックヴィンテージテイスティング(ガンベロロッソ主催)で99点とほぼ満点を獲得
トスカニー:アリアニコが北のネッビオーロと比較されることもありますが、そのあたりはいかがお考えですか?

ピエロ社長:アリアニコとネッビオーロは非常に似ている品種だと思います。エレガントさや、ベリーのような香りと乾いたタンニン、アフターのスパイス香りなど、非常に似ている要素があります。でも、違いとしてはアリアニコのほうがより長期熟成にむくポテンシャルを持っています。80年や90年たったヴィンテージのものでも「いまでも飲める」と評価されています。

高得点をとったガンベロッソ誌の記録

ピエロ社長:タウラージ ラディーチ リゼルヴァ1999年です。私たち家族の宝石のようなものです。一滴一滴が自分たちの息子のようなものです。リゼルヴァはいいブドウをセレクトしながらっています。もっとも重要なワインです。2011年にガンベロロッソやエスプレッソ、など6つのイタリアワインガイドのテイスターが集まるテイスティング会でタウラージリゼルヴァが「イタリアの中で最も素晴らしいワイン」に選ばれています。

モンテマラーノにある単一畑のブドウから選別。収穫は11月で、このエリアでも断トツに遅いです。飲んで頂いて感じられたと思いますが、99年ヴィンテージでありながら実に生き生きしたフレッシュさがあり、まだまだこれから熟成していきます。果実味、花の雰囲気、飲んだ後に感じるスパイシーさ。99年ですが、フルーツ香がしっかりあるし、酸味もしっかりあります。

トスカニー:タウラージリゼルヴァの一番新しいヴィンテージは何年になるのですか?

ピエロ社長:2005になりますが、毎年造るわけではありません。

トスカニー:97年と99年について教えて下さい。

ピエロ社長:97年のほうが2年長く熟成されているので、より上品で洗練されています。気候的には99年のほうが暑かったのでワインもしっかりした味わいですし、これから何年後かにはもっと美味しくなっていると思います。一方97年は気温が低かった分、酸がエレガントでバランスの良い味わいになっています。気候の特徴としても10月があたたかいというクラシカルな気候だったので、本来のタウラージらしい味わいになっています。私個人としては97ヴィンテージのほうが好きです。

インタビューを終えて

今回最も印象に残ったのは、ピエロさんのお父様で先代のアントニオさんが、戦後地域のブドウ栽培の復興に大きな役割を果たした事。そして、カンパーニアから3つのDOCGを出すに至ったのは、彼らの大きな貢献によるものだということでした。ワイン造りに大切な3つの要素を上げながら、それに向き合うのは人である。そして、マストロベラルディーノは10代に渡って、真剣に向き合ってきた結果、今の品質があるということを心に刻みました。

また、ポンペイの遺跡の中で造られる、イタリアのシンボル的なワイン、ヴィッラ デイ ミステリがほとんど流通していないのにも関わらず、トスカニーにある!というのもなんだか嬉しい事で、是非、イタリアのロマンを追い求めて、お召し上がりいただければ嬉しい限りです。

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